香織と映画鑑賞㉙
やはりと言うべきか流石と言うべきか、香織さんは着替えに戻っている間にしっかりと切り替えてきたようで、戻ってきた時にはいつもの香織さんという感じだった。
夕食の時と同じように俺の部屋に運んでもらった朝食を、美味しそうに食べている。
「ん~このクロワッサンは美味しいね! やっぱり、焼きたてのパンって美味しいね」
「そういえば、香織さんの店でもパン向けのメニューを考えてるって言ってましたけど、パンを焼いたりするんですか?」
以前に茜さんと一緒に試食したシチューのメニューは、パン向けの料理の試作品だったし、構想だけじゃなくてある程度の準備まで進んではいると思う。
しかし、パンを焼くとなるといろいろ大変そうな印象はあるし、そこはやっぱり仕入れになるのだろうかと思って尋ねると、香織さんは少し考えるような表情を浮かべる。
「う~ん、自分で焼けたらいろいろ楽しそうではあるんだけど、パンを焼くとなると設備がねぇ。旅してた時に一時期パン屋で働いてたから、いちおう焼けることは焼けるんだけどね」
「確かに、いまの水蓮の厨房でパンを焼くとなると、改装しないといけない気がしますね」
「いちおうオーブンみたいな機能の魔法具はあるから、焼こうと思って焼けないことはないんだけどね。それにそもそも、パン向けのメニューはまだ試作段階だからね。とりあえずは仕入れる形でいこうかと思ってるよ。人気が出てパン向けのメニューの数を増やすようになれば、またその時考えようかな」
「なるほど……」
「快人くん、どこか美味しいパン屋さんとか知らない? 私の店の近辺だと、コレって店は無くてねぇ」
「う~ん、パン屋ですか……」
基本的には俺もご飯を食べることが多いし……俺の家がある中央エリアが割と貴族向けというか、高級な店が多いのでパン屋は大通りまで出ないと無い。
大通りのパン屋も美味しいのは間違いないんだけど、あの店はむしろジャムの方が美味しいような……パンか……。
「……あっ、そういえば、ティルさんが小麦を作って卸してるとか話してた覚えが……ティルさんの作物作りの腕は確かなので、卸し先も美味しいパン屋がありそうな気がしますね」
「ティルさん? う~ん……なんか嫌な予感がするね。それ、愛称だよね? フルネームだと……ティルタニア様とか、そんな名前じゃないのかな?」
「ええ、七姫のティルさんですね」
「私聞く相手間違えたかも!? サラッと、六王幹部を挙げないで欲しいんだけど……仮にすごくいいとしても、そんな相手と交渉のしようがないから……」
ティルさんの名前を聞いて呆れたような表情でこちらを見てくる香織さんだが、今回に限って言えば実は提案した俺としても香織さんがなんとかできる可能性がある話題だと思っている。
「いや、それが……ティルさんはラズさんと凄く仲がいいので、香織さんもラズさんに頼めば簡単に紹介してもらえると思いますよ。俺が紹介しても問題は無いですし……」
「あっ、そっか、ラズ様も妖精だから繋がりがあるわけだ。それは確かに、ちょっと興味があるかも……」
「あと、俺の知り合いにトロワさんって方が居て、いろんな店とかに滅茶苦茶詳しいので、聞けばいい店を紹介してくれるかもしれませんよ」
「……なるほど……ちなみにその人って、なんか凄い人?」
「セーディッチ魔法具商会の特別顧問で、伯爵級高位魔族のハイトレントの方です」
「…………君、一般人の知り合いって居ないのかな?」
トロワさんはセーディッチ魔法具商会の営業部門の特別顧問であり、いろんな商会や店の商品を知っている凄い方である。
優しく話し上手な方で、割と気軽に相談はできるのだが……強いて問題点を挙げるなら、トロワさんに商品に関する相談をしたら、いつの間にか購入しているという事態がしょっちゅう発生する。
とにかく商品紹介が上手くて、話を聞いてるとドンドン購買意欲が上がっていく感じで、流石営業関係に強いだけあってセールストークも超一流だと感心するレベルである。
「トロワさんを紹介してもいいんですけど、トロワさん滅茶苦茶セールストークが上手いので、本当に気が付いたら契約してるとか、そういう事態になる可能性が高いですよ」
「そんな超敏腕営業相手は、ちょっと尻込みするというか……う、う~ん、考えておくけど、もしかしたらティルタニア様への紹介を頼むかも?」
「ええ、いつでも言ってください。ティルさんはラズさんと同じく社交的で楽しい方なので、たぶんすぐに打ち解けられると思いますよ」
紹介する相手としてティルさんはラズさんに並ぶ安牌というか、コミュ力が極めて高いので安心して紹介できる。
そんな風に他愛のない雑談をしつつ、香織さんとの朝食を楽しんだ。
???「一区切りついた感じですか……じゃあ、そろそろ散らばってる胃痛の不発弾が爆発しますね」
シリアス先輩「砂糖と胃痛のデンプシーロール止めろ……」




