依頼の品⑭
オリビアさんは魔力量を例に出したが、友好都市内であれば様々なことに効果がある権能なので、上昇するのは魔力量だけではないのだろう。
それこそあらゆる能力が50倍になってもおかしくはない。
「あまり大きな影響は無いでしょう」
「いやいや、とんでもないですよ!? だって50倍ですよ、50倍! つまり、私は友好都市内限定で凄い戦闘力になっちゃったわけで……」
「友好都市内で戦闘する機会などほぼ無いでしょうし、さして影響はないのでは?」
「うぐっ……そ、それは……た、たしかに……」
物凄い正論である。確かに友好都市内で戦闘力が50倍になったとしても、そもそも友好都市内で戦闘をするような機会がまず無いだろうし、元々強い香織さんが50倍の力が無いと戦えないような相手が友好都市で暴れるのであれば、オリビアさんが対処するだろう。
となると確かに、50倍の戦闘力を生かす機会はなさそうである。もちろん戦闘力だけの話では無いのだろうが……。
オリビアさんの言葉を聞いて、香織さんはしばし考えるような表情を浮かべる。切り替えの早い方なので、たぶん思考を整理して割り切るつもりなのだろう。
そして、切り替えは完了したのか俺の方を向いてニヤリと笑みを浮かべる。
「……ふふふ、見てよ快人くん。偶然だし、場所限定とはいえ物凄いパワーアップだよ……確かに、力が漲るような感覚が……これが、50倍の圧倒的魔力!」
「いえ、任意で調整可能なはずなので、いまのミズハラカオリの魔力量は変化していないかと思いますが?」
「……」
「身体能力などにも影響がありますし、急激な変化は力加減の調整等で戸惑うでしょうし、ミズハラカオリの意志で切り替えや調整を可能にしてあります。慣れは必要でしょうが倍率なども細かく調整できるでしょうし、特定の能力のみに絞って上昇させることもできます。その辺りは、必要であれば指導しますし、使用していく過程で自然と慣れていっても問題ありません」
「……………………」
オリビアさんは基本的に冷静で論理的な方なので、急な能力上昇による影響もしっかり考慮して対策を講じていたらしい。
それは本当に素晴らしいことだと思うし、必要ない時はOFFにしておけるのも急激に上がった腕力で物を壊したりとかって心配もなくて安心だ。
……ただまぁ、強いて問題点を上げるなら……気持ちを切り替えようと「この圧倒的なパワー」的なことを冗談っぽく言っていた香織さんが、大恥かいて顔を覆ってしゃがみこんでしまったことである。
オリビアさんが冷静に淡々とツッコミを入れたのも相まって、この恥ずかしさは相当なものだと思う。
「……あ、あの、香織さん? 大丈夫ですか?」
「……恥ずかしくて死ぬ、死んじゃう……言われてみれば50倍って割には、そんなに大きくなった感じはしないなぁとか思ってたけど……ま、まだ、効果適用前とか……めっちゃ恥ずかしい……」
決してオリビアさんに悪気があるわけではないのだが、なんか今日はやたら香織さんが恥ずかしい目に合ってる気がする。
まぁ、それでもしばらく真っ赤な顔で悶えた後で香織さんは復活して立ち上がる。
「……えっと、オリビア様。試してみていいですかね?」
「ええ、思考で思い浮かべるだけで能力は上昇するはずです。細かい調整には慣れが必要でしょうが、最大の効果状態であれば調整は必要ありません」
「わ、わかりました。やってみます……むむ……お、おぉ……」
グッと拳を握って気合を込めるような感じになった香織さんの魔力が、どんどん大きくなっていくのが俺にも分かった。
「こ、これが50倍の魔力量……快人くん、どう? 凄いでしょ?」
「確かに凄い魔力で……」
「……あっ、これ、周りに凄い人が多すぎて、比較してみたらそんなデカい魔力じゃないなって顔だ」
50倍になった香織さんの魔力は……体感だけど、イータやシータと同じぐらいの印象だった。いや、俺は魔力量を測るのはあんまり得意じゃないので大雑把にしか分からないのだが、リリアさんとかアニマとかと比較するとかなり小さい魔力のようにも感じられる。
いや、俺と比較すれば全然桁違いに大きいのだが……ちなみに、アイシスさんとかメギドの魔力量は大きすぎて、俺でほぼ測れない。
水平線の見える海を見ているような感覚で、信じられないぐらい巨大なのは分かるのだがどのぐらい大きいのか推し量ることはできない感じだ。
まぁ、普段は魔力を抑えている実力者も多いので、分からなくて当然かもしれない。
クロとかシロさんとかカナーリスさんとかクラスなると、もうサッパリ分からない。地上から星を見上げても宇宙のサイズは分からないというか、そんな感覚である。
「いや、俺と比べればとんでもなく大きな魔力ですし……えっと、調理担当じゃなかったんで香織さんはあんまり話してないかもしれないですが、俺の家のメイドでイータとシータって赤髪の子が居るんですが……」
「ああ、えっと、双子っぽい感じのふたりだよね? 船上パーティの時に簡単な挨拶はしたよ」
「ええ、そのふたりが男爵級高位魔族なんですが、そのぐらいの魔力量に感じましたね」
「なるほど、それは快人くんから見たら大したこと……いや大したことあるんだけど!? つまり、いまの私の魔力って、爵位級クラスってことじゃん!?」
……言われてみれば確かに……リリアさんとかアニマは伯爵級なので差はあってしかるべきだが、そもそも爵位級高位魔族自体が、世界全て合わせても5万人以下という超上澄みの存在であると考えれば、そのクラスにまで魔力量が上がってるのはとてつもない。
うん、俺の感覚がマヒしてるだけである。
シリアス先輩「まぁ、最近異世界の神々と知り合い始めたから、いままででさえ上の方とばっかり交流があったのに、さらに上の方に範囲を広げてるから感覚がマヒるのも仕方ない気はする」




