依頼の品④
用件が終わったからか、俺から水を受け取ったランツァさんは明るい笑顔で手を振りながら帰っていった。なんというか、嵐のような方である。
1万本のスピアマッシュに関しては、消費方法を考えなければいけないが……とりあえず、せっかくなのでひとつ食べてみたいところである。
松茸ご飯とかお吸い物もいいが、とりあえずは焼いて食べてみよう。どうせ焼くなら七輪で炭火焼にして食べたいところだが……。
「……アリス、七輪と炭火に使える炭とかある?」
「カイトさんは、私を言えばなんでも取り出す便利な道具袋と勘違いしてないっすかね?」
「そう言いながら、既に七輪手に持ってるじゃねぇか……」
とりあえずアリスと一緒に食べることにして声をかけると、流石準備がいいというべきか七輪を手に持っていた。そのまま玄関前で松茸を焼くのもアレだったので、裏庭に移動して食べることにした。
「……洗っちゃいけないんだっけ?」
「香りが流れますからね。こうやって濡れた布巾で軽く汚れを拭いて、石づきの部分の先だけ切り落として……あとは軽く切れ目を入れて手で割けば、綺麗に裂けれますね」
「おぉ、もう既に美味しそう。このまま焼けばいいのかな?」
「霧吹きで軽く日本酒を吹きかけて、少量の塩を振って……こんなところですね。焼き上がったら割り醤油とか、すだちとか、出汁ポン酢とかで食べるのがいいですね」
流石アリスというか、解説しつつ手際よく準備をしてくれる。その間に俺はハイキングとか用の小さめのサイズの椅子をふたつ取り出して並べ、小型のテーブルも出しておいた。
「日本酒も出すか……」
「いいですね~ああ、表面に水分が出てきたら食べごろですね」
ほどなくして七輪の上に置いて焼いていた松茸の表面に、ふつふつと水分が出てき始めたので、すだちを軽く絞って、醤油を少しだけ付けて食べる。
松茸の独特の香りが鼻に抜け、瑞々しさがありつつもシャキッとした歯ごたえと旨味が口の中に広がる。う~ん、久しぶりに食べると美味しい。
「美味いな。というか、松茸自体凄く久しぶりに食べた気分だ」
「まぁ、こっちの世界じゃほぼ無いっすからねぇ。もう五本ぐらい焼いてっと……」
「食べるのが、早ぇよ……」
というか、大量に余ったらアリスに食べさせたら全部消費できるのではなかろうか? マジックボックスに大量に入ってる類の食品を整理しようと思ったら、もしかするとそれが一番効率がいいのかもしれない。
「……なんか、私を余りものの食品処理に利用しようとか考えてません?」
「……あ、いや……う~ん……アリス、あと100本ぐらい食べない?」
「諦めましたね!? いま、誤魔化そうとしたのを途中で諦めて、開き直って処理させる方向に舵切ったでしょ!! なんか、私の扱いが雑で釈然としない感じっすけど……まぁ、スピアマッシュは美味しいのでいただきます」
どこか呆れたような表情を浮かべつつも、テンポよくスピアマッシュを食べるアリスを見て苦笑しつつ、それはそれとしてお裾分けのことも考えることにした。
香織さんとか松茸に関して話をしていた相手にはもちろんお裾分けするのだが、それ以外にも異世界出身者であれば欲しがる可能性は高い。
葵ちゃんと陽菜ちゃん、俺の両親に関してはすぐに確認できるので、茜さんとか正義くんとか重信さんとかに確認して、欲しがるようならお裾分けすることにしよう。
ノインさんは、どうだろう? 松茸より椎茸の方が好きみたいなことはクロが言っていたが、別に松茸が嫌いとかってわけでもないだろうし、確認してみて問題なさそうならお裾分けしよう。
あとは……イプシロンさんのところに、雅さんが居るんだったっけ? 俺は会ったことが無い相手だが、誕生日の時に漬物を貰ったわけだし、そのお返しとしてイプシロンさんに渡してもらうのはいいかもしれない。
ただ、せっかくの凄く美味しくて質のいい松茸……もといスピアマッシュなわけだし、こうなんか、高級感あふれる木箱とかに入れて渡したほうが雰囲気が出そうである。
「……アリス、なんかいい感じの木箱ってない?」
「凄く便利に使われてるような気が……はい、スピアマッシュ入れるのに適した木箱と、木箱に敷く用のヒダやヒバの葉っぱです」
「逆になんで出てくるんだよ……しかも箱の表には、松茸って書いてあるし……」
少し前までのノリで適当に振っただけだったのだが、本当に松茸を入れるのに適した感じの箱が出てくるし、達筆な字で「松茸」って書いてある。相変わらずの先読み力というか、俺が振ってくるのも予想した上で用意してたのだろう。
「……というか、よく敷いてあるこの葉っぱってヒダとかヒバって言うのか?」
「言い方は色々ですね。ウラジロとかホダとか呼ぶこともありますが、概ねシダ植物の一種か、ヒバ……ヒノキの葉を敷くことが多いですね。抗菌と防虫効果のある葉ですからね」
「へぇ、そうなのか……」
アリスの説明に感心しつつ、さっそく渡された箱に軽く葉を敷いて松茸を並べてみると、一気にそれっぽい高級感のある雰囲気になった。
いい感じだし、これで知り合いのところには持って行くことにしよう。
シリアス先輩「そっか、その手があったか……余った食材はアリスに食わせる」
???「アリスちゃんの扱いが雑じゃないっすかね?」
シリアス先輩「丁重に扱ったら過剰なぐらい照れるからじゃないだろうか……?」




