香織と映画鑑賞㉒
入浴を終えて体を拭いて脱衣所に移動すると、置いていたハミングバードの魔法具が点滅しているのが見えた。ハミングバードの魔法具には、スマホで言うところのスリープモードのような……待機モードというのが存在する。
寝る時などにこの状態にしておくと、届いたハミングバードは魔法具の中に収納され、眩しくない程度に魔法具が点滅している状態になる。
この状態の魔法具に触れると、届いているハミングバードが出現するので、触れて確認すればOKだ。
確認してみると香織さんからの連絡であり、俺の部屋を尋ねたいから風呂から上がったら連絡が欲しいということだった。
髪などを乾かしてマジックボックスから服を取り出して着替える。本来ならすぐに寝る気だったので寝巻にするつもりだったが、香織さんが来るならラフ目な普段着でいいだろう。
着替えた後でハミングバードでいまから部屋に戻る旨を伝えて自室に戻る。5分ほどすると、香織さんが尋ねてきたのでドアを開けて出迎える。
「いらっしゃい、香織さん」
「ごめんね、急に……いや、私って風呂上がったばっかりだとすぐには寝れなくてさ、快人くんさえよければ少し雑談にでも付き合ってもらえたらなぁって……あと部屋が広すぎてちょっとひとりだと落ち着かないってのもあってね」
「あ~なるほど、大丈夫ですよ」
香織さんの気持ちはわかる。俺もいまでこそ慣れたが、最初にこの世界に来たばかりの頃は割り当てられた部屋が広すぎて、なんか落ち着かないって気持ちはあった。
枕が変わると眠れないというのとは少し違うかもしれないが、部屋の雰囲気というか空気みたいなのが違うと、慣れるまでは多少なりとも気になるのは誰しもあるのだろう。
「あ、香織さん、なにか飲みます? 夜なのでコーヒーとかはアレでしょうから、ココアなんてどうです?」
「あるなら飲みたいけど、いいの?」
「ええ、少し待ってください。すぐ準備します」
誕生日にアリアさんから貰ったココアがあるのでそれを飲もうと考え、マジックボックスから缶を取り出す。
「うん? それって、紅茶の缶じゃないの?」
「見た目は紅茶の缶なんですが、中身はココアです。貰い物ですけどね。あとはこのミルクを……」
「そのミルクはなにか凄いやつなの?」
「凄いと言えば凄いような……カナーリスさんって知ってますよね?」
「うん。快人くんのところにいる全知全能の神様だよね?」
俺はココアは湯で淹れるよりミルクで淹れる方が好みなので、カナーリスさんに貰ったミルクを用意して、それを温め用の魔法具に入れつつ香織さんの質問に答える。
「ええ、そのカナーリスさんが、最近乳牛の品種改良をいろいろやってて……」
「にゅうぎゅうのひんしゅかいりょう……」
「なんでそんな、訳の分からない言葉を聞かされたみたいな顔で復唱を?」
「いや、全知全能の神様が乳牛の飼育してるって言われたら、こういう反応にもなるよ……」
「鶏とかも育ててましたよ。ま、まぁ、それでいろいろ試行錯誤していくうちに、ココアと相性がよさそうなミルクが出来たってことでプレゼントしてくれたので、それを使おうかと……」
「へぇ、なるほど、神様が試行錯誤して作ったミルクを……快人くんの周囲には、常識って柵は存在しないのかな……ま、まぁ、とりあえず凄いミルクだってのは分かったよ」
「本人的にはたまたまできたって感じでしたけどね」
カナーリスさんは神様パワーでなんでもやってしまうのではなく、アレコレ試行錯誤を楽しんだりするタイプなので、今回使うミルクも偶発的にできたものっぽい感じだった。
確か当初はニフティで出すスイーツ類に使えるミルクを作ろうとしていたわけだし、ココアに適したミルクというのはコンセプトが違う……ニフティは紅茶ブランドなので……まぁ、俺としては、ココアを飲むのにいいミルクが手に入って嬉しいのでまったく問題はない。
「どうぞ」
「ありがとう! う~ん、いい香り! 夜のココアってのはいいよね。なんかホッとするというか、寝つきもよくなりそうな気がするよ」
「香織さんは、普段の寝付きはどうですか? 俺は結構サッと寝れるタイプですが……」
「私も寝付きはいい方だと思うよ。寝ようと思うとすぐに寝れる感じだね。今日は凄く楽しかったけど、結構疲れもしたから、布団に入ると速攻寝ちゃうかもしれないね」
マグカップに入れたココアを香織さんに渡して、映画を見ていた時のようにふたりで並んでソファーに座って雑談をする。
風呂上がりだからだろうか、フワッと香織さんからココアとは違ういい匂いがした。
そのままココアを飲みながら香織さんと他愛のない雑談をする。のんびりまったりとした空気であり、どこか心地よさを感じながらゆっくりと言葉を交わす。
途中時折話が途切れて静かになったりするが、気まずい沈黙ではなく互いにリラックスしているという感じの間であり、心地よい時間が過ごせている気がした。
「……そういえば香織さん、明日の朝ご飯はなにか希望はありますか?」
「……」
「……香織さん?」
香織さんは朝食はこちらで食べる予定なので、パンとかご飯とかの希望があればと思って尋ねたが、いつもはすぐに返事をくれるはずの香織さんから反応が無く、首を傾げつつ香織さんの方を向くと、ちょうどそのタイミングで香織さんがコテンと俺の方にもたれかかってきた。
「……へ?」
「……すぅ……すぅ……」
……え? あれ? ちょっと待って……もしかして、香織さん……寝ちゃったのでは?
シリアス先輩「やばいやばいやばい……よくない展開だぞ、これは良くないぞ……」
マキナ「いけ! 愛しい我が子!! そこだよ、お姫様抱っこだ!!」
シリアス先輩「余計なこと言ってんじゃねぇぞテメェ!?」
マキナ「愛しい我が子が我が子をお姫様だっこするとか、私得の尊みMAXシチュエーション!! いけ~! 頑張れ、愛しい我が子!!」




