広がる余波㉞
神界の神域……のすぐ近くにシャローヴァナルが作った小さな浮島。後に快人と温泉デートを行うために、温泉街そのものを作成しているその島で、シャローヴァナルは細かな調整を行っていた。
小さい島とはいえ、温泉街が丸ごと