一緒に居て楽しい相手だと思うよ
ラズさんと一緒にカップル限定パフェを食べに行った店で、偶然アハトとエヴァの二人と出会った。
しかし相席するのは二人に悪いだろうと考え、軽く雑談をした後はそれぞれ別の席に座って食べる事にした。
既に半分程度食べ進めていた俺とラズさんに比べ、アハトとエヴァはここからの注文なので時間もかかるし、気を使わせてしまってもいけないので食べ終えた後は一声かけてから店の外に出た。
パフェを食べた事でラズさんの目的は達成した訳だけど、このまますぐに帰るというのもアレだったので、腹ごなしも兼ねてラズさんと一緒に街を回る事にした。
「あぅぅ……食べすぎちゃいました……」
「ラズさん? 大丈夫ですか? フラフラしてますけど……」
「体が重くて飛びにくいですよ……」
どうやらラズさんはかなり食べ過ぎたらしく、少しゲンナリした様子でふらつきながら飛んでいた。
まぁ、尤も……食べ過ぎたと言っても、あくまでラズさんのサイズから考えれば、だ。この際ハッキリ言っておこう……俺の方が食べ過ぎてる!
いくらラズさんは精一杯食べようが、精々全体の5分の1、良くて4分の1程度の量であり、残りのパフェ……二人前の大きなパフェの80%近くは俺が食べてる。
正直結構胸焼けしていたりもする……もし今度ラズさんと食事に行く事があれば、ミニサイズで頼もう。
「良かったら……俺の肩とか、乗りますか?」
「え? いいんですか?」
「はい」
「わ~い。ありがとうですよ!」
俺が提案すると、ラズさんは目を輝かせ嬉しそうに笑顔を浮かべながら、俺の左肩にちょこんと座り、バランスを取る為に俺の首に片手を置く。
小さくマシュマロみたいに柔らかいラズさんの手が、俺の首に触れる感触は、なんともくすぐったかった。
「ラズさん、どこか行ってみたい所はありますか? と言っても、俺もあまり詳しい訳ではありませんが……」
「う~ん……あっ、ノイン達にお土産買って帰ってあげるです!」
「成程……ラズさんは優しいんですね」
「え? えへへ、そうですか?」
俺の肩に座りながら可愛らしく手を挙げて宣言するラズさんが、どうしようもなく愛らしく、つい反射的に手が伸びラズさんの頭を撫でる。
とはいえ流石に掌では撫でられないので、指二本で撫でた感じだが……
そして一撫でしてから、いくら小さいとはいえ年上相手に失礼だったかもしれないという考えが頭に浮かんだが、ラズさんは嬉しそうににこっと笑う。
「カイトクンさんの手、優しいです……も~と、撫でてくれても良いんですよ!」
「はい、それじゃ、お言葉に甘えて」
「えへへ」
どうやらお気に召して貰えたようで、ラズさんは可愛らしくもっと撫でてと要求してきて、その小動物みたいな可愛らしさに癒されつつ頭を撫でる。
しばらくそのままラズさんを撫でてから、手を離すと、ラズさんはこちらを見て愛くるしい笑顔を浮かべる。
「カイトクンさんは、ぽかぽかです!」
「……ぽかぽか?」
「はいです! 太陽さんみたいに暖かくて優しいです! ラズは優しいカイトクンさんが大好きですよ~」
「あはは、ありがとうございます」
成程……ぽかぽか暖かいって事か……いちいち表現が可愛らしい方だ。
ニコニコと楽しそうなラズさんを見ていると、自然と俺も笑顔になり、そのまま楽しく雑談をしながら街を歩いて行った。
目的のお土産も良いものが見つかり、その後ぐるりと大通りを一緒に回ってみた。
ラズさんは面白そうな店を見つけては、大はしゃぎになり、なんというか結構振り回された感じだが……全然苦では無く、むしろオーバーな程喜んだりはしゃいだりするラズさんに思いっきり癒された。
そんな楽しい時間はあっという間に過ぎて行き、夕暮れが大通りを照らす時間帯になると、ラズさんは俺の肩から離れそろそろ帰ると告げる。
「カイトクンさん! 今日は本当に、ありがとうございました!」
「いえいえ、俺の方こそ楽しい時間を過ごさせてもらいました」
「ラズもい~っぱい楽しかったですよ! えへへ、お揃いですね~」
「あはは、そうですね」
大きく両手を広げいっぱい楽しかったと表現するラズさんに、俺も笑顔を浮かべながら言葉を返す。
「カイトクンさん、また一緒に遊びに行きましょうね~」
「はい、喜んで」
「えへへ……あっ、そうです! カイトクンさんに、お礼するです!」
「……お礼?」
良い事を思い付いたと言いたげな表情を浮かべた後、ラズさんは俺の顔の周りをくるくると飛び始める。
なにをするつもりなのかと首を傾げていると、ラズさんはそのまま十回ほど回転した後で俺の体に近付いてきて……
「ちゅっ」
「……え?」
そのまま小さな身体を精一杯伸ばして、俺の頬にキスをした……えぇぇぇ!?
