香織と映画鑑賞⑬
とりあえず気を取り直す形で映画を見ることになり、快人がなにやら部屋の壁に近付いて掌を壁に押し当てると……ソファーやテーブルがスライドして、壁にプロジェクターのように映画を映して見るのに適した配置へと変わる。
「……え? なにいまの……あれ? 私、この世界ってファンタジーな感じだと思ってたんだけどSFチックな要素もあるのかな?」
「いや、これに関してはどっちかっていうと完全にファンタジー的なやつですよ。俺が壁に触れてシアターモードって頭で思い浮かべると、その壁をスクリーンに見立てた配置に変わるって機能なんで……」
「へ、へぇ……えっと、ツッコミ入れていいかな? なんで家作る時に、そんな機能を搭載しようと思ったの?」
「ああいや、なんていうかこの部屋には結構いろいろアリスが建てた時に搭載した。俺もよく知らない機能がいっぱいあるみたいなんですが……このシアターモードに関しては、極々最近追加された機能です」
「……そんな、部屋の配置をスライドさせるような機能を後から付けれるの?」
「まぁ、搭載したのが全知全能の方なので……」
「相変わらず常識の外側にいるよこの子……」
快人の説明を聞いて、香織はなんとも言えない呆れたような表情を浮かべた。快人の言葉通り、部屋の配置を自動で調整するシアターモード機能は、カナーリスがプレゼントしたタブレットを使いやすいようにと最近部屋に追加した機能である。
ついでに言えば、動力含めてどういう仕組みで動いてるのかはよく分からず。カナーリス曰く「ゴッドパワー」で動いてるらしく、魔法具等でもないこの世界的に言えば未知の機能ではあるのだが……そもそも快人の家に関しては、シャローヴァナルが制限を緩めているため、裏庭にある多重次元化した特殊空間に繋がる扉や、快人の部屋の門なども含めてこの世界の常識外の品はそこそこ存在しているので、いまさらではある。
「……まぁ、とりあえず映画見よう。さっきは私が選んだから、次は快人くんが選んでくれていいよ。快人くんのチョイスの映画も興味あるしね」
「分かりました。さっきはストーリー重視の恋愛映画でしたから、今度はアクション多めのものはどうです?」
「いいね。私有名どころのアクション映画とかも好きだよ」
次に見る映画は快人が決めるということになり、快人に促されるようにソファーに座った香織は、タブレットで映画を選んでいる快人を横目に見て、ふと考えた。
(……これ、距離感はどのぐらいで座るのが適切なんだろ? ソファーにふたりで座ってるわけで、快人くんと私の距離はどのぐらいが普通なのかな? 私と快人くんは恋人とかじゃないしあんまり近すぎるのも変だよね? かといって、一緒にソファーに座ってるのに思いっきり距離をとるのも失礼な気がする。と、とりあえずこの位置に座っておいて、後は快人くんに任せようかな)
異性と並んでソファーに座るというシチュエーションがそもそも初めてなこともあり、香織はイマイチ距離感を測りかねていた。
それは主に恋愛経験が不足していることに起因するのだが、では快人に任せれば適切な距離感になるのかと言われれば……実はそれはかなり怪しかった。
確かに快人は、異性とこうして並んでソファーに座ったりという経験も多いのだが、そもそも一番よく一緒にソファーに並んで座っているのは、初対面の頃から距離感が非常に近かったクロムエイナであり、快人はそれぐらいが普通であると認識している節があった。
「あっ、香織さん、この映画はどうですか? 結構有名なやつですけど、俺はまだ見たことないんですよね」
「はぇ? あ、ああ、賞取ったやつだよね。私もタイトルは知ってるけど、見たことは無かったから丁度いいかも」
候補となる映画を見つけた快人は、香織に近付いてタブレットの画面を見せた。
(……え? あの、近くないかな、これ? あんまりに自然に距離つめてきたから、全然反応できなかった。こ、これはちょっと近すぎるというか……恋人の距離感じゃないかな!? い、いや、あくまでいまはタブレット画面を見せるために近付いてるだけかな?)
根本的に恋愛経験が不足している香織は、いまの距離感……密着しているというほどではないが、少なくとも手元のタブレットの画面を見えるぐらいには近い距離が適切なものであるかどうかに迷っていた。
「字幕版と吹き替え版があるみたいですけど、どっちがいいですか?」
「私としては、吹き替え版の方がいいかなぁ……いや、字幕版は字幕版で良さがあるんだけど、吹き替え版の方がリラックスして見えるから好きだね」
「俺も見ることが多いのは吹き替え版ですね。じゃあ、吹き替え版で……」
こうして映画が決まったことで、快人と香織の視線の先の壁にモニターのように映像が映し出されると共に、部屋の明かりが見えやすいぐらいまで自動で暗くなった。
(……なるほど……この距離で行く感じで……い、いや、別に全然余裕だけど……なんなら、前に手を繋いで観劇したわけだし、このぐらいの距離感とか凄く余裕だね。これ、手は繋ぐのかな……い、いや待て、落ち着くんだ私!? デートしてるわけじゃないんだぞ! ……異性の家に来てふたりっきりで映画見てる状況は、もう普通にデートなんじゃ……い、いやいや、変なことは考えないでおこう)
ぐるぐると思考を回しながら香織は、とりあえず部屋が暗くなったおかげで赤くなっているであろう顔を見られなくてよかったと、そんなことを考えていた。
シリアス先輩「完全に恋してる反応じゃねぇか!?」
マキナ「愛しい我が子と我が子のデート……いい……尊さが溢れてるね。あっ、シリアス先輩、キャラメルポップコーンでよろしく」
シリアス先輩「なれってか!? 狙って変異してるんじゃねぇんだよ! リクエストしたところで……」
マキナ「大丈夫、そう『決めた』から」
シリアス先輩「悪魔かな?」




