胃痛の嵐の前の静けさ
アルベルト公爵家の執務室では、一通りの仕事を終えたリリアがルナマリアが淹れてくれた紅茶を飲みながら一息ついていた。
「……ふぅ、派閥のトップというのはいろいろ大変ですね。伝手が増えたおかげで仕事自体は楽になりましたが、ひとつひとつの決定が及ぼす影響の規模が大きいので、気を使いますね」
「本当にいつの間にやらシンフォニア王国貴族の最大派閥ですからね。さすがはお嬢様、異例のスピード出世に不詳ルナマリア、感涙と嘲笑が止まりません」
「笑ってるじゃないですか……まぁ、大半はカイトさんの影響ですけどね」
「そういえば、そのミヤマさまですが、最近はアルクレシア帝国で暴れ回っているようですね」
現在のリリアは名実ともにシンフォニア王国で最も力を持つ貴族と言っていい立場であり、当然ながらかつてと比べれば集まってくる情報の桁も違う。
他国への伝手も順調に増えているため、アルクレシア帝国の動きに関する情報も早い段階で入ってきており、リッチ男爵家周りの話や、シャロン伯爵家絡みの話も情報として入ってきていた……もちろん、原因も含めて……。
「本当に相変わらずというか、クリス陛下やエリス様の苦労が伺えますし、心の底から同情しています。ただ、その反面少しホッとしているというか……最近本当にアルクレシア帝国でいろいろ動いてるおかげで、こちらは結構平穏でありがたいなぁとは思いますね」
「利益は凄いんですよね。ハミルトン侯爵家、リッチ男爵家、シャロン伯爵家、どれもいきなり跳ね上がるように話題の中心に上がってきましたし、順当に貴族家としての力も上がるでしょう。アルクレシア帝国全体としても景気の上向き具合が凄いですし、複数の商会が動いてることもあって商人の動きも活発で活気がありますし、本当に素晴らしい利益ですね……ええ、順番にひとつひとつ発生するなら……なんであの方は、同時多発テロみたいに複数個所で大事を起こすのか、だからこそのミヤマ様なのか……」
最近は快人がアレコレ起こしているのがアルクレシア帝国ということもあり、リリアの方は比較的のんびりと平穏な状態と言えた。それを噛みしめるように告げるリリアを見て、ルナマリアは苦笑を浮かべる。
実際に快人がもたらす利益は凄まじい。2年前まで名ばかりの公爵と揶揄されることすらあったアルベルト公爵家が、いまやシンフォニア王国最大最強の貴族家となったのも快人の影響が大きい。
「なんにせよ、最近は居に優しい日々が続いていて助かってますよ」
「……そうですか、つまり、そろそろですか……」
「……なにがですか?」
「いえ、お嬢様がそうやって平穏を噛みしめていると、ミヤマ様は愛するお嬢様の胃を全力で殴りに来るので、そろそろ手痛い一撃がくるのではないかと……」
「恐ろしいことを言うのは止めてくれませんか!?」
確かに最近のリリアは平穏だ……いや、直近で言えば快人の誕生日パーティでいろいろあったのだが、それはまぁそれとして、それ以降は比較的平穏だ。
少なくとも数か月ぐらいは突発的な胃の痛い事態というのは起こっていないので、安心……もとい、油断していると言ってもいい。
「お嬢様、異世界にはこのような言葉があるらしいですよ……嵐の前の静けさと……」
「……ないですよね? なにも、無い筈ですよね」
少なくとも予兆のようなものはなにもない。だが、予想できるようならそもそもいままで数々の胃痛を受けてなどいないのだ。
リリアとルナマリアがそんなやり取りをしていた頃、快人の家の裏庭にある特殊な空間ではネピュラとカナーリスが会話をしていた。
「ああ、では、許可が出たんですね」
「ようやくって感じで∇∮◆£……あっと、こっちではティアナって名乗るんでしたっけ? ともかく、ティアナも喜んでましたよ。たはぁ~待ちに待ったでしょうから、気持ちは分かりますけどね」
「はしゃぎ過ぎないといいのですが、あの子は基本的にはしっかりしていますが、テンションが上がると時々失敗しますからね」
「ああ、たま~にドジやらかしますね。ある意味ではバーサークモードもテンションが上がった結果のドジみたいなもんでしょうし……まぁ、基本的には快人様に会うだけですし、問題ないのでは?」
「そうですね。ただ、主様の都合にはしっかり合わせるように伝えておいてくださいね」
「分かりました。日程に関しては、自分が快人様に確認して決めることにします」
リリアが預かり知らぬところで……ひっそりと、双極神ティアナの来訪が確定していた。だが、しかし、それだけでは無かった。
ほぼ同時刻、魔界ではクロムエイナとアリスが目の前にある大型の施設を見上げるように見ていた。
「できたね~遊園地」
「拘ったかいがあって結構いい感じになりましたね。後はまぁ、オープニングで大々的にイベントやりたいところですね」
「各界にからいろいろ招待しよっか……人界はとりあえず、王たちと……リリアちゃんでいいかな?」
「そうっすね。やっぱリリアさんすかね。あとはカイトさん周りでヒナさんやアオイさんとかも呼べばいいでしょ」
以前アリスがシャローヴァナルから貰った謎動力で動く遊園地の改良が完了し、クロムエイナからの出資と土地提供によって魔界の一角に遊園地が完成し、オープニングのイベントに関して話し合っており、当然ながら人界代表としてリリアの名前が候補に挙がっていた。
さらにほぼ同時刻、神界の神域ではシャローヴァナルが、どこか満足げな様子で頷いており、その隣にはマキナの姿もあった。
「……完成ですね」
「思った以上にいい感じになったね。いい感じに、この世界に合わせた温泉街って感じになったんじゃない?」
「そうですね。これで快人さんとデートした後に、そのままリリアにあげても問題はありませんね」
「そうだね。けど温泉か~いいなぁ、私も愛しい我が子と一緒に行きたいな~」
こちらも時間をかけて拘って造り上げていた温泉街が完成していた。そして、例によって快人とデートで使用した後は、リリアに下賜する気でおり……まさに、嵐の前の静けさというべきか……リリアに胃痛の嵐が迫ろうとしていた。
シリアス先輩「見ろ、アレが最強の胃痛戦士だ……すげぇだろ、異世界、魔界、神界からの同時攻撃だぞ……レベルが違うぜ」




