商会と専用ブラシ⑭
シンフォニア王都にある冒険者ギルドの建物の中、来賓用の綺麗に整えられた部屋で、俺はギルドマスターのシオンさんことカタストロさんと話をしていた。
話の内容は例の専用ブラシの話であり、そういえばカタストロさんも元の姿は別であるという話を聞いていたので、いちおう紹介してみることにした。
いや、カタストロさんの場合は獣人型魔族というわけではない気がするのだが……。
「なるほど、それは確かに素晴らしい品ですね。私も自身の美を磨くために、日々魔力浸透率には気を使っております」
「……えっと、普通の魔族とか人間はあんまり魔力浸透率は関係ないって聞きましたけど、シオンさんは獣人型魔族ってことになるんですかね?」
「いえ、私の場合は魔獣型魔族という分類ですね。近いのは竜種などでしょうか? 竜種は数が多いので竜種と一括りですが、生態としては魔獣型魔族と言っても間違いでは無いですね。本来の姿は別にあって、普段は人化した姿で過ごしているという形にあたります……ええ、元の姿を本来の姿と認めたくはありませんが、分類するのであれば魔獣型魔族です」
「ああ、なるほど、そういう本来の姿が別にある魔族は魔獣型魔族って言うんですね。結構数が居たりするんですかね?」
言われてみれば獣人型魔族は人型に獣の特徴がある文字通りの獣人という感じだが、竜種はフレアさんもそうだが本来の竜としての姿と人化した姿を使い分けている。
他にもそういう魔族が居るのも当然であり、そういった分類的な呼び名があっても不思議ではない。
「それなりに多いですよ。ただ、魔獣型魔族は本来の姿はそれなりに大型の者が多く、大抵の街には体躯の制限があるので街中で見かける機会は少ないでしょうね」
「……言われてみれば、メギドさんみたいな明らかに巨大な魔族とかって見かけませんね」
「店舗などは経営者が定めるので差がありますが、多くの街は基本的に三メートル以下のサイズに体を縮めるか、人化の魔法を使わなければならないという決まりがありますね」
「ああ、だから、メギドさんとかも普段街に来る時は基本人化してるんですね」
「どうしても、サイズが大きすぎると通行などの妨げになったり、意図せず物を壊してしまったりというのがありますからね。様々な種族が共存していく上で、そういった制限は必要です」
言われてみればもっともな話である。例えばメギドさんみたいな十メートル越えのサイズの魔族とかが、複数体大通りを歩いていたら、それだけで人の流れは滅茶苦茶になるだろうし、馬車道とかにはみ出る可能性も高い。
メギドさんがあんまりそういうのを気にするとは思えないが、たぶんクロ辺りに厳しく言われているのだろう。
「ミヤマ様の知人で言えば、冥王様のところの黒狼族の特殊個体やオーガ族の特殊個体などが魔獣型魔族ですね」
「ああ、確かにエヴァも本来は巨大な狼ですね。アハトも本来はかなり大きいですし、なるほど……じゃあ、そういう人たちにも専用ブラシは需要があるかもしれませんね」
「そうですね。もし、ミヤマ様が望まれるようなら、私の方から魔獣型魔族のコミニュティに宣伝をしておきますよ?」
「え? コミニュティとかあるんですか?」
「ええ、魔獣型魔族は先ほど言った体躯制限など留意すべき点が多いので、そういった情報を共有したり人化の魔法の指導などを協力して行ったりといった繋がりがありまして、各種族の代表にはすぐに連絡できますよ」
「あ~じゃあ、せっかくですし軽く宣伝しておいていただけるとありがたいです」
「畏まりました。お任せください」
竜種や獣人型魔族以外にも需要があるなら、宣伝してもらった方がいいだろうと思って返事をすると、カタストロさんは恭しく一礼した。
カタストロさんとの話を終えて家に戻ると、アニマが緊急速達で届いた手紙を持ってきたので受け取って部屋に移動してから確認する。緊急速達というのは、ほぼ出した当日に届くという非常に早い手紙であり、その分一通送るのにもそれなりの金額がかかる。
誰だろうと思って確認をしてみると、コーネリアさんからであり、手紙には専用ブラシの宣伝に対するお礼と……十分な注文が届いているので、これ以上は宣伝をしなくても大丈夫という旨が丁重に綴られていた。
元々、もう思いつく相手には宣伝を終わらせているので、これ以上宣伝する予定はなかった。手紙からでは感応魔法で感情を読み取ることはできないが、とりあえず注文がたくさん来て喜んでくれている感じなので少しでも力になれたのならよかった。
そう思っていると、部屋の中にアリスが現れて無言で俺にワイングラスを手渡してきたので首をかしげながら受け取る。
するとアリスは俺のワイングラスと、自分用に用意したであろうワイングラスにワインを注いで軽くグラスを合わせてきた。
「……乾杯。いや~ワインが美味しいっすねぇ」
「う、うん? なんで急にワイン?」
「いや~ちょっといいワインが手に入ったので、せっかくだからカイトさんと飲もうかと思いまして……あ、おつまみにチーズとかもありますよ」
「随分急な……まぁ、別に今日はもう予定もないし構わないけど……うん。確かにいいワインだ」
よく分からないが一緒にワインを飲もうということらしいので、付き合うことにしてソファーに座ってアリスと一緒にワインを楽しんだ。
シリアス先輩「すげぇよ、コイツ。前回のあの布陣から、まだ被害拡大できるんだぜ……そして、手紙だから感応魔法で感情が伝わらないという致命的な問題……」
???「手紙を読んだカイトさんの心境としては、『コーネリアさんは喜んでるみたいだからヨシ!』ですね」
シリアス先輩「ヨシ! ……じゃないのよ」




