リリウッドさんの事を以前よりも知れた気がする
風の月14日目。リリアさんへのプレゼント作成を手伝ってくれた人達へお礼をしようと思い、まずはアイシスさんの居城に行く事にした。
クロは夜に来た時に渡すとして、アイシスさん、リリウッドさん、アリスにオルゴールを渡す事にする。
「……カイト……いらっしゃい……来てくれて……嬉しい」
「突然すみません、実はアイシスさんに渡したいものがありまして」
「……渡したいもの?」
突然の来訪にも関わらず、アイシスさんは心から歓迎してくれ、俺を快く招き入れてくれた。
そんなアイシスさんが淹れてくれた紅茶を頂きながら、突然の来訪を詫びた後、さっそくではあったが本題を切り出す事にした。
アイシスさんはどうやらピンとこないみたいで、可愛らしい仕草でコテンと首を傾げる。
その可愛らしい様子に胸が暖かくなるのを感じつつ、マジックボックスの中からアイシスさんをイメージして作ったオルゴールを取り出す。
「……え?」
「アイシスさんには今回の件で、宝石の事で相談に乗ってもらったり、お世話になったので……拙いかもしれませんが、受け取ってください」
「……い、いいの?」
「はい」
アイシスさんをイメージして作ったオルゴールに使った宝石は、ミッドナイトクリスタルでは無く通常のアイスクリスタルにブルーダイヤモンド……この二つを使った理由は単純で、アイシスさんのイメージは海のように深い青色では無く、雪や氷といった水色に近い色合いだと思ったから。
そして曲は雪景色から春への移り変わりをイメージした、静かで柔らかい曲……優しいアイシスさんにはピッタリだと思う。
「……カイト……ありがとう……嬉しい……凄く……嬉しい」
「喜んでもらえたなら、俺も嬉しいですよ」
「……うん……カイト……だ~い好き」
目尻に微かに涙を浮かべながら、それでいて心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべ、アイシスさんは甘く幸せなお礼の言葉を告げてくれた。
その言葉と、アイシスさんの笑顔を見れただけでも、十二分に頑張ったかいがあるというものだ。
そして俺はそのまましばらく、アイシスさんと一緒に紅茶を飲みながら雑談に花を咲かせ、幸せなひと時を過ごした。
森林都市・ユグフレシス……リリウッドさんが治めるこの都市は、以前はチラリと眺めただけだったが、イメージとしてはリグフォレシアの街を何倍にも大きくしたような感じで、大自然の力強さをこれでもかと言うほど感じる美しい都市だ。
そしてその中央にそびえ立つ、天を突くほど巨大な世界樹の根元に、リリウッドさんが住んでいるらしい。
世界樹の枝を入手した時は、ゲートまでリリウッドさんが迎えに来てくれたので、ここには立ち寄っておらず、来るのは初めてだった。
そこは木で出来た神殿とでも言えるような荘厳な外観で、事前にハミングバードを飛ばしているとはいえ、急な訪問では門前払いされてしまいそうな感じが……
しかし流石はリリウッドさん。ちゃんと話は通してくれていたみたいで、入口に居た門番らしき人に名前を告げると、非常に丁重な対応で迎えてくれ、大きな応接室に案内される。
壁から家具に至るまで、全て木造りで統一された室内はなんとも言えない風情のある感じで、なんとなくお寺とかが頭に浮かんできたが、あながち間違いでもない気がする。
この都市の人達にとって、リリウッドさんは信仰の対象であり神に等しい存在なわけだから……この荘厳な感じも頷ける。
『……申し訳ありません、カイトさん。お待たせしました』
「あ、いえ、こちらこそ突然すみません」
応接室で出された果物の甘みを感じる香りの良いお茶を飲んでいると、リリウッドさんが現れ、俺は立ち上がって一礼する。
リリウッドさんは非常に忙しい方だと聞いているし、かなり待つ事も覚悟していたのだが……ありがたい事に、かなり優先して俺の元に来てくれたらしい。
『それで、今回はどうされましたか? なにか用事があるという事でしたが……私で力になれる事でしたら、どうぞ遠慮せずに仰ってください』
「あ、いえ、今回はお願いでは無くお礼に伺いました」
『……お礼……ですか?』
どうやらその言葉は想定していなかったみたいで、リリウッドさんは不思議そうな表情を浮かべて聞き返してくる。
そんなリリウッドさんを見て微笑みを浮かべながら、俺はマジックボックスからリリウッドさんをイメージしたオルゴールを取り出す。
このオルゴールに使用した宝石はオリーブグリーンのペリドット……新緑の葉みたいな色合いの宝石は、リリウッドさんにピッタリだと思う。
曲は大自然をイメージした力強く響く深みのある曲で、これもリリウッドさんのイメージにピッタリ……本当にアリスは良い仕事をしてくれる。
『……えっと……カイトさん? 私の見間違えでなければ……それは、オルゴールではありませんか?』
