依頼の品①
よく晴れた日の昼下がり、ベルのブラッシングを終えた後でふと裏庭の特殊空間を見てみようと考えて足を運んだ。
俺の家の裏庭にある扉はカナーリスさんが作った亜空間に繋がっており、そこにはネピュラやイルネスさんが物作りをする工房や、茶の木やカカオの木などがある畑などがある。
主に使っているのはネピュラとイルネスさんとカナーリスさんではあるが、俺も自由に出入りして構わないと言われているので、畑とかがどんな感じなのかを見に行くことにした。
ちなみに扉はひとつであり、入る時にノブの上にあるスライド式のプレートを動かすことで、工房だったり畑だったり繋がる先を切り替えれるようになっている。
裏庭に辿り着いてプレートを確認すると……あれ? なんか増えてる? 前は工房と畑のふたつだったはずだが、三つ目があった。
畑を見てみるつもりだったが、謎の三つ目の空間が気になったのでそちらにプレートを合わせてドアノブを回して扉を開け、先の見えない薄い膜のようなものを通り抜けると……そこは広々とした草原のような場所だった。
「おや? これは快人様、いらっしゃいませ」
「こんにちは、カナーリスさん……ここ、新しい空間ですか?」
中には居るとその空間にはカナーリスさんが居たようで、俺の目の前の空間ノイズのようにブレた後でカナーリスさんが現れたので軽く挨拶をしつつ、この空間について尋ねることにした。
「ええ、最近作った空間ですね。なんと表現するべきか、牧場みたいなものですかね」
「牧場? 牛とかを育ててるってことですか」
「育てているというよりは、品種改良をしている感じですね。たはぁ~ニフティで使う乳製品など用に乳牛を作りまして、いい感じに改良できないかと試行錯誤してる感じですね」
「ふむ、品種改良ですか? カナーリスさんなら、それこそ一発で凄い美味しい牛乳を出す乳牛とかも作れそうですけど……」
「仰る通り、自分のゴッドパワーで超美味しいミルクを出す牛とかは作れちゃうわけですが、なかなかどうしてそれが最善とも言えないわけなんですよ。確かに凄く美味しいミルクは作れますが、意外性とかは生まれにくいんですよね。試してみたら意外と美味しかったり、偶然変異して素晴らしい味わいにとか、最初から美味しいの作っちゃうとそういうのが起こらないので、味気の無さはありますね。たはぁ~ロマン重視で申し訳ない」
なるほど……クロのベビーカステラに例えるのは若干失礼な気もするが、クロが言うところの無限の可能性的な感じかな? やってみたら意外と美味しかった組み合わせとかって感じに、制作者が意図しないところで偶然生まれる新しい味というのもあり得るので、最初から完成形と言える状態にしてしまうと、過程で生まれるそういったものを見落としてしまうというのもあるかもしれない。
「あとは食の好みなんてのは千差万別ですし、大多数にとって素晴らしいと感じる味は作れても、それが絶対の正解とは言えませんしね。いやそれこそ、食べた相手の一番好みの味に変化する性質とか付与したら解決するかもですが、結局そこもその日の気分とかで変わったりするので絶対的な正解は無いかもしれませんね」
「確かに、味って言う意味だと大多数にとって美味しい味はあるかもしれないですが、万人にとっての正解とかは無いかもですね。それでいろいろ改良してるんですね」
「そんな感じです。自分ゴッドなので、本来は長い時間がかかる品種改良とかも時間短縮可能ですからね。短い時間でもいろいろな改良ができるわけです。たはぁ~タイパ重視の現代風で申し訳ない!」
いつも通りの無表情のままで軽快な口調で話すカナーリスさんに苦笑した後で、ふと俺はあることを思いついて尋ねてみることにした。
「……カナーリスさん、ちなみに……美味しい水とかもあったりします?」
「お任せください! それでは、こちらに取り出しましたのは信頼と実績のゴッド印のミネラルウォーターです。なんとこのお水……とても美味しい! ただそれだけです、他の効果は一切ありません! よろしければ一杯どうぞ」
「ありがとうございます……おっ、確かに凄く美味しいですね」
「まぁ、あくまで水として美味しいだけなので、感動するような味わいとかではありませんけどね」
カナーリスさんに飲ませてもらった美味しい水は、確かに美味しかった。まぁ、カナーリスさんの言う通りあくまで水として美味しいだけで、別に美味しすぎて感動するとかそういうわけでもなく、あくまで飲みやすくて質のいい水……それ以上でも以下でもないみたいな、そんな感じだった。
「実は明日ちょっと頼みごとをしてた相手が訪ねて来る予定で、食事とかはほとんどしなくて水ぐらいしか飲まない方なのでいい水をお礼にと思ってたんですが……俺が買ってたやつより、カナーリスさんの水の方が美味しいですね」
「たはぁ~そこはゴッド印なので、水としては天下一品でございます。まぁ、あくまで水として美味しいだけですが……おっと、自分察しのいい女を自称させていただいておりますので、快人様の言わんとすることは丸っとお見通しです。どのぐらいご用意しましょうか?」
「えっと……量は……」
水の話になったのは偶然ではあったが、明日来る方には急なお願いを聞いてもらったわけだし、どうせお礼として渡すなら質のいいものがいいだろうということで、カナーリスさんの作った美味しい水をお礼として用意することにした。
喜んでもらえるといいのだが、まだあまり話したことが無い方なので、分からない部分も多い。
シリアス先輩「……誰だ? 水しか飲まないって感じだと精霊っぽいけど……あんまり話したことが無い相手?」




