香織と映画鑑賞⑫
物珍し気に快人の部屋の中に視線を動かしつつ、香織はぼんやりと思考を巡らせる。
(ベッドがあの位置にあって……寝室が別になってたりするタイプじゃなくて、何部屋かぶち抜いて一部屋になってる感じかな? 扉の位置とか考えると……三部屋以上はぶち抜きになってる気がする。いや、でもそう考えても広すぎる気が……横に長いとかじゃなくて、全体的にもの凄く広くて大きな部屋ってイメージ、それこそ億ションとかの一フロアぶち抜きみたいな感じがする……あっ、これ空間拡張してる感じかな?)
香織が予想した通り、快人の部屋は空間拡張されており家の見取り図などからは読み取れないほど室内は広い。まぁ、快人がひとりで使うには広すぎるので、割とスペースは持て余し気味であり、その辺りはよく部屋に遊びに来るクロムエイナやアリスが思い付きで弄ったりしている。そのせいで部屋に隠し機能も増えていたりするのだが……。
(……というか、勢いと流れでここまで着ちゃったけど……よくよく考えたら、私いま異性の部屋に来てるのでは? しかもちょっと気になってる相手の……い、いや、全然余裕だけど……ま、まぁ、私もそれなりに人生経験を積んできた大人の女なわけだから、これぐらいのことで動揺はしないけど……いやまぁ、経験値って意味なら快人くんにボロ負けしてるけどね)
ふと少し冷静になって見れば、己が中々特殊な状況に居ることに気付いたのか、香織は少々心の中で動揺しつつ思考を巡らせる。
(ただ、これは、快人くん側の意図としてはどうなんだろ? 映画を見るわけだし、応接室とか客間みたいな固い場所より私室の方がいいってのは分かるし、私もそっちの方がありがたいとは思う。でも、でもだよ! 若い男の子が、比較的年齢の近い異性を自分の部屋に連れ込んでる状況なわけだし、やっぱりほら、そこにはこう……ワンチャンを狙うような、そんな感じの意志だって少しは……少しは……欠片もそんな思惑は無さそうな顔してる。それはそれでなんか、ちょっと複雑……)
気になる異性の部屋でふたりっきりという状況に、若干思考が飛躍気味なのは本人も自覚するところではあるが、例によって快人側にそのような意図は一切ない。
というより、いまだに庶民的な感覚が抜けきらない快人には、そもそも交渉事とかならともかく遊びに来た相手を、客間や応接室に通すという感覚がほぼ無い状態だった。
実際クロムエイナやアメルといったよく遊びに来る相手とも、私室で遊ぶことが大半なので、友人を招く=私室に案内という図式が頭の中にあるのかもしれない。
「香織さん、こっちのソファーに座って見る感じでいいですかね?」
「うん、大丈夫……ところで快人くんさ、ちょっと映画とは全然話が違うんだけど、参考までに聞いていいかな?」
「なんですか?」
「そ、そのね……快人くん、たびたび私は魅力的な女性だとか、ま、まぁ、お世辞込みだろうけどそう言うこと言ってくれるよね?」
「え? ええ、別にお世辞で言ってるつもりは無いですが……」
「それでね。参考までに、もうちょっと具体的な感じというか……ど、どの辺に女性として魅力があると思う?」
正直香織自身もなぜそんなことを尋ねたのかよく分かっていなかった。好意的な言葉をくれるであろう快人に話を振ることで、単純に女性として褒めてもらいたかったのか……それとも、極めて自然体といえる感じの快人に、もう少し女性として意識されたいと思っての言葉だったのか……本人にも不明だった。
そんな唐突な問いかけに対して、快人は一瞬キョトンとした表情を浮かべたものの、すぐに口を開いた。
「う~ん、それこそたくさんありすぎて全部説明するのは難しそうですが……例えば容姿の話をするのであれば、可愛らしさも兼ね備えた年上の女性って感じで、顔立ちは可愛い寄りですが、落ち着いてて頼りになる雰囲気もありますね。普段は料理するために髪を纏めてるところをよく見ますけど、いまみたいに髪を降ろしてる姿も上品さがあって素敵だと思いますよ」
「あっ、そっ、そう? あ、ありがと……ちょっ、ちょっと大げさだとは思うけど……」
「性格的な面で言えば、個人的にはなにより話してて楽しいのが魅力的ですね。香織さんは明るくて社交的で、凄く話しやすいですし、気遣い上手で優しいところもあるので安心して話ができますね」
「ほ、褒めすぎ、あの、も、もう十分……」
「料理が上手くて家庭的なところも素敵ですよね。実際に香織さんの料理は美味しいだけじゃなくて、温かみのある味というか、ホッとするような味わいで何度でも食べたくなりますし……」
「す、すと~っぷ!! 分かった! 分かったから!? もう十分!! 変なこと聞いてごめんね! ちょっとこれ以上は、なんか変な感じになっちゃうからストップで!! 話逸らしてごめん! 映画見よう、映画!!」
「え? あ、はい」
ちょっと褒めてもらえたらいいなぁ程度の感覚だったが、思った以上にガッツリ……それこそ口説かれているのかと勘違いしそうになるほどスラスラと語られたので、香織は赤くなった顔を逸らしながら強引に会話を打ち切った。
特に思わずニヤケてしまった口元に関しては、必死に手で隠していた。
シリアス先輩「……あ~ちょっと、駄目ですよこれは……ヒロイン力がやけに高いんじゃないですかね? まだ恋人じゃないのに、かなりの糖度でこっちはまた変異しそうなわけで……もうちょっと手心っていうのを……」
マキナ「……」
シリアス先輩「ほら、後方捕食者面で待機してるヤベェ奴も湧いてきちゃったし……」




