商会と専用ブラシ⑧
魔界にあるクロムエイナの居城に帰ってきたテトラは、どこか上機嫌な様子で魔力探知を広げる。
「……お、居るね。なら、ついでに訪ねてしまおうか」
魔力探知によって目的の人物が居城内に居ることを確認し、テトラはそちらに向かって歩き出す。そしてしばらくすると、進行方向に目的の人物……ゼクスの姿が見えた。
「……やあ、ゼクス」
「これは、テトラ殿……ずいぶん上機嫌ですな」
「……さっきまで最高の時間を過ごしていたからね。そりゃテンションも上がるよ。ただ、悲しいかな……彼と過ごす時間はあまりにも早く流れ過ぎる。あっと言う間に終わってしまった感覚だよ」
「なるほど、ミヤマ殿に会われていたのですな……して、それはワシの元を訪れた用件に関係しますかな?」
ゼクスもまた伯爵級最上位クラスの実力者であり、テトラが魔力探知を行って己の場所を探した上で訪ねてきたのは理解していた。
故になにか己に用があるのだろうと判断して尋ねると、テトラは折りたたまれた紙を差し出しながら口を開く。
「……まずはこれを見て欲しい。仮組した術式だ。ボクはある程度は作れるとは言え、魔法具制作ではゼクスには遠く及ばないから、術式構成の拙さには目を瞑って欲しい」
「ふむ、どれどれ……なっ!? こっ、これはっ……」
「……では、それを見てもらった上で事の経緯を説明しよう。最初は、カイトが購入した専用ブラシに関しての話からだった……」
驚愕するゼクスを見て期待通りの反応だと言いたげな様子で、テトラは快人とのやり取りについて説明をしていく。専用ブラシに付けて魔力を変換させる道具があり、それを見せてもらって術式を仮組したこと、その後のやり取りなどを説明した後で……真剣な声で告げる。
「……カイトの持っていた品は、魔水晶は付いていないが内部で魔力を生成しているようで、カイトが持っている白い魔水晶に近い性質のものだろうから、ボクたちが手に入れるのは不可能だ。だが、その道具は魔法具と同様の術式で作られていた。恐らく、この世界の技術体系に合わせた形なのだろうね」
「そして、それをテトラ殿が見て魔法具を作成する場合……つまり、魔水晶を用いて作成する場合に合わせた術式を仮組したと……しかし、これは……」
「……刺激的だろう? なにせ、自身の魔力波長を別のものに変えるというのは超高等技術だ。幻王様はよく使っているらしいが、それは幻王様の技量があってこそ。ボクも多少はやれるかもしれないが、完璧に狙い通りの魔力波長に変えられる自信は無いね」
「そうですな。あまりにも術式が複雑になり過ぎますし、魔法具に転用など試すまでもなく不可能……と思っていたのですが……こんな、方法が……」
「……発案者はカイトのところの世界樹の精霊らしいが、発想があまりにも天才的だよ。魔力波長変換を工程ごとに十個の単純な術式に切り分けて、それを連動させることで成立させている」
「これは、唸りますな……確かに理屈としては理解できます。本来は魔力波長変換には、魔力の分解、魔力波長の消去、任意の魔力波長に変換できるように土台を整え、新しい魔力波長を付与、分解した魔力を再構成といった工程を同時に行わなければならないがゆえに複雑極まりないわけですが、それを別々の単純な術式として分けて、順々に連動と同調を行うことで簡略化……ですが、どこまでで分けて、どう連動や同調させるか……本来ならば気の遠くなるような試行錯誤を繰り返してようやく正解に辿り着けるものですな」
そう、その術式構成はあまりにも洗練されていた。可能か不可能かでいえば、現在存在する技術で再現可能ではある。だが、本来ならこの特殊な術式の形に持って行くまでに、幾度となくトライ&エラーを繰り返し、膨大な年月を費やしてたどり着ける正解と言えるほどに完璧だった。
複数の工程をどう切り分けるのか、そういう順番で組み合わせれば連動するのか、ため息が出るほどに美しかった。
「……たしか、術式を分割したまま成立させる方法を考案したのも、その精霊の子だったっけ?」
「ええ、恐らくはネピュラ殿が発案し、カナーリス殿が全知を用いて正解を導き出したがゆえにこの形に辿り着いたのでしょうが、そもそもの発想が素晴らしいですな。こうして形にした状態で見せられるとなるほどと膝を打ちますが、果たしてこの発想に辿り着けるか……分割術式を先に考案していたからこそ、複数の術式を連動させて大きな効果を発揮するという方法を思いついたのでしょうか? いやはや、なんにせよ。脱帽ですな」
心底感心した様子で呟くゼクスの言葉に同意するように頷きつつ、テトラは真剣な雰囲気のままで告げる。
「……そして、ここからが本題だ。ゼクス、専門家の意見が聞きたい。ボクはこれを見て、注いだ魔力を任意の魔力に変換する術式を魔法具に付与できると判断したが、どうだろうか?」
「可能ですな。もちろん、魔法具として成立させるにあたり試行錯誤して術式をある程度変更する必要はあるでしょうが、すでに一番難しい部分には答えが出されているわけですから、そう時間はかからず魔力変換を行える魔法具は作れるかと思いますな」
「……その前提の上で聞きたい。その機構を組み込むことで出来そうなこととして、『使用者が魔力を注ぐことで純度の低い魔水晶でも魔力消費の術式を発動できるようになる』『魔法具を使用して消費した魔水晶の魔力を自然回復を待たずに補充できる』『黒い魔水晶でも発動不可能だった術式を発動可能になる』……ボクがパッと思いついたのはこの辺りだが、可能だと思うかい?」
「……可能でしょうな」
いま、本当に静かながら……魔法具に大きな革命が起きようとしていた。
シリアス先輩「……お気づきだろうか?」
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快人「その品を魔法具にするなら、シャロン伯爵家に許可を取ってください」
テトラ「おかのした。共同開発って感じにするわ」
快人「じゃ、そんな感じでよろしく」
テトラ「シャロン伯爵家さん、一緒に魔法具に革命おこそ♪」
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シリアス先輩「……おいおい、死んだわ、コーネリアの胃」




