商会と専用ブラシ⑥
フレアさんとマグナウェルさんに勧め終わり、家に戻ってアメルさんの予定を確認しようと思ったのだが……そういえばよく読んでる雑誌の発売日が今日だったので、出てるついでに買いに行くことにした。
シンフォニア王国のニフティ店舗の近くを転移地点に登録しているので、そこに一度転移してから歩いて本屋に向かう形だ。
高級店街を抜けて大通りに差し掛かった辺りで、なんとも奇遇ではあるが見知った人物が前から歩いてくるのが見えた。
緩くウェーブした黄金色の髪に、目元まで隠すバケットハット、少しモコモコした感じのハイネックの上着にロングスカート、金と銀の美しい刺繍の入ったロングコートを着た小柄な女性……テトラさんである。
「こんにちは、テトラさん。こんなところで奇遇ですね」
「……やあ、カイト。偶然だけど、会えて嬉しいよ」
「お仕事ですか?」
「……愛しい君に会いに来たに決まってるじゃないか、ボクをこんなにも夢中にさせておいて相変わらずつれないね」
「いま自分で偶然会えたって言ったじゃないですか……」
「……ふふ、まぁ、実際は予算関係の打ち合わせで王都の支部に来ていた帰りだけどね」
目は見えないがどこか楽し気に口元を笑みに変えながら、透き通るような綺麗な落ち着いた声で話すテトラさんは、なんというか相変わらずどこまで本気で言ってるのか分からない感じだ。
「……そういえば、聞いたよカイト。少し前にトロワのところに遊びに来たって? 君を待ち焦がれていたボクのところに顔を出してくれないなんて、酷いじゃないか……まぁ、その日は外出していたけど」
「じゃあ、訪ねても居ないじゃないですか……」
「……居たら、会いに来て甘い一時を過ごしてくれたかい?」
「一緒にケーキでも食べますか?」
「……相変わらずつれないね、大好きだよ」
テトラさんは本心が読みにくいというか、いかにも「揶揄ってます」って感じの声や口調で話すので、どこまで本気かがよく分からない。
まぁ、本人はそういうところも含めて会話を楽しんでる気がする。
「……じゃあ、こうして会えたのもなにかも縁だ。カイトの予定が空いているなら、あそこのカフェでボクと甘い一時を過ごそうじゃないか」
「特に急ぐ予定も無かったですし、大丈夫ですよ。じゃあ、行きましょうか」
「……ところで、カイトは今日はなにをしていたんだい?」
「さっきまで、フレアさんとマグナウェルさんのところに行ってましたね。専用ブラシの使用感をお勧めするために」
「……ああ、ヴィクター商会で買い付けたってブラシかな? どうだい、いい品だったかな?」
「ええ、かなりよかったですよ。付加的な要素もあるんですが……」
テトラさんに誘われて、近くのカフェでお茶をすることになった。雑誌を買いに行こうと思っていただけなので余裕もある。他愛のない雑談をしながら移動し、カフェで席について注文を終えると……テトラさんは、どこか興味深そうな感じで呟いた。
「……魔力浸透率の均一化か……なるほどね。確かに、それは需要は高そうだ。いつの世も、美というものは金と同じぐらい人を虜にするからね」
「そういえば、テトラさんも獣人型魔族なんでしたっけ?」
「……ああ、分類としてはそうだね。ほら、角もあるよ」
そう言ってテトラさんがバケットハットを外すと、頭の横に羊のような巻き角が見えた……むしろ、どうやってその形状の角が普段あのバケットハットに収まってるのだろう? 不思議である。
「……まぁ、ボクは自分で魔力浸透率の均一化はできるから、ちゃんと毛先まで綺麗なつもりだよ……隅々まで確かめてみるかい?」
「確かにテトラさんの髪は、黄金みたいですよね。若干暗めの金色ですけど、艶があって綺麗ですね」
「……つれないと嘆くべきか、称賛に喜ぶべきか、君はいつもボクの心を迷わせる。手玉に取られているような感じも、嫌いじゃないよ。だけど、それはそれとして、もっとその話が聞きたいな……できれば、カイトが使っている魔力を変換するってやつを、見せてもらえないかな?」
「いいですよ。はい、どうぞ」
カナーリスさんは基本的に、物を創造する際にはシロさんとの契約があるのでこの世界の技術で再現可能な品を作る。一部アイシスさんの腕輪とか、神様の力でなければ不可能な品を作ることもあるが、それは事前にシロさんに許可を取って行っている。
今回のこのブラシの取っ手に付ける品は、ネピュラが頼んですぐ作っていたのでたぶんこの世界に存在する技術で再現可能な品のはずなので、見せても大丈夫だとは思う。
「……これは……へぇ、なるほど……こんなに小さくは無理だけど、魔法具で再現できそうな……そういえば、トロワがもうすぐシャロン伯爵家に……ふふふ」
「テトラさん?」
「……ああ、ありがとう。いいものを見せて貰ったよ。君は本当に、新鮮な驚きと素敵な金の匂いを届けてくれるね。会うたびにどんどん君を好きになるよ、愛してるよ、ダーリン」
「はぁ……ど、どうも」
「……おいおい、そこは乗ってハニーと返してくれてもいいじゃないか」
「テトラさんにその返し方をすると、言質取ったとか言い出しそうで……」
「……君は本当につれない。そういうとこ、本当に大好きだ」
楽し気に笑いながらバケットハットの縁を手で押し上げ、銀色の目で俺を見てパチンをウインクをしてきた。感応魔法で伝わってくる感情も、楽しそうな感じであり……相変わらずどこまで本気かは分からないが、とりあえず楽しそうなのでいいかと、そんな気持ちになった。
シリアス先輩「……前話までの布陣から、まださらに被害を広げられる余地があったのかと、胃痛の悪魔の底知れなさに戦慄する」




