クリスマス番外編・見たかった景色~前編~
クリスマスとは元々はイエス・キリストの降誕祭で、日付の起源などは古代ローマ帝国の光の祭りだとか、そんな話を聞いたことがあるが……それはあくまで、俺たちが元居た世界での話である。
この異世界トリニィアにおいてのクリスマスというのは、過去の勇者役から伝わった異世界のお祭り行事という感じであり、特に深い由来や意図など無くお祭りのようなイベントとして認識されている。
いやまぁ、俺が元居た世界の日本とかでも本来の意味とか関係なく年に一度訪れるイベントみたいな感じが主流だったので、大差無いと言えば大差無いかもしれない。
強いて違いを上げるなら、トリニィアのでのクリスマスはあちこちの街で飾りつけが行われ、各国の首都では出店などが立ち並んで賑わう感じで……家で家族と過ごしたりというよりは、冬祭りとかに近い雰囲気である。
「かなり賑やかですね」
「……うん……飾りつけはいろんな街でしてるけど……やっぱり首都は出店やイベントがあるから……賑やか」
人がかなり多いが、まともに歩けないほどではないという感じの通りをアイシスさんと手を繋いで歩く。以前のアイシスさんであれば死の魔力の影響もあって、こういったお祭りなどに参加するのはまず不可能だったのだが、いまはカナーリスさんから貰ったアイテムのおかげで半径50cm以内に一定以下の力の人が近づけないような結界を張っておけば問題なく街を歩くことが出来る。
アイシスさんの魔力操作技術であれば、俺だけを結界の対象外にすることも余裕だし、六王として有名人である問題も認識阻害魔法を使っておけば問題はない。
さすがにアリスほどの技量は無いので、直接話した相手がそれなりの実力を持っているとバレる可能性もあるみたいだが、それでも爵位級以外にバレることはまずないみたいなので安心してデートを楽しめる。
あとは俺がアイシスさんの名前を呼んだ結果、他の人に気付かれる可能性もあるのだが、そこは周囲に話し声が聞こえなくなる魔法具を携帯用に改良した物で対処可能である。
「でも、こうやってアイシスさんとクリスマスの街に遊びに来れるのは嬉しいですね」
「……私も凄く嬉しい……もちろんこうして街に来ても怖がられないのも嬉しいけど……カイトと一緒に……前まで以上にいろんなものを見れるのが……一番嬉しい」
そういって幸せそうに笑うアイシスさんは、本当に天使のように可愛らしく、この笑顔が見られただけでも今日デートに誘ったかいがあったと感じられた。
「あっ、広場にツリーがありますね」
「……綺麗に飾り付けられてる……そういえば……ウルたちが城にも……クリスマスツリーを作ってた」
「パーティーの準備をしてくれてるんでしたっけ? 夜が楽しみですね」
「……うん……カイトと……皆と一緒……凄く……楽しみ」
夜はアイシスさんの居城で六連星の皆とクリスマスパーティーの予定であり、ウルたちが張り切って準備してくれているみたいでいまから楽しみである。
「まぁ、プレゼントとかは後で買うとして……まずはデートを楽しみましょう」
「……うん……カイトと一緒に……いろんなところに……行きたい」
「時間の許す限りいろいろ回りましょう。最初はむこうの公園に行ってみましょうか、なんかイベントやってる感じですし……」
賑やかな雰囲気の公園にアイシスさんと共に足を踏み入れると、最初に目に付いたのは大きなステージとその上に並ぶ楽団のような人たちだった。
「……合唱してるみたいですね」
「……伝統的な冬の歌……ステージも大きいし……合唱のコンクールみたいなことをしてるのかも」
「確かに、ステージ脇にいろんなグループっぽい方々がいるので、コンクールっぽい感じはしますね」
キリスト教とかとは関係ないので聖歌隊とかそういうわけではないのだろうが、ちょうどいまステージに上がってるグループは格好も歌ってる曲もそれっぽい雰囲気があった。
そんな賑わうステージを少し離れた場所でアイシスさんと手を繋いで眺めていると、アイシスさんが凄く楽しそうな笑顔を浮かべているのが目に入った。
「アイシスさん、楽しそうですね」
「……うん……こうやって……いろんな人たちが楽しそうにしてるの姿を見れるのが……嬉しい……前の私だと……怖がらせちゃってたから」
以前のアイシスさんはそれこそ街を訪れるだけで厳戒態勢のような形になっており、当然ではあるがこういったイベントなどを近くで見る機会もなかったのだろう。
仕方ない部分はあると思う。むしろそうしておかなければ、人族とかに怖がられ逃げ惑われ、よりアイシスさんが傷ついていただろう。
でもだからこそ、その悩みがある程度払拭されたいま、アイシスさんにはいままで楽しめなかったことをたくさん楽しんでほしいと思う。
「……もちろんアイシスさんはずっと辛い思いをしてたわけですし、よかったって言い方はしませんが……こうやって、アイシスさんが見たかった景色を始めてみる時に、一緒にそれを見れるのは……ちょっと嬉しいです」
「……カイト……うん! ……そうだね……見れなかった景色を始めて見る時……世界一大好きなカイトと一緒に見れるのは……凄く幸せ……ふふ……これから先が……楽しみ」
「まだまだ今日だけでも、いろいろ見て回る時間はありますし、いっぱい色んな景色を一緒に見ましょう」
「……うん……カイト……だ~い好き」
俺の言葉を聞いて、アイシスさんは幸せそうな表情で甘い声で大好きと告げながら、ギュッと俺の腕を抱きしめた。アイシスさんが心から幸せそうにしてくれていることが、俺にとっても凄く幸せで……心が凄く温かかった。
シリアス先輩「ば、馬鹿なっ、不意打ち!? し、しかも、ぜ、前編!? ……くっ……甘……! 早……! 避……無理!! 耐える? 無事で出来る? 否! 死……くっ……『糖の賢人』!!」
マキナ(……予め用意していた糖類と己の位置を入れ替える能力? だけど、入れ替わった対象は砂糖だったはずなのに、イチャラブの波動を受けて生クリームたっぷりのショートケーキに変わった……それは即ち、シリアス先輩が今回のイチャラブを見て受けたイメージ……入れ替わらなければ、確実に己がショートケーキになっていた。このイメージは簡単には払拭できない……シリアス先輩の精神的ダメージは大きいね)
シリアス先輩「……ハァ……ハァ……くそっ……」
マキナ「まぁ、それはそれとしていま私はチョコレートケーキの気分だから!」
シリアス先輩「……は?」
マキナ「というわけで……むん! 『チョコの賢人』!」
シリアス先輩「おまっ、ふざけっ……ぐわぁぁぁぁぁ!?」




