香織と映画鑑賞㉗
快人に抱きしめられている現状に落ち着きなく視線を動かしつつも、それでもまだある程度思考できる余裕があるのは、やはり一度ハグを経験しているというのもあった。
もちろんハグと同衾ではまるで違うのだが、それでもこうして密着しているという事態を一度経験しているという事実が微かながら心の支えとなっていた。
(……どう考えても夜明けまでは遠い。快人くんもぐっすり寝てる感じだし、快人くんを起こさずにこの状況を脱出するのは難しい。もちろん身体強化魔法を使えば引き離すことはできるけど、さすがに散々迷惑かけておいて深夜に起こすような真似は……)
身体能力という点では魔法込みであれば香織が大きく上回るため、抱きしめられている現状から抜け出せないということはない。
ただ、推測するに己が寝てしまった上に快人に無意識に抱き着き、少なくとも快人が諦めて寝てしまう程度の時間は拘束をしていたという事実により、その選択を選ぶのは気が引けた。
(転移魔法とかも無理だね。マジックボックスから魔法具取り出して~ってやるのにはかなり動くことになるし、そもそも快人くんの家には強力な転移阻害があるから転移自体が出来ない……う、う~ん……つまり、抜け出す手段はない……ってことだよね)
そこまで考えると、香織はチラッと快人の顔を見る。薄暗くてはっきりとは見えないが、微かに見える寝顔はどこか可愛らしさも感じた。
(……ま、まぁ、それなら……仕方ないよね。この状況が嫌かって言われたら、別にそういうわけじゃないし……な、なんか、凄く安心するというか、こことが落ち着く感じだし……とりあえずは、このままでいいかなぁ)
恥ずかしさはもちろんあるのだが、快人に抱きしめられているという状態に不快感などはなく、むしろどこか心地よさも感じていた。
香織にしてみれば気になっている……それなりに好意を自覚している相手である快人に対し、ガードはかなり緩くなっていると言ってもいい。ついでに言えば、現在は快人はぐっすり眠っているということもあって、恥ずかしさなどはあれども、赤くなった顔を見られたりという心配もない。
快人を起こしては悪いという大義名分の元、この状況をもう少し堪能したいという気持ちも湧いて出て来ていた。
(……も、もうほとんど全身密着してるようなものだし……快人くんの背中に回してる手を引っ込めようとすれば、快人くんを起こしちゃうかもしれないわけだし……そ、そうだよ。これは仕方ないことだから……私が迷惑かけておいて、快人くんを深夜に起こすとか駄目だから……仕方ないわけだし、体勢的な面を考えても、もうちょっとくっついておいたほうが自然なわけで……)
自分自身に言い訳をするようなことを考えつつ、香織は赤い顔をそっと快人の胸にくっつける。抱きしめる力などを強めたりしているわけではないが、それでも密着の度合いは上がったような気がして、ドキドキと胸が高鳴る音が聞こえた気がした。
(お、おぉ……快人くんって、優し気な雰囲気だからか、少し線が細く見えるような印象だったけど……け、結構しっかりした胸板というか、運動とかもわりとしてそうな感じというか……し、しっかり、男の子の体なんだなぁ……う、うぅ、ドキドキする)
あまり戦闘などを行うわけでもなく、普段はゆったりとした服を好んできている快人だが、陽菜の早朝のランニングによく付き合ったり、最低限の運動はしている。
その上、しょっちゅう5m近い体躯のベルフリードのブラッシングを始めとしたさまざまな手入れなどもしていることもあり、それなりに筋肉もあるのか抱き着いてみた印象としては想像よりガッチリしていた。
それが一種のギャップとなり、香織の胸の高鳴りを大きくする。
(こ、困ったなぁ……これ、思った以上に私の方が本気になっちゃってるというか……う、うわぁ、どうしよう、か、かなり幸せだよこの感じ……い、いや、私は別に快人くんと恋人とかそういうわけでもないし、こういうのは本来あんまよくないんだけど、いまはシチュエーション的に仕方ないし……)
心安らぐ気持ちと共に、どこか幸せな思いも湧き上がってきており、香織は快人に胸に顔を埋めたまま小さく微笑みを浮かべる。
(……快人くんはどうだったのかな? 私が悪いとはいえ、寝てる私の傍に居たんだよね? い、いや、快人くんが寝てる異性に変なことをしたりする子じゃないってのは確信を持って言えるし、間違いなくなにもされてないんだろうけど……それはそれとして、ちょっとはそういうことも考えたりとか……そういうのはあったのかな? 異性として意識してくれてたら……ちょっと……嬉しいな)
そんなことを考えながら幸せな温もりを全身で感じていると、再び眠気が現れ始めた。
(……眠くなってきちゃった。けど、まぁ、いいかな……快人くんもまだ起きる気配は無さそうだし、外は暗いし……温かくて幸せだし……このまま寝ちゃおう)
予想外の事態ではあったが、温もりと睡魔には抗いがたく……香織はそのまま目を閉じてまどろみに沈んでいった。
マキナ「素晴らしいね。今後の関係進展に期待が持てるよ」
ポップコーン先輩「あ、名前がちょっと戻ってきた。それはそれとして完全に恋する乙女じゃねぇか香織! マキナの大幅なアシストの脚本ありきとはいえヒロインしてるよ!!」
マキナ「いや、誤解しないで欲しいんだけど、我が子がココア飲んで寝たのとか、愛しい我が子の腰に抱き着いたりしたのとかは私はなにも関係ないよ。そのあとはちょっと手を加えたけど、もちろんどっちの思考にも変なことはしてないし、愛しい我が子が寝てる間に我が子を抱きしめたのもそうだし、今回我が子が愛しい我が子の胸で寝たのも私はなにもしてないよ。あとついでに言えば、愛しい我が子には我が子に抱き着かれていることでリラックスするようにしたけど、我が子の方には別になにもしてないよ」
ポップコーン先輩「やっぱり快人のラブコメ体質の方が問題か……あと、香織が本人の認識以上に快人に惚れてるのがほぼ確定してるじゃねぇか……」




