依頼の品⑦
転移魔法具で香織さんの店にやってきて、裏口から中に入れてもらう。今日はお店が定休日ということもあって、香織さんは私服姿であり以前ハイドラ王国で購入した服を着ていた。
「定休日にすみません」
「ううん、むしろ定休日の方だから営業時間とか気にしなくていいから、時間的な余裕はあるしね……でも、急にどうしたの?」
「ああいえ、実は前に話していたものが手に入ったのでさっそく持ってきたんです……コレです」
「おぉぉぉ、ま、松茸だ!」
松茸と書かれた木箱を取り出すと、香織さんは目を輝かせる。実際最初に話題を出してきたのは香織さんだったし、松茸を切望していたのだろう。
「しかもこれ、凄くいい松茸……ああ、スピアマッシュだったね。でも、大きさも香りも最高級品ってわかるぐらいいいやつだね」
「ええ、先にひとつ食べましたが、本当に美味しかったですよ。まぁ、そんなわけでこれは香織さんに……」
「ありがとう! 嬉しいけど、10本もいいのかな?」
「いや、それが、そのことに関してちょっと相談がありまして……」
「う、うん?」
怪訝そうな表情を浮かべつ香織さんに対して、ランツァさんとのやり取りを説明し、俺の手元に1万本近いスピアマッシュがあることを話した上で、香織さんの店で仕入れてもらえないかと相談してみた。
「……な、なるほど……1万本はとんでもないね。確かに、そんな数を個人で消費とかは出来ないし、卸すってのはアリかもね。その上で、私の店で出すってのも……う~ん……結構アリかも?」
「いけそうですか?」
「最近私の店も有名になってお客も増えてるんだけど、やっぱり観光客が多いからさ、旅行の記念にいいものを食べたいって感じの人も居るから、値段が高めの定食ももうちょっと増やそうかなぁとは思ってたんだ。スピアマッシュはこの世界でも高級で希少なキノコなわけだし、売れる見込みは十分あると思う」
「なるほど、確かに友好都市ヒカリに来て異世界料理を食べるなら、奮発してって考える人は多いかもしれないですね」
香織さんの店の定食は比較的安価であり、一番高いものでも20Rに届かないぐらいの価格だ。それはもちろん安くて美味しい料理が食べられるので凄くいいのだが、それはそれとして高級な品もあればお客としても注文の選択肢が広がっていいとは思う。
いまは香織さんは大容量のマジックボックス持ちなので、ラインナップを増やせる余裕があるのも追い風かもしれない。とにかく、スピアマッシュの件に関しては結構好感触な感じだった。
「松茸ご飯、松茸のお吸い物、松茸の茶碗蒸し、焼き松茸って感じの松茸尽くし定食ってのもいいかもね。ノインさんから仕入れてるいい調味料やラズ様の米もあるし、きっと美味しい定食が……おっと、その前に仕入れ価格を聞いておかないと……快人くん的には、仮に私の店に卸すとしたら、どのぐらいの価格で卸すつもりなの?」
「う、う~ん、そうですね……えっと……100本で100R……とか?」
「安い安い安い!? 1本1Rじゃん!! そんな価格は駄目だよ! スピアマッシュは高級キノコなんだし、そんな価格て提供されても私が困るって!」
「い、いや、確かにそうなんですが……そもそも、俺がランツァさんに支払ったのって、1本100Rで100本分で1万R……金貨一枚なんですよ。それで、9900本おまけが付いてきたわけで……比率考えると、100本100Rになりますし……」
「あ~確かに、快人くんとしても実質1本1Rの仕入れ価格とかって感じだと、高く卸すのも気が引けちゃうか……」
そう、香織さんの言う通り……日本円で表すなら1本1万円の松茸で、俺は100万円支払っただけで1億円分の松茸を手に入れてしまった計算になるので、1本あたりの仕入れ価格は実に100円ほどになってしまうわけだし、それを高級キノコに相応しい価格で卸すのは……なんか気が引ける。
「……う~ん……じゃあここは、委託って感じにしない?」
「といいますと?」
「形式としては、とりあえず私がある程度まとまった数のスピアマッシュを預かって、それを定食として販売する。そして、そのスピアマッシュの定食の売上に関しては私の快人くんで折半するって感じだね」
「なるほど……」
「いや、比率考えると快人くん以外には簡単に入手できない食材なわけだし、快人くん側の取り分が多くていい気もするけど、それ言いだすと快人くんの方も調理や販売の手間云々って言いだして揉める気がするし……ここはスパッと利益は半分こってことでどうかな?」
