香織と映画鑑賞㉓
重みと言うほどではなく、本当に軽く寄りかかられている感覚とかすかに聞こえてくる規則正しい寝息。正直なところ状況を理解するまでに少しの時間を要した。
いや、思考が動いてしまえばすぐにどういう状況かは理解できるのだが、予想外の事態に一瞬頭が真っ白になってしまったという表現が正しい。
言葉にするのなら簡単だ。香織さんが俺にもたれかかって眠っているというただそれだけの話ではあるし、理由もある程度は予想できる。
先程布団に入ればすぐ寝てしまうかもしれないと言っていたので、ある程度疲れはあったのだろう。そしてココアを飲んで雑談をして、ホッと気持ちが安らいだ際に一気に眠気がきて眠ってしまったのだろう。
ある意味では、俺のことを隣で眠れるぐらい安心できる相手だと信頼してくれていると証拠ともいえるし、それは嬉しいと言えば嬉しいのだが……これ、どうしよう?
気持ちよさそうに眠っているのを起こすのは気が引けるし、かといってこのままの状態というのも問題だ。この姿勢のままで眠っていては、寝違えたりしそうだ。
どうするか……すぐ起きる可能性もあるし、このまま待つか? それとも、香織さんを横にするべきだろうか?
軽くもたれかかられている状態だし、手で支えて体を離す事はできるだろうし、香織さんを起こさないように横にすることも可能だと思う。
ただすぐに起きるならいいが、このまましばらく眠っているとしたら、ソファーに寝かせるよりベッドに運んだほうがいい気がする。
さすがに客室まで運ぶのは大変だが俺の部屋のベッドに寝かせるぐらいならできるとは思う。うん。とりあえずベッドに寝かせることにしよう。俺はソファーで寝ればいいわけだし、別の部屋のベッドを使ってもいい。
香織さんをベッドに寝かせることを決めた俺は、一度香織さんをソファーに横に鳴らせてから、ベッドの上の掛布団をどけて寝転がれる形にした後で、スヤスヤと眠る香織さんをお姫様抱っこの要領で持ち上げる。
……身体強化魔法を使っているのもあるのだが、かなり軽い印象でスッと持ち上げることが出来たが……う、う~ん、やっぱいい匂いがするし、手に伝わってくる感触も柔らかくてドキドキしてしまう。
寝巻だからか、思ったより服の生地が薄くて体温が伝わってくるし……ちょっとお姫様抱っこするのは早まったかもしれない。
恋人というわけでもない寝巻の女性に対して行うには軽率な行為だった気もするが、もう既に持ち上げてしまったのでいまさらではある。
とりあえず変に意識しないように心をできるだけ無にしながらベッドに運ぶ。
ここでもうひとつ重要なのが、ベッドのどこに寝かせるかということだ。もちろん寝返りとかで落ちたりしないようにベッドの真ん中あたりに寝かせるのが望ましいのだが……無駄にベッドが大きいせいで、ベッド脇に立った状態だと真ん中に寝かせるのは無理なので、ベッドに膝立ちみたいな形で上がってから香織さんをベッドの中央付近に出来るだけ優しく寝かせる。
気持ちよさそうな寝顔は可愛らしく、仰向けに寝かせたことで微かに上下する胸の膨らみにはつい視線が向かいそうになったが……そこはグッとこらえて、無心で掛布団に出を伸ばす。
そのままできるだけ優しく、香織さんに布団をかける。
「……んんっ」
「!?」
起こしちゃったか? ……いや、ただの寝返りか……よし、しっかり布団をかけて……。
香織さんが寝返りを打ったことで起こしてしまったかと焦ったが、特に問題は無さそうだったのでそのまましっかり香織さんに布団をかけた……直後に事件は起こった。
「……は?」
それをどう表現するべきか、大きなベッドでしっかりと布団をかけるには、俺が香織さんの体の上をまたぐような姿勢になるわけだ。
そしてその瞬間、一時的ではあるが俺の体が香織さんにかなり近くなる。そして、寝返りによって横向きの姿勢になっていた香織さんは、すぐ近くにあったであろう俺の腰に唐突に抱き着いてきた。
そう、まるで抱き枕を抱えるように両手でがっしりと……。
その結果としてなにが出来あがるかというと……寝ている香織さんの上をまたいだ状態で、身動きが出来なくなってしまった俺という構図である。
ど、どうするこれ!? かなり不味いぞ……腰をガッチリホールドされてるから、迂闊に動けない。かといって、このままの姿勢もよくない。
精神衛生上という面もあるが、なにより単純にこの姿勢のままでジッとしているのがキツい。
抜け出すのは……む、無理か? 体の向きを変えるのは……ソッとならいけるか? ホールドされている腰を起点に向きだけ上手く変えて……いや、でもその形で向き変えると……香織さんの横に寝転がる形になるのでは? い、いやでも、このまま手で体を支え続けるのが難しい以上は、そうするしか……。
シリアス先輩「ふぁっ!? そんな形で同衾に……あ、愛されてやがる……ラブコメの神に……く、くそう、また体が膨らんで……ぐあぁぁ!?」
マキナ「……我が子はまだ起きないようにつつ、それでも体は離さないようにして……いや、愛しい我が子が寝転がる姿勢になるタイミングで、抱き着く箇所が腰から胸になるように因果律を……」
シリアス先輩「てめぇぇぇ!? なにしてやがる!! 我が子同士のラブコメイベントだからって、外部から不正な運命操作を……」
マキナ「運命操作なんて、そ、そんな大袈裟なものじゃないよ。あくまで、普通に起こりうる未来の一つを後押しする程度の軽いやつで……互いに一定の好意があるのは確認済みだし……だから……えっと……私は愛しい我が子と我が子が仲良く並んで寝てる尊い姿が、見たいんだっ!」
シリアス先輩「開き直んなぁぁぁ!?」




