香織と映画鑑賞⑳
イリスのバーで軽く酒を楽しんだ後で、香織は宿泊予定の客室に案内されてから、入浴のために浴室にやってきた。
風呂場で偶然鉢合わせたりというハプニングが起こらないように、事前に話し合って香織が風呂から上がった後で快人に連絡し、快人はそれから入浴するという取り決めになっている。
「……ひっろ」
服を脱いで浴室に移動した香織は、思わずといった形で呟いた。風呂が広いというのは事前に聞いてはいたが、実際に見てみると、個人宅の風呂どころか並みの銭湯の風呂より広く大きい浴室であり、思わず圧倒されるような雰囲気だった。
(……はぇぇ、広いってのは分かってたけど……凄いなぁ。それに滅茶苦茶綺麗だし、シャワーとかの魔法具もこれ、一般家庭にあるようなやつじゃないね。お湯の勢いとかもかなり細かく調整できるタイプのやつだ)
感心した様子でキョロキョロと視線を動かした後で、まずは体と髪を洗うためにシャワーの前に移動する。
「えっと……この魔法具の隣の魔水晶に触れて……」
シャンプーやトリートメントなどは浴室のシャワーの魔法具のすぐ脇に、収納用の魔法具があるのでその中のものを好きに使ってくれていいと言われている。
香織が魔水晶に触れると、壁の一部がスライドしてシャンプーやトリートメントが置かれた棚が出現した。
(種類多っ!? えっと、確か快人くんが使ってるって言ってたのは、オレンジ色の容器の……あっ、これかな?)
快人の家に住んでいる者はこの浴室を使うので、それぞれが使っているシャンプーなどがあるため種類は多い。その中で香織は、事前に借りると話をしていた快人が使用しているシャンプーとトリートメントを手に取る。
(……そういえば聞いてなかったけど、なんか凄いシャンプーとかだったりするのかな? その辺も事前に聞いておくべきだったか……いや、まぁ、いまさらどうにもならないし気にせず使っちゃお)
むしろ成分は聞かなくてよかったかもしれない。なにせ、快人が使用しているシャンプーとトリートメントは、アリスがペット用のシャンプーを作る際に、どうせなら快人用の物も作ろうかと提案し、それ以降アリスが制作しているシャンプーであり、ペット用のものとは材料は違うが……共通要素として、ネピュラの世界樹の果実が入っている。
(う~ん、いい香り……泡も凄くきめ細やかっていうか、いいシャンプーだなぁ。市販されてるなら買いたいぐらいだけど、多分高いよね……)
知らぬが仏とはまさにこのことであり、原材料を知らぬがゆえに香織は特に気にすることなく髪や体を洗い、風呂の方に移動する。
風呂に肩まで浸かり、しっかりと両足を伸ばした香織は気持ちよさそうな笑顔を浮かべる。
「ん~やっぱ、広いお風呂はいいなぁ~開放感が違うよ」
思わずそんな独り言を呟きつつ、心地よさそうに目を細めた香織は……少しして、どこか楽し気な笑みを浮かべた。
(……ん~駄目だこれ、ちょっと顔がにやけちゃうなぁ……どうしても、ちょっと前の快人くんとの会話を思い出しちゃうよ)
そんな風に考える香織の頭に思い浮かぶのは、バーに行く少し前の快人との会話である。混浴云々の話で、あんまり揶揄うような真似はよくないと思いつつも、つい嬉しくなって話を引き延ばしてしまった。
そのことに関しては反省しているのだが、それ以上に嬉しいという気持ちが香織の中には湧いてきていた。
というのも、香織にとって快人は恋愛関連の経験値において自分を遥かに上回る存在であり、女性の扱いもよく心得ている人物だと認識していた。
香織に対しても綺麗だとか魅力的だとか、たびたび自然に告げてくれており、それ自体はとても嬉しかったのだが……同時に心のどこかで、自分は女として意識されていないのではないかという思いもあった。
快人の恋人や知り合いが美女揃いというのもあるが、なによりもこれまで快人が香織に対してそういった下心を感じさせるような様子が一切なかったのも理由である。
今回の家に誘われた際にも、宿泊を提案された際にも、快人には特に下心などは感じなかった。邪な考えは一切なくあくまで友人として香織と接しているというのは理解できたし、香織としても安心できる対応ではあった。
だが、それはそれとしてまったく女として意識されていないと感じるのも、それはそれで面白くないと思う部分があったのも事実である。
だからこそ思い出す。混浴関連の話になった際、元々顔に感情が出やすく、アタフタしていたこともあって分かりやすかった快人の反応……。
(……少なくとも、ちゃんと女として……そういう対象として見てくれてる部分もあるんだよね。意識して気恥ずかしそうにしてたし……)
もちろん恋愛的な意味合いでと思っているわけではないが、少なくとも己は情欲を感じる対象に入るのだと理解はできた。
快人に対して好意的な感情を抱きつつも、己程度の容姿では相手にされないのではとも感じていた香織にとって、その反応は嬉しく変にテンションが上がってしまった。
(えへへ、駄目だなぁ……これじゃあまるで、恋する乙女だよ。あはは、でもまぁ……完全な否定も難しいかな)
他に誰もいないからか、少しふにゃッと緩んだ笑顔を浮かべつつ香織は終始楽し気に入浴していた。
シリアス先輩「まるで、じゃなくて完全に恋する乙女なんですが!? って、また体膨らんできた!? これ、何発もあるのかよ!!」
マキナ「次はチョコかけて食べよう」