「そうですね。確かにその形が、一番お互いに納得できるかも……じゃあ、お願いしていいですか?」
「うん! 任せておいて!」
香織さんの提案により、俺が食材のスピアマッシュを提供し、香織さんが調理して販売して利益は均等に分配するという方向性で纏まった。
「じゃあ、とりあえず1000本ぐらい渡しときますか?」
「多い多い、まだどれぐらい売れるかもわからないし、とりあえず100本でいいよ。それが全部売れたら、次って感じにしよう」
「了解です」
「快人くんの話はそれで終わりかな? じゃあ……えっと……私の方も、ちょっと快人くんにお願いがあるんだけど……」
スピアマッシュの件は纏まったが、どうやら香織さんもなにか俺に話したいことがあるようで、どこか真剣な表情で口を開いた。
???「精霊族好感度荒稼ぎで、誰が一抜け……つまり、最初にカイトさんの恋人になるかが注目されていますが、恋愛博士のシリアス先輩はどの辺りを有力候補と見ますか?」
シリアス先輩「誰が恋愛博士だ!? 私はシリアスの化身! シリアス・オブ・シリアスな存在だぞ! どう考えてもシリアス博士じゃないか!!」
???「あ~はいはい。それで?」
シリアス先輩「……とりあえず、精霊族は全員快人への好感度は激高という前提で話すが、例えばカミリアとかエリアルとかは、快人への好感度は極めて高いけど恋愛感情的なフラグが立っているかって言うと、微妙なところがあると思う。いや、好感度自体は凄く高いから、なにかしらの切っ掛けがあれば一気にそっちの方向に転がる可能性はあるにしても、現時点ではそうでもない感じ……その上で、私が危険度という点で注目しているのは三人。リリウッド、ロズミエル、ジュティアだな」
???「ほうほう、その心は?」
シリアス先輩「まずリリウッドに関しては、快人と一番付き合いの長い精霊だし、多くのイベントもこなしているといっていい。ただ、リリウッドに関しては本人が恋愛感情ってのをあまり分かってない節がある気がする。自分は樹であるみたいな認識だった期間が長いし、リリウッド自身があまり嗜好関連に興味ない感じで仕事ばっかしてるストイックな面があるから、恋愛感情について分かってないってのはあると思う。ただ、快人に女性として見られて喜んでたり、衝動的な己の行動に戸惑っていたりする感じもあるから、恋愛感情自体は芽生えているけど、いまの時点ではリリウッドにとって未知の感覚って感じかな? だから、なにかしらの切っ掛けがあれば一気に関係が進展する可能性は十分にあると思う」
???「思った以上にしっかりした解説……」
シリアス先輩「次にロズミエルは、快人への好感度は激高で恋愛感情もあるけど、本人が気づいてないタイプな気がする。それこそ、現時点でも仮に快人の方が告白したら二つ返事で受け入れそうなぐらいに好感度は高いけど、根本的に人見知りで人付き合いの経験が少ないのと、カミリアとかを含めて気を許した相手には距離感がバグりがちなこともあって、恋愛感情に自覚がない感じはする。たぶん快人をどう思うかって尋ねれば躊躇なく『大好き』って解答するんだろうけど、そこに恋愛感情が含まれているのに本人が気付けてない感じ……このタイプは単純に、ロズミエルが自身の気持ちに気付きさえすれば進展する可能性はある」
???「……ジュティアさんは?」
シリアス先輩「ジュティアの場合は、むしろしっかり自覚してるタイプだと思う。発言とか行動から、快人を恋愛的な意味合いで好きなのはほぼ間違いないし、それを本人も自覚している。ただ、性格なんかの影響で好意の伝え方がストレートかつ爽やかだから、快人の方が恋愛的な意味合いを含む好意とは気付いてない感じだと思う。そして、ジュティアはそれに関してまったく焦っておらず、早急に関係を進展させたりする気もなさそうな感じがする。なんていうのか、快人と仲良くしつつ、ゆっくり快人が自分の気持ちに気付いてくれたらいいなぁって、気長かつ長期的な展望で恋愛しつついまの関係を楽しんでるような雰囲気がある。なのでこっちに関しては、快人の方がジュティアが向けてくる行為がlikeだけでなくloveの意味合いもあるって気付かないと、ジュティアの方に急ぐ気が無いから発展には時間がかかると思うな。ただし、快人の方が気付いた場合は、ジュティアはストレートに好意を伝えてくるタイプだから、トントン拍子に話が進みそうではある」
???「ふむふむ……いや、言い訳のしようもないほど恋愛博士では?」
シリアス先輩「違う! シリアスの化身!!」




