香織と映画鑑賞⑰
香織さんが宿泊していくことになり、部屋の用意をイルネスさんに頼んだ後は追加で映画を見たり雑談をしたりしながら過ごし、夕食時になったら食事を俺の部屋に運んでもらった。
俺の部屋は他の部屋に比べて3部屋分ぐらいの広さなので、ふたりで食事もまったく問題ない。
「おぉ、コース系じゃないけど品目は多いし、かなり豪華だね……スープはポタージュかな? 美味しそう」
「コースみたいに出すこともあるんですが、俺や葵ちゃんや陽菜ちゃんがあまりそういうのに慣れてないのもあって、こんな感じで並べて用意してくれることも多いですね。料理長がいろいろ考えて工夫してくれてるみたいです」
「へぇ、料理長っていうとリリアさんの屋敷の方だよね? 船上パーティーの調理には直接関わらないってことだったけど、異世界料理には興味があったのか結構いろいろ話をして、互いに調理法とか教え合ったりしたね」
「おぉ、言われてみれば船上パーティー以降に、少し俺たちの居た世界の料理のテイストを取り入れたような感じの食事が出たりして来るようになった気がしますね」
船上パーティーの時は、あくまで主催は俺であり基本的には俺の家の人員と雇ったメイドの方々で行っていたので、料理長を含めたリリアさんの屋敷の料理人はあまり関わってはいない。
ただ料理長は結構貪欲に新しい調理技術とかを吸収する方で、個人的に興味があってメニュー作りとかを見学していたらしく、香織さんとも知り合いのようだった。
「さすが公爵家の料理長ってだけあって、技術とかも凄かったよ……うん! このポタージュも裏ごしが丁寧で、舌触りが最高だね」
「聞いた話ですけど、元々は王城に勤めていた料理人で、宮廷料理人が調理技術を競う競技会みたいなのがあって、それでベスト4に入ったこともあるらしいですよ」
「へぇ、そういう大会みたいなのがあるんだ」
「あくまで王城内で開催しているだけらしいですけどね」
料理長ともたびたび話すので、王城に勤めていた頃の話も何度か聞いたことがあるが、日々の研鑽の一巻かそういう競技会みたいなのもあるらしい。
一口に王城の料理人と言っても、城に勤める人は多く料理人の数も相当なものだ。使用人たちが食べる食事を作る人もいれば、パーティーなどの料理考案を任される立場の人もいて様々らしい。
……まぁ、その協議会での優勝者はベアトリーチェさんらしいので、料理人以外にメイドも参加資格はあるっぽいが……。
「これ美味しいなぁ……下処理が違うのかな? いや、この少し酸味のあるソースが決め手かも……」
香織さんは美味しそうに料理を食べつつも、時々プロの顔というか真剣に考えるような表情を浮かべており、気に入った味付けなどは真似てみようと考えているのかもしれない。
結構新作の試作をしたり、いろいろ試してるみたいだし料理にはかなり情熱を注いでる気がする。まぁ、なんにせよ楽しそうにしてもらえているならなによりである。
夕食を食べ終えて一休みとした後で、ふと俺は香織さんに声をかける。
「そうだ、香織さん。お酒とか飲みます?」
「お酒?」
「ええ、地下にバーがあるので」
「なるほど地下にバー……地下に……うん? なんで家の地下にバーがあるの?」
「なんでと言われると、アリスが勝手に作ったとしか……ちなみに店長は、死王配下筆頭の方です」
「あ、相変わらず常識の外にいるなぁこの子……ま、まぁ、でも、バーには興味あるし行ってみたいね。私バーとかあんまり行ったことないから楽しみだよ」
イリスさんも料理が得意だしいろいろ話がある部分もあるだろうと思って提案すると、香織さんは不思議そうな顔をしつつも乗り気で返事をしてくれた。
そのままふたりで部屋の外に出て、地下にあるバーに向かって移動する。階段を下りて地下に行き、もうすぐバーというタイミングで、アメルさんを連れてきた時のように香織さんもバーと反対の方向の道を見て首を傾げた。
「……快人くん、そっちがバーなら、こっちは? 食糧庫とか?」
「ああいえ、そっちは……武器屋ですね」
「武器屋? 武器屋って……あの剣とか槍とか売ってる武器屋?」
「その武器屋です」
「……なんで家の中に武器屋?」
「アリスが勝手に作ったとしか言いようが……でもまぁ、最近は葵ちゃんや陽菜ちゃんが利用してるので、まったく無駄というわけでもないのがなんとも……」
「あ~冒険者活動には確かに、武器防具は必要だよね。幻王様のお店なら品質は間違いないだろうし……」
「興味があるなら、ちょっと覗いでみます?」
「正直ちょっと興味はあるね。幻王様に迷惑とかじゃないなら……」
香織さんは幻王の店と聞いて興味はあるが若干遠慮しているような感じだが、その辺りは問題ないだろう。なんなら、なんか売りつけようと準備してるかもしれない。
そう思いつつ香織さんと共に武器屋に移動して中には居ると、例によってライオンの着ぐるみを来たアリスが出迎えてくれた。
「ようこそ……なんか雑貨屋よりこっちの方が客来る気がするんですが……」
「お前の雑貨屋は裏路地にある上に、気まぐれに閉めてて営業日とかが安定しないからだろ……」
「お、お邪魔します、幻王様! 今日も凄く可愛い着ぐるみですね」
「……可愛いですか?」
「え? 可愛いよ! あのふてぶてしい感じの顔とか、猫の着ぐるみも可愛かったけどライオンの着ぐるみも可愛いと思うけど……」
建国記念祭の時からそうではあったが、香織さんは割とアリスの着ぐるみに肯定的というか、趣味に合っているのか本当に可愛いと思っているようである。
心なしか、アリスも満足げに頷いてる気がする……クロとかも含めて、評価低めの人が多いからだろうか? まぁ、でも確かによくよく見れば女性人気が出そうなデザインではあるような……。
「……でもやっぱ中身がなぁ、そこ含むとどうも鬱陶しいって評価に……」
「酷くないですか!?」
「快人くん、幻王様にはまったく容赦ないよね。そ、それだけ仲がいいってことなのかな?」
シリアス先輩「ここで、アリス? ど、どうなるんだ? 香織はアイシスとかみたいに変なことを真に受けたりするタイプじゃないだろうし、そばには快人もいるから引っ掻き回せる状況じゃない気もするが……」