「はい。リリウッドさんには今回の件でお世話になりましたし、せめてものお礼にと……」
『あ、ええと……』
差し出されたオルゴールを見て、リリウッドさんは戸惑うような、どこか困ったような表情を浮かべる。
気に入ってもらえなかっただろうかと俺が不安を感じるのと同時に、リリウッドさんは戸惑った様子で口を開く。
『……カイトさん。渡す相手をお間違えではありませんか? 私はお礼を頂けるようなお手伝いなど、してはいませんよ?』
「いえ、そんなことないです! リリウッドさんのお陰で本当に良い物を作る事が出来ました。心から感謝しています」
『……し、しかし……折角手間をかけて作ったのですから……誰か良い女性が居るのであれば、そちらに渡した方が良いのではありませんか? 私は言わば『木』です。そのような素敵な品には相応しくないかと……』
リリウッドさんの口調からは、物凄く遠慮しているのが伝わってくるが……このオルゴールはリリウッドさんの為に作ったので、他に渡すなんて言う選択肢はないし、そんな事をすればリリウッドさんにもその相手にも失礼だろう。
というか、木って……確かにリリウッドさんは世界樹の精霊だけど、人と殆ど変らないその姿で自分は木ですと言われても……
「……俺はリリウッドさんは、美しくて素敵な女性だと思いますけど」
『か、からかうのはやめてください……木の私に世辞など告げたところで、なんの益にもなりませんよ』
「いえ、本当に、心からそう思っています」
『ッ!? ……そ、そうですか……変わった方ですね』
真っ直ぐに俺の告げた言葉が心からのものであると告げると、リリウッドさんは少し頬を赤く染め、再び困ったような表情を浮かべる。
『……あまり頑なに拒否しても、失礼ですね……はい。では、勿体なくもカイトさんの御厚意……ありがたく頂戴いたします』
「はい」
『……なんというか、貴方は困った人ですね』
「……え? なにがですか?」
観念した様子で俺からオルゴールを受け取ったリリウッドさんは、軽く苦笑を浮かべながら言葉を発し、その言葉の意味が分からなかった俺は首を傾げる。
するとリリウッドさんは、どこか楽しそうに微笑みを浮かべた後で言葉を続ける。
『……アイシスが貴方を好む理由も理解出来る……と、そういう事です』
「……??」
『ふふふ、いえ、気にしないで下さい……オルゴール、ありがとうございます。カイトさんの心遣い、とても嬉しく思います』
「あ、はい」
よく意味は分からなかったが、リリウッドさんが楽しそうなので良しとするか……というか、リリウッドさんって、こんな風に笑うんだ。
普段の穏やかな微笑みも素敵だと思うけど、こうして楽しそうな笑顔を浮かべている方が何倍も魅力的だと思う。
『……流石にこのまま帰す訳には行きませんね。カイトさん、あまり大したものではありませんが昼食を用意させますので、是非食べて行って下さい』
「……えっと、では、お言葉に甘えて」
『はい。ああ、それと……こちらをどうぞ』
「……これは、花、ですか?」
昼食を食べていってくれというリリウッドさんの言葉を聞き、丁度お昼時でお腹もすいていた為甘えさせてもらう事にした。
するとリリウッドさんは、空間魔法だろうか? 空中に緑色の波紋を浮かべ、そこからピンク色の小さな花を取り出して俺に渡してきた。
『……幸せを運ぶという花言葉を持つ花です。貴方にはピッタリだと思います』
「あ、ありがとうございます」
『それでは、私はまだ少し処理しなければならない事がありますので、これで失礼します……また昼食を食べ終えた辺りで顔を出させていただきます』
「はい、お仕事、頑張ってください」
『ありがとうございます』
そう言って去っていくリリウッドさんの背中は、どこか幸せそうにも見えた。
拝啓、母さん、父さん――アイシスさんとリリウッドさんに、お礼のオルゴールを渡したよ。そして、ある意味大きな変化と言えるのか、今日こうして話をしてみて、少しだけだけど――リリウッドさんの事を以前よりも知れた気がする。
皆きっと忘れている設定を一つ紹介します。
宝樹祭編で語られた通り、精霊が自ら採ってきた物を贈るのは親愛の証です。
さて、ここで一つ前回予告したクロノア編の捕捉を。
ヒロイン達には勇者祭……要するに本編のラストまでに恋人までいくヒロインと、本編終了後のアフターストーリーで恋人になるヒロインがいます。
クロやアイシス等は前者、クロノアは後者になるので、クロノア編はクロノアが快人へ恋心を抱くストーリーになる予定です。
単純なイメージでは、現時点で快人に明確な恋心を抱いているヒロインは発展します。逆に現時点では快人を好意的には思っていても恋心まで発展していないヒロインは、そこへ発展するストーリーになり、アフターでくっつく形になります。
つまりクロノアが正式に恋人になるのは本編のラスボスであるシロを攻略した後ですね。
後全然関係ないですが、クロノア編の後は陽菜編を予定しています。