商会と専用ブラシ③
目的とは違ったがコーヒーメーカーを手に入れたこともあり、せっかくだから帰りにコーヒー豆も買って帰ろうと考えた。
ただ、正直俺はコーヒーに関して詳しくない……いや、別に紅茶にも詳しくはないが……どの豆を選ぶべきか、ここはコーヒーに詳しい人に聞いてみることにしよう。
そう考えてやってきたのは、エリーゼさんの店である。扉の札を確認するとオープンと書かれている。エリーゼさんの店は、一組の客が入ると表の札が自動でクローズに変わるので、いまの状態なら問題ない。
「……こんにちは」
「……人間さんです。本当にいつもいつも、狙いすましたように客足が途切れたタイミングで来るですね。私の中で人間さんストーカー疑惑が、また一段階信憑性を帯びたです」
「とんでもない誤解は止めてください」
「まぁ、突っ立てないでこっちきて座るです。占いに来たわけじゃないと思うですけど、なんの用ですか?」
口調こそ若干呆れたような感じではあるが、エリーゼさんは基本的にこれがデフォである。椅子に座ることを促してくれるし、話も普通に聞いてくれる感じなので邪険にされていたりするわけではない。
というか、エリーゼさんの性格上都合が悪いなら普通に「帰れ」って言うだろうし、話を聞く態勢になってくれているなら大丈夫である。
「実はちょっとした切っ掛けがあって、コーヒーを淹れる魔法具を買ったんですよ。それで、コーヒーに詳しいエリーゼさんにお勧めのコーヒー豆とかを教えてもらえたらなぁって……」
「コーヒーを淹れる魔法具ですか? 豆の状態で探すってことは、豆から挽いて淹れてくれる形式のやつですか?」
「ええ、ちょっと机の上に失礼しますね。コレです」
「……これはっ……よく買えたですね。ああいや、人間さんならいくらでも特殊なルートで買えるですね」
俺が取り出した魔法具を見て、エリーゼさんは珍しく少し驚いたような表情を浮かべていた。エリーゼさんがこういう反応をするってことは、結構入手が難しい魔法具なんだろうか?
「買うのが難しい魔法具なんですか?」
「いや、というかコレ、五日前に出たばかりの最新型のやつですし、受注生産のみで注文受付の数も絞ってるですから、いまの段階だとコネが無いと買えないです。この手の受注生産式の高品質魔法具は、発売して数ヶ月経過してから受付制限が緩和されて買いやすくなるです」
「へぇ、なるほど……いや、俺はたまたまセーディッチ魔法具商会の特別顧問の方から買ったので……」
「そこから直接買い付けられる奴が、世界に何人いると思ってるですか……相変わらずの人間さんで、ある意味安心したです」
呆れたような表情で呟きつつも、エリーゼさんはコーヒーメーカーの魔法具を興味深そうに見ている。
「……実は、私もこれ買うかどうか迷ってたです」
「え? エリーゼさんが、自動でコーヒーを淹れる魔法具を?」
エリーゼさんは自分で豆の焙煎もしているし、豆を挽いたり淹れたりするのにも拘りがあるようだったので全自動の魔法具を買うというのは意外な発言だった。
「いや、常用するわけではなくて一度飲んでみたかったです。今回の最新型のやつは、かなり本格的なコーヒーが淹れられるって売り文句でして、セーディッチ魔法具商会が完全受注生産で売るぐらいですから……いったいどれぐらいの味なのか、飲んでみたかったです。でも、常用する気もないのに高価な魔法具を買うのもと思って迷ってたです」
「あ~なるほど……じゃあ、せっかくですしこれでコーヒー淹れて飲んでみます? いや、本当にさっき買ってきたばっかなので魔法具以外はなにもないですか……」
「いいですか? それなら是非飲ませて欲しいです。コーヒー豆とかフィルターは私が用意するです」
コーヒー好きとして、最新のコーヒーメーカーがどのぐらいのレベルのコーヒーを淹れれるか興味津々な様子で、エリーゼさんは俺の提案をふたつ返事で了承し、すぐにコーヒー豆やフィルター、コーヒーカップなどを持ってきてくれた。
どうもかなり興味がある様子だったので、さっそく持ってきてくれたコーヒー豆をセットして使用してみる。
「なるほど、挽き方もある程度大雑把にですが調整できるですね。これは期待が膨らむです。人間さんもたまには、いいことしてくれるですね。お礼も兼ねてケーキも用意するですかあ、食べるといいです」
「ありがとうございます」
やっぱりコーヒーは相当好きみたいで、珍しくテンション高めなエリーゼさんはケーキを持ってきて俺の前に出してくれた。
そしてそうこうしているうちにコーヒーが出来たみたいで、さっそくコーヒーカップに注いで飲んでみることになった。香りもいいし味も美味しい……が、俺にはそこまでよく分からないのでエリーゼさんの反応を見ることにした。
エリーゼさんはコーヒーを一口飲んで、感心したような表情で頷く。
「……これは、大したものです。コーヒーにうるさい私が飲んでも、そこそこの味だと感じるです。もちろん自分で淹れたほうが、細かく調整できるですし味は上ですが……全自動でここまでの味が出せるのは凄いです。下手な喫茶店やカフェのコーヒーより上ですね。技術の進歩を感じるです」
「そういえば、エスプレッソも淹れれるらしいですよ」
「エスプレッソもですか? 確かに極細挽きにもできるみたいですし、魔法で圧力をかければエスプレッソも……これひとつでいろいろできるのは凄いですね。感心したです」
どこか楽し気に頷いてコーヒーを飲むエリーゼさんを見つつ、俺はエリーゼさんが出してくれたコーヒーによく合うケーキを食べつつコーヒーを楽しんだ。
???「ちなみに、エリーゼはケーキはあまり好みではないので、ケーキはそもそもカイトさん用に用意してた可能性が高いですね」




