香織と映画鑑賞㉘
カーテンの隙間から差し込む微かな光を瞼の奥で感じて、意識が急速に浮上する。俺は割と寝起きはいい方で、起きる時はスッと起きれるタイプではある。
ゆっくりと目を開けると視界に飛び込んできたのは、気持ちよさそうに眠る香織さんの顔だった……う、う~ん……あっ、そ、そうだった!? 結局あのまま寝てしまったのか……やってしまった。
一瞬驚いたものの、すぐに寝る前の状況を思い出した俺の心にはなんとも言えない罪悪感が湧き上がってくる。できれば香織さんが目を覚ますまで待とうと思ってたのに、アッサリ寝てしまっていたし……なんなら朝までぐっすりだった。
というか、あれ? おかしくないかこれ……すべすべした服の感触と柔らかい温もりが手に伝わってくる。そしてこの距離の近さ……俺も香織さんを抱きしめるような形になってない!? というか、完全に抱き合うような形じゃないか!?
寝てる間に無意識にこの形になってしまったのだろうか? と、とにかく、こんな状態で香織さんが目を覚ましたらなんて説明していいか、すぐに手を放して……。
「……んんっ……あふぅ」
「ッ!?」
しかし現実とはかくも非情なものであり、そのタイミングで香織さんが身じろぎしたかと思うと、少し眠そうな声と共に目を開け……バッチリ目が合った。
「……」
「……」
気まずい……とんでもなく気まずい。俺を見て一瞬ビックリした様子だった香織さんだったが、すぐに状況を察したのかなにやら気まずそうな表情を浮かべる。
慌てたりしていないってことは、もしかして途中で起きたりしたんだろうか……でも離れてないってことは……あっ、もしかして、その時にはもう既に俺が抱きしめてて離れられなかったとか、そんな感じか!?
「……お、おはよう」
「……おはようございます」
「……え、ええ~と」
「す、すみません。その、妙な状況だとは思うんですが……えと、その、なんか申し訳ない」
「う、ううん! 多分アレだよね! 私が寝ちゃって、そのあとで無意識に迷惑かけちゃった感じだよね!? むしろ私の方こそいろいろ迷惑かけちゃって、ごめんね!」
互いにどう動いていいか分からない状態とでもいうべきか、とりあえず話をという感じで言葉を交わす。幸い香織さんはかなり正確に状況を察しているみたいで、変な誤解とかをしている様子はなかった。
もちろん気恥ずかしさで顔を赤くしていたし、俺の顔も赤いと思うのだが、話自体はスムーズに進みそうで安心である。
「俺の方も、たぶんこれ、寝てる間にこの形になっちゃった感じですよね」
「た、たぶんそうだと思う。私、深夜に一度目を覚ましたけど、その時もこの形だったし……」
「いや、本当に申し訳ない」
「ううん、むしろ悪いのは私だし、快人くんが謝るようなことじゃないよ。というかたぶんこれ堂々巡りになりそうだから、一先ずどっちが悪いとかは止めよう。お互い反省点はあるってことで……」
「そ、そうですね」
とりあえず本当に幸いだったのは、香織さんが切り替えの早い方であったことだ。どちらが原因だとか、謝り合っていても話が進まないと、切り替えて次の話に移行してくれるのはありがたい。
「……い、いい加減離れようか、お互いに……」
「そ、そうですね」
そこで一呼吸置くと、まだ抱き合った形のままだったことに気付き、若干慌てながら体を離す。
「わ、私、寝汗とかかいてたかな? 変な匂いとかしなかった?」
「い、いえ、むしろいい匂いで……というか、その関連だと、むしろ俺の方が不快な思いをさせてないか心配なんですが……」
「あ、ああそれは全然大丈夫。いや、もちろん恥ずかしさは凄かったけど……べ、別に嫌とかじゃないし……と、とにかく! お互い問題なしってことで!! はい、この話終わり!!! と、とりあえず、私部屋に戻って着替えて来るね。あ、朝ご飯はここでいいんだっけ?」
「え、ええ、大丈夫です」
「じゃ、じゃあ、また着替えた後でこっちにくるね。そ、そんなわけでまた後で!!」
気恥ずかしさが勝ったのか、顔を赤くしつつ捲し立てるように告げた後で香織さんは部屋から出て行った。俺もなんとも言えない気恥ずかしさが残り、軽く頬をかく。
決して険悪な状況になったというわけではなく、香織さんの性格を考えると戻ってくるころにはいつもの香織さんに戻っているだろう。
ただそれはそれとして、抱きしめていた香織さんの感触が割と鮮明に記憶に残っているというか……今後結構意識してしまいそうな気はする。
ただ、香織さんの方も嫌では無かったという風なことを言っていたので……自惚れかもしれないが、ある程度は香織さんの方も俺を好意的に見てくれているのではないかと思う。
いや、考えるだけで結構恥ずかしいなこれ……とりあえず俺も着替えよう。
ポップ先輩「ぐあぁぁぁ、甘い……か、香織、なんて恐ろしい……しかも、ある意味一番難易度が高いというか時間がかかる部分である。快人の方に恋愛対象として意識させるという工程を完了してやがる……い、一気に次の恋人最有力候補か……」
マキナ「最高の流れで母も大満足だよ。それはそうと……そんな半端な名前の戻り方ってある?」
ポップ先輩「原因はむしろお前のような気も……」




