妖精族随一らしい
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
昼下がりの賑やかな大通りを、ラズさんと並んで歩く……まぁ、歩いているのは俺だけで、ラズさんは背中の小さな羽をパタパタと動かしながら飛んでいる。
これが普通に散歩しているだけならともかく、困った事に現在俺とラズさんはカップル……という名目で限定パフェを食べに向かっている訳なんだけど……冷静になってみるとそれってどうなんだ?
ラズさんの身長は、細かい数値までは知らないが30cmくらい……俺との身長差は140cmぐらいあるだろう。
少なくとも今の自分の姿を客観視してみても、カップルには見えない……妖精と一緒に歩いてる人間が限界だ。
しかし店に行ってカップル限定のパフェを食べれば、周囲からはそういう目で見られる訳で……そうなった場合俺は社会的に大ダメージを……
っとそこまで考えて頭にはクロの姿が思い浮かぶ……うん、今さらだった。
そんな余計な事を考えつつも、俺はラズさんと雑談を交わす。
「へぇ、じゃあ、以前見たクロのお城の裏にラズさんの畑があるんですね」
「そうなのです! ラズはい~ぱいのお野菜さんや果物さんを育てているのです!」
ラズさんが米や野菜を育てているというのは知っていたが、話を聞く限りかなり大規模の農園があるみたいだ。
「成程……ラズさんは凄いんですね」
「え? そ、そうですか? ラズ、凄いですか?」
「はい。とても凄くて尊敬します」
「そ、そうですか……えへへ、褒められちゃいました! えっへんです!」
……なんだろうこの可愛い生き物は……小さな身体を精一杯動かしながら、全身で喜びを表現するラズさんは、それは小動物のような可愛らしさである。小さいものは可愛いとはよく言ったものだ。
元気よく飛びまわりながら喜んでいるラズさんを見て、自然と笑みが零れるのを実感しつつ歩を進めた。
目的の店に辿り着いてすぐ感じたのは、俺の心配が杞憂であったという事。
オープンカフェのようで屋外にある多くの席には、様々なカップルが座っていた。
3m近くありそうな魔族らしき男性と、120cmに満たないドワーフっぽい女性のカップルも居て、目算でその身長差は2m近くある。
どうやら多種多様の種族が親しき隣人として暮すこの世界において、身長差のカップルは特に珍しいものでもないみたいだ。
実際席に案内してもらった後、店員にカップル限定パフェを頼んでも、特に疑問に思われる事もなくすんなりと注文を受けてもらえた。
ラズさんのサイズがサイズなので、ついでに紅茶用のティースプーンを持って来てもらう事にする。
「楽しみですね~まだですかね? もう、そろそろですかね?」
「ラズさん……今注文したばかりですよ」
「あや? そうでした」
余程パフェが楽しみなのか、ラズさんはそわそわと机の上で体を動かしていた。
残念ながらこの店に妖精族用の椅子は無いみたいで、ラズさんは椅子の上に小さな靴を置き、机の上に座っている。
「ラズさんは、パフェが好きなんですか?」
「はいですよ! パフェはとっても甘くてふわふわで、ラズ大好きです……でも、お店のパフェは大きくて、ラズ一人では食べれないですよ」
確かにラズさんの身長から考えると、普通のパフェは大きすぎる……それこそ物によってはラズさんより大きいパフェもありそうだ。
そしてその予想は正解だったみたいで、しばらく雑談をしていると二人で食べる用の大きなパフェ……カップル限定パフェが運ばれてくる。
フルーツがふんだんに使われているみたいで、見た目も鮮やかで美味しそうだ。
「わ~待ってました~カイトクンさん! カイトクンさん! 早く食べましょう!!」
パフェの登場でラズさんのテンションは一気に上がり、キラキラと目を輝かせながら自分の体より大きいパフェを見つめる。
その可愛らしさに癒されつつ、俺はティースプーンをラズさんに手渡したが……大きな誤算が発生した。
ラズさんの体のサイズなら通常のスプーンは大きすぎると思ったが、ティースプーンでも十分すぎるほど大きく、ラズさんが持つとまるで槍を持っているみたいだった。
「……ラズさん、それ、口に運べます?」
