商会と専用ブラシ⑯
体調が回復が遅くなり結果、2日空いてしまいました。まだ万全ではないので、明日も休むかも?
窓の外で小鳥が囀るような音が聞こえる。ガラス一枚隔てているだけなのに、どこか違う世界のような感覚も覚える朝の景色。窓から差し込む光に目を細めながら、コーネリアは小さく微笑みを浮かべる。
「私としたことが、机に向かったまま少し眠ってしまっていたようですね。気付かないところで疲れでも溜まっていたのでしょうか……」
軽く苦笑しつつ独り言を呟いたあとで、コーネリアは手元の紙……『快人に渡す予定のヴィクター商会への紹介状』とヴィクター商会の商会長に向けた手紙を書いていく。
(変な夢を見たものです。紹介といえばもちろん紹介状ですし、こちらをカイト様に送って商会長にも事前に話を通して私の役割は終わり……もちろんなにかあった際には、紹介者として責任を取る必要はありますが……直接私がカイト様を案内するなど恐れ多いことですし、ましてや案内した先で戦王様や竜王様と偶然遭遇するだなんて……子供が書く夢物語の方がまだ現実的ですわね)
そんなことを考えつつ、サラサラと二通の手紙を書き終えたコーネリアは、分かりやすいように色分けした封筒にそれぞれ入れて封をする。
あとは使用人に手紙を渡せば、コーネリアの役割は完了だ。伯爵家の利益を考えるのであれば、もう少し積極的に快人と関わる方がいいかもしれないが、仮に下心のようなものを抱き悟られてしまったら大事になる可能性も高い存在が相手となれば、適切な距離感を保つのが一番と思えた。
「さて、手紙を私に行く前に少し身嗜みの確認を……」
伯爵家の長女であるコーネリアにとって身嗜みは大切なものであり、朝にしっかりと整えてはいるが、部屋を出る前には念のために姿見で全身を確認する。
姿見の前に立ち、己の姿が問題ないと、コーネリアがそう考えたタイミングで……突如『姿見に映ったコーネリアが動いた』。
『……でも、それで本当に結果が変わるのですか?』
「……え? なっ……」
鏡に映った己がひとりでに動いて腕を組みながら語り掛けてくるという、あまりにも異常な事態にコーネリアが驚いて後ずさるよりも早く、鏡の中のコーネリアは畳みかけるように言葉を続ける。
『確かに、その件はひとつの転換点といえるものではありました』
鏡の中のコーネリアが語った直後、鏡に別の光景……以前にハミルトン侯爵家の別邸で開かれた茶会の様子が映る。
『この際に、紹介とは紹介状を書くことであると伝えて、直接案内に赴いてカイト様と一緒に行かなかったとすれば、確かに竜王様や戦王様、セーディッチ魔法具商会の特別顧問の方々と知り合うことは無かったかもしれません』
「……え? あっ……そ、そうです。私は、もう既に……」
『過程は確かに変化するかもしれません。ですが、辿り着く場所は……変わらないのではありませんこと? カイト様が専用ブラシを気に入って知り合いに勧めれば、同じような状況になっていたのは想像に容易いでしょう。むしろ、その場合は私は直接お会いしたこともない名立たる方々に、名指しで指名されるという事態になっていました。そう思えば、偶然とはいえすでに一度挨拶を済ませている状態のほうがいいのでは?』
「……そ、それは、確かに……結果は……変わらなかったかもしれません」
ああ、そうだ。すっかり思い出してしまった。鏡の中のコーネリアが語ったことは、既に発生していること……コーネリアは快人を案内したし、マグナウェルともメギドとも知り合い、セーディッチ魔法具商会との話し合いの場にも同席が決まって……。
「……あれ? ちょっと待ってください……セーディッチ魔法具商会? な、なにか大事なことを忘れているような……」
「――ッ! ――ア! ――しろ――目を――コ――リア!」
「……な、なぜでしょう? 窓の外からお父様の声が聞こえるような?」
いつの間にか鏡に映っていたコーネリアは消えており、それどころか先程まで居たはずの部屋も消え……目の前には窓だけがあり、その先からなにか声が聞こえて来ていた。
その声に導かれるように、コーネリアはそっと窓を開け……そして、意識が覚醒した。
「――コーネリア!!」
「はっ!? お、お父様!?」
「しっかりするんだ! 泡を吹いていたぞ……気持ちはわかるが、気をしっかりと持て!」
「あ、そ、そうでした。あ、あまりの驚きに意識を……た、大変申し訳ございません、トロワ様」
「ああいえ、どうかお気になさらず。こちらも、もう少し順序立てて説明すべきでしたね。驚かせてしまう形になって、申し訳ない」
慌てた様子でコーネリアが謝罪すると、対面のソファーに座っているトロワは優し気な笑みを浮かべて問題ないと返してきた。
そう、ここはシャロン伯爵家の応接室であり、現在は前々から取り決めていた通りにセーディッチ魔法具商会との話し合いの場だった。
そこで唐突に投げかけられたとんでもない爆弾により、コーネリアはあまりの驚きに泡を吹いて数秒気絶してしまっていたのだ。
「……では、改めて、今後当商会とシャロン商会で共同研究及び開発を行っていきたい新技術に関して、順を追って詳細に説明していきますね」
「……は、はひっ」
穏やかなトロワの言葉に頷きつつも、コーネリアは心の中で叫んでいた「想像していた展開と違う!」と……なお、わざわざ確認するまでもなく原因は快人である。
シリアス先輩「……まぁ確かに……仮に、紹介に関して間違えなかったとしても、辿り着いていた状況は同じ……いやむしろ、そっちの場合は快人がコーネリアの状況をほぼ把握してない状態で、好き勝手にオススメしてた可能性があるから、もっと状況が悪かったのか……詰んでいたっ、最初からっ……」