「ちょ、ら、ラズさん!? 一体何を……」
「えへへ、知ってますか? 妖精にキスされると幸せになれるんですよ~」
「……そ、そそ、そうなんですか……」
「はいです! でも、妖精のキスは特別なのです。とっても、と~っても『大好きな異性』にしかしないんです!」
どうやら動揺しているのは俺だけみたいで、ラズさんはむしろ楽しそうに笑顔を浮かべていた。
妖精にキスをされると幸せになれる……いってみれば、これは妖精族版の祝福みたいなものだろうか?
「ちなみにラズも、初めてしました~! クロム様も大好きですけど、クロム様は女性ですからね~」
「……そ、そうなんですか……でも、俺にしちゃって良かったんですか?」
「勿論ですよ~カイトクンさんとラズはカップルです。と~っても仲良しなのです!」
「そ、そうですか……」
とてもという部分を強調しながら、ラズさんは本当に心底楽しそうに告げる。
夕日を背に無邪気な笑顔を浮かべるその姿は、まさに妖精……愛くるしさと神秘的な雰囲気を合わせ持った存在に見えた。
相変わらずカップルの意味は勘違いしてるみたいだけど……これは、深く考えなければ、ラズさんと仲良くなれたって事なのかな?
「カイトクンさん! 今度はラズの畑に遊びに来て下さい~一緒にお野菜さんや果物さんを採るです!」
「え? あ、はい。是非」
「わ~い。楽しみですよ~」
「……」
毒気を抜かれるというのは正にこの事で、無邪気に喜ぶラズさんを見ていると、変に動揺していたのが馬鹿らしく思えてくるから不思議だ。
拝啓、母さん、父さん――ラズさんは天真爛漫で、凄い力を持っているらしいけど、子供っぽく可愛らしい方だ。その行動には色々驚かされたりもするけど、なんだかんだで――一緒に居て楽しい相手だと思うよ。
神界の頂点に位置する神域……そこでは創造神シャローヴァナルが静かに虚空を見つめていた。
否、虚空に映る景色は歪んでおり、そこから凄まじい威圧感と共に強大な力が溢れ出ていた。
『理解、不能』
「こちらの要求が理解できないという事でしょうか?」
『否、内容、理解。汝、真意、不明』
「要求の内容は理解できるが、それを要求してくる意図が分からないと、そういう事ですか?」
『肯定』
シャローヴァナルが金色の瞳で見つめる先には、電子映像かと思うような極彩色の瞳を光らせる存在が居た。
無機質な声で返答してくるその存在に対し、シャローヴァナルは同様に抑揚のない声で告げる。
「こちらの意図を理解していただく必要はありません。要求を飲んで頂けるかどうかの返答を聞きたいです」
『返答、要求、却下』
「……そうですか」
『補足、条件、提示』
「……おや?」
実はシャローヴァナルとこの存在は、今までも何度か交渉を行っていたが、中々シャローヴァナルにとって望んだ答えは返ってこなかった。
相手はシャローヴァナルをして『石頭』と表現する程融通のきかない存在であり、その事を考えると補足された言葉はかなりの譲歩に思えた。
『我、関心、獲得。汝、変革、原因、人間、驚愕、故、関心。要求、面会』
「私に変革をもたらした人間に興味が湧いたと、一目会ってみたいと、そういう事ですね?」
『肯定』
「……構いませんよ。こちらに来るのですか?」
『分体、訪問』
「分かりました。分体をこちらに送るのですね……そしてその相手と対話させれば良いと」
『補助、不要。我、対象、捜索、監視、接触、期待』
「……自分で探すので手助けは不要、ですか……」
相手の要求はシャローヴァナルが要求を行うに至った原因との接触であり、シャローヴァナルは少し考えてからそれを了承する。
すると相手はシャローヴァナルの世界に分体を送ると告げ、その後自分で対象を探して接触すると続けた。
「……もし仮に、その相手が貴方の期待通りでは無かったとしたら?」
『裁定基準以下、存在、不要。故、対象、末消』
「……それは許しません」
『……承知、前言訂正、対象、生命、保証。裁定手段、会話、限定』
「ええ、お願いします。それで、来訪はいつ頃?」
『時期、未定、準備、必要』
「分かりました……では、準備が出来たら連絡してください『異世界の神』よ」
シリアス先輩「ガタッ!? こ、ここでまさかのシリアス風新キャラ!? ま、まだ、まだだ! 私は、騙されない……どうせまたブレイクされるんだ……期待なんて……ぐすん」