「あぅ、む、難しそうです……」
「ですよね……ちょっと、貸して下さい」
やはりティースプーンでもすくって自分の口に運ぶというのは難しそうだったので、俺はラズさんの持っているティースプーンを取り、微笑みを浮かべながらラズさんに尋ねる。
「ラズさん、どれが食べたいですか?」
「え? 食べさせてくれるんですか!?」
「はい。このスプーンは大きすぎるみたいですからね」
「わぁ~カイトクンさん優しいです! ありがとうございます!」
ラズさんが自分で食べるのが難しいなら、俺が食べさせてあげればいい。
そう考えてスプーンを手に持ちながら聞くと、ラズさんは少し考えた後でイチゴに似たフルーツを指差しながら、それが食べたいと告げる。
「ここですね? はい、どうぞ」
「あ~ん……はむっ」
ご要望の部分をすくってラズさんの前に出すと、ラズさんは口を広げてパフェにかぶりつく……まぁ、それでもスプーンに乗ってる内の半分も食べれて無かったけど……
「ん~美味しいですよ!」
「そうですか? それは良かった」
「はいです! あっ、カイトクンさんも食べてください! ラズにはこのパフェさんはいっぱい過ぎるですから」
成程。ラズさんが一口食べて、残った部分を俺が食べれば丁度いい感じになるのか……あれ? でも、それって間接キスなんじゃ……まぁ、良いか。
ラズさんも特に気にしていないみたいだったので、俺はスプーンに残っているパフェを食べる。
そして再びラズさんの要望を聞いてパフェをスプーンですくい、ラズさんに一口食べさせてから残りを食べる。
ラズさんは一口一口ごとに大袈裟とも言える程、幸せそうに身をくねらせ笑顔を浮かべる。本当に可愛らしい方だ。
そうやってパフェを食べ進め、ラズさんの愛くるしさに癒されていると……なにやら聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「まったく、なんでラズ姐と来なかったんだい?」
「い、いや、お前も甘いもん好きだろ? だからよ……」
「その気持ちは嬉しいけど、ラズ姐が可哀想だろ」
「……うっ、いや、まぁ確かに姐さんには悪い事したし、なにか帰りに土産でも――うん?」
「……あれ?」
「あ~! アハトくんとエヴァさんです!」
声のした方にラズさんと一緒に振り返ると、そこには青い肌の大柄な男性と狼耳の同じく大柄な女性が居て、その姿を見たラズさんは大きな声を二人の名前を呼ぶ。
「ラズ姐さん!? それにカイトじゃねぇか!?」
「久しぶり、アハト、エヴァ」
「久しぶりだねぇ~そっか、カイトがラズ姐を連れてきてくれたのかい?」
「ええ、まぁ……」
ラズさんの声を聞いて、アハトとエヴァもこちらに気付き、俺達の居たテーブルに近付いてくる。
そして質問に頷くと、エヴァは申し訳なさそうな表情で隣に居たアハトを殴る。
「そうかい、すみませんラズ姐。うちの馬鹿、気がきかなくて」
「良いんですよ~アハトくんとエヴァさんは夫婦さんなんですから、優先です!」
「そう言って貰えると……カイトもありがとう」
「あ、いえ、どういたしまして……」
どうやらエヴァは、アハトがラズさんの誘いを断った事を気にしているみたいでラズさんに頭を下げていた。
尤も、ラズさんの方は全く気にしていないみたいで、ニコニコと笑顔で気にしなくて良いと返していた。
そこでふと、前々から気になっていた事があり折角なので聞いてみる事にした。
「そういえば、前々から気にはなってたんだけど……なんで、アハトとエヴァはラズさんの事を姐さんって呼んでるの?」
「うん? そりゃ、ラズ姐さんの方が俺らより『年上』だからだよ」
「……へ?」
「ついでに言えば、ラズ姐の方が私達より『何倍も強い』よ」
「えぇぇぇぇ!?」
拝啓、母さん、父さん――人は見かけによらないとは言うけれど、本当にその通りというかなんというか……小さくて愛くるしいラズさんは、実は相当な年月を生きた大妖精で、その力は――妖精族随一らしい。
冥☆王「カイトくん! カップル限定のパフェがあるらしいから一緒に……あれ? 居ない」
目覚めるのです……目覚めるのです……30cmの妖精を愛でる性癖に……目覚めるのです。