依頼の品⑲
なにやら考え事をしている様子でまったく声が聞こえていない感じだった香織さんを少し強引に止めた。馬車道に出るのは危ないし、そもそもどこに向かっているのか分からない状態になっていたのもあって、その判断自体は正解だったとは思うが……急に動いたことで抱き寄せるような形になってしまった。
「……いや本当に、強引な止め方になってしまってすみません」
「ううん。完全に悪いのは私だしね。むしろ止めてくれて助かったよ……行くつもりだった店も完全に過ぎちゃってるから、道を戻ろう」
「了解です。けど、どうしたんですか? なにか真剣に考え込んでいるみたいでしたけど……」
「……なんていうかなぁ、遠い昔とは言わないけど、懐かしいぐらい前に忘れていた青春が悪さしてきたとか、そんな感じかなぁ……」
「う、うん?」
「いや、なんでもないよ。久しぶりの映画だから、どんな映画がいいかなぁってアレコレ考えちゃってたんだよ」
確かに10年以上ぶりの映画となると、なにを見ようかといろいろ悩む部分もあるのだろう。青春って言い回しだったから、恋愛映画とかについて考えていたのかもしれない。好きだって言ってたし……。
「確かに久しぶりの映画だと何を見るのか迷いますね」
「うん。ジャンルもそうだけど、好きだった見たことある映画を見るか、それとも見たことが無い作品とかを見るか……悩ましいところだね」
「香織さんは恋愛映画が好きでしたっけ? 新しいのだと、『夕暮れの空に恋を掲げ』とかが最新ですね」
「え? うそっ、あれもう公開されてたの!? あっ、そっか、時期的に言うと私が召喚された時期より向こうの世界は1年以上経ってるから、公開されててもおかしくないよね。最初の予告編見て、見に行きたいなぁ~とは思ってたんだけど、公開される前にこっちの世界に召喚されちゃったからね」
「ええ、俺は見たことないんですが、興行収入が好調だとかそんなネットニュースを見た覚えがありますね」
当然ではあるが、正義くんより一期前の香織さんと俺では向こうの世界の時間に関してもズレがある。いま話題に上がった映画は、比較的新しく春頃に公開された映画なのだが、香織さんが召喚された時期にはまだ公開されていなかったみたいだ。
「それはぜひ見てみたいね。けど、う~ん、そういう時間のズレを認識すると……なんていうか不思議なもんだよね」
「というと?」
「いやほら、召喚された時の年齢を考えると、向こうの世界で換算すれば、快人くんって私どころか茜さんより年上なんだよね。でもこっちじゃ私の方が年上だし、なんというか時間のズレってのを感じるね~」
「確かに言われてみれば、こうして同郷に会うとそれを実感しますね。重信さんにしてみても、向こうの世界で考えると、俺の少し上ぐらいの年齢なんですよね」
確かに召喚当初の香織さんが陽菜ちゃんや葵ちゃんと同じ16歳だと仮定したら、1年経過した後……つまり、俺が召喚に巻き込まれた時期には17~18歳ってところだから、完全に俺より年下だし、同じ計算で考えれば茜さんは20歳前後、重信さんも23歳とか24歳あたりだろうから、そんなに俺と年齢は変わらない。
いやもちろん、召喚された後でこっちの世界で何年も生きてきているのだから、香織さんを含めた三人が俺の年上であるというのは間違いないのだが……本来ならあり得ないはずの、年齢が追い抜かれるという現象が発生しているのは、確かに時間のズレというのを強く実感する。
「ね? 面白いもんだよね。だからかなぁ、同郷の子と話してると昔の青春を思い出すような……思い出すような……私、高校二年生になったばっかりの頃に召喚されたから、あんま青春無かったかも……し、しかも、高校一年生の頃はいろいろあって忙しかったし……召喚されてからも結構バタバタしてたから……どこいった? 私の青春……」
「う、う~ん、高校生イコール青春ってわけでは無いですが、確かにその年代のイメージは強いですよね」
「だよね。ちなみに快人くんはどうだった? やっぱりモテモテだったの?」
青春=高校生と定義するのであれば、俺もまったく経験はしていない。高校の時はほぼ学校と家の往復だったし、ネットゲームばっかりやっていた時期なので、クラスメイトとの会話もほぼゼロだった。
別にイジメられたり除け者にされたりってことは無かったが、空気に近い状態だったかも……一番話したのは昌だったと思う。
「いえまったく、友達すらほぼ居なくて帰宅部でしたし、学校では寝てばかりでしたね」
「え? 意外だね。てっきり、その頃から女の子キラーだったのかと……」
「その頃もなにも、過去も現在も女の子キラーだったことは一度ありませんが……」
「へ~ほ~ふ~ん」
「え? な、なんですか、その微妙そうな眼は……」
なにやら「どの口が言うんだ?」と言いたげなジト目を向けられたのだが、あいにくと心当たりは……い、いや、この世界に関していえば恋人もたくさんいるので、モテてると言ってもいいかもしれないが……別に女の子キラーとかそういうわけではない。
なんとも居たたまれない気持ちになりつつ、香織さんからの視線に対して苦笑を浮かべた。
シリアス先輩「どの口が! 出会った女性の大半にフラグ立ててる奴が、なに言ってやがる!!」
???「まぁ、カイトさんはlikeとloveの判別に疎いところがあるので、好意的な意識は向けられているとは思ってても、恋愛的な感情であるってのは、相手が結構しっかりアプローチかけてからじゃないと気付かないところはありますよね。逆に言うとそういう相手との進展は早いんですよね、アイシスさんとかフィーアさんとか……まぁ、ゴリラさん程グイグイ行き過ぎるのは逆効果ですが……」




