香織と映画鑑賞⑪
再び熱の籠った快人の話を聞くことにはなったが、今回に関していえばあくまで移動中であり話は快人の部屋についた時点で一区切りされるという一種の時間制限があることもあって、香織は苦笑しつつもネピュラに関する話を聞いていた。
そしてほどなくして部屋の前に辿り着き、そこで話はひと段落となり、快人に促される形で部屋に入った。
「……ひっろっ!? ホテルのスイートルームとかみたいなレベルの広さだし、ベッドもキングサイズ……金持ちオーラガ圧倒的すぎるよ……」
「滞在中に使わせてもらってたリリアさんの屋敷の客室を元にアレンジした部屋ですね」
「あ~公爵家の客室がモデルって考えれば、スイートルームみたいな広さも納得ではあるね。いや、それでも凄いけど……」
快人の家を建てたのはアリスであり、快人が生活しやすいように部屋の内装などはリリアの屋敷において快人が使っていた客室に寄せてはあるが、部屋の広さに関しては家主であることも考慮して拡張している。
少なくとも一般人である香織が目にする機会などほぼ無いといっていいレベルの広い部屋であり、部屋に飾られている品々も高級感が凄まじかった。
いくらある程度親しい間柄の快人の部屋といっても、高級感に思わず気圧されてしまうのも必然ではあった。
「……あっ、誕生日の写真とかもあるね。あれ? この壁の絵って……日本? 縁日みたいな雰囲気だね」
「あ~それは……説明が難しいですね。夢の中の縁日を絵にしたもの……でしょうか?」
「う、うん?」
「その絵はアリスに貰ったものなんですが……ちょっと一種の夢の中って言うか、意識だけの世界でアリスと縁日を回ることがあって、その時の風景を絵にした作品ですね」
「う、う~ん、状況がよく分からないけど、快人くんならそういうことがあっても不思議じゃないのかな……でもなんか、流石幻王様って言うべきか凄い絵だね。こう、グッと引き込まれるというか……私絵画とか全然詳しくないけど、凄く魅力があるように感じて……なんか、いい絵だよね~」
「温かく楽し気ですが、どこか物寂しさもあるような……なんか、本当に縁日の空気までそのまま切り取った感じの絵で、俺も気に入ってます」
快人と香織の感想は簡潔なものではあったが、もし仮にこの場にロズミエルなど芸術に詳しいものが居れば、食い入るようにこの絵に見入っていただろう。
なにせこの絵は、伝説の絵であるセブンプラネットと同じ絵の具で描かれているのだ。
セブンプラネットを書いた絵の具は、アリスがかつて星の生み出した魔獣である七星魔獣を討伐し、その素材を用いて作った不思議な絵の具であり、再度作ることはほぼ不可能といっていい品だった。
アリスは本命の一枚であるブルーアースと、残りの絵の具でセブンプラネットを描き終えた後で、少しだけ残った……絵を一枚描き上げるほどの量もない絵の具を記念に保管していた。
そしてのちに、マキナの心具であるファクトリーギアで絵の具を増やせることに気付いて、コピーして増やした絵の具によって描いて、快人にプレゼントしたのがこの縁日の絵である。
つまりところ、これはある意味で最新の……九枚目のセブンプラネットともいえる作品であり、とてつもない価値のある絵ではあるが、快人がそこまで芸術に詳しくないのと、描いたアリスも単に思い出の絵の描いてプレゼントしただけであり、絵の具がどうだとかわざわざ説明もしていないため現状はまだ知られていない。
ロズミエルが快人の部屋に来れば一発で気付くのだが、以前に家を訪れた際は庭のテラスでお茶をしていて、その後は基本的に快人がロズミエルの家を訪ねる形であるため、まだ彼女はこの絵を目にしていなかった。
「でも、縁日っていいよね~。こっちの世界にも似たような雰囲気のお祭りがあるかもしれないね」
「ありそう……というか、第一回目の六王祭でクロがプロデュースしたのが縁日っぽい祭りだったんで、普通にありそうな気はしますね」
「探してみるのも楽しそうだね。私も最近はお金に余裕ができて、旅行とかしてみても楽しそうだな~って思うしね。まぁ、日本の縁日とは若干違うだろうけど、それはそれで楽しいだろうしね」
「ですね。ああでも、そこの門使えば日本にも行けますけどね」
「………………なんて?」
快人がなんの気なしに告げた言葉を聞いて、香織はポカンとした表情で部屋にある門と快人の顔を交互に見た。
「えっと、その門はシロさんに貰ったものなんですが、異世界にも行くことが出来るんですよ。異世界への移動は、基本的には俺以外はできないみたいなんですが……俺と手を繋いでたり、接触してる状態でなら一緒に移動できるみたいなので、その気になれば日本にも行けます。まぁ、向こうのものをこっちに持ってきたりはできなかったりって感じに、制限とかはありますけどね」
「………………へ、へぇ……君、そいう凄いことはね。もうちょっと、凄いこと言うぞ~って顔で言ってくれるかな? 心臓止まりそうになるから……てことは、快人くんと一緒なら向こうの世界に行けるんだ……いや、向こうの世界での私の存在は記録とかも含めてすでに消えてるし、いまさら向こうの世界に戻ろうとも思わないけど……衝撃の事実だよ」
香織はむこうの世界に特に未練などは無いため、異世界間の移動ができる門の存在を聞いても特にむこうの世界に行きたいと考えることは無かったが、ふと思うこともあった。
(……でもそれ、考えようによっては憧れだった原宿デートとかもできるってことかな? ああいやでも、快人くんと一緒じゃないと移動できないってことは、つまるところ恋人は快人くんじゃなきゃいけないわけだけど……いけないわけだけど……ま、まぁ……そこはべ、別に問題ないし……そ、そもそも、いまは別にそういう話とかじゃないし……あ、あくまで、その、後々の参考として……憧れの青春デートもできるかもって可能性だけど……そ、そう! あくまで可能性!! 可能性だけどね!!)
シリアス先輩「まぁ、元々『この世界から消えたい』とか『別の世界に行きたい』とかって願望を抱いてる相手が対象に選ばれる勇者召喚で召喚されて、巡礼をしつつも異世界で一年ほど生活した上で帰るか留まるかを天秤にかけて選んでるわけだから、元の世界に対しては大して未練はない感じか……それはそれとして……なんか、糖度増してきたな……よくない感じだ」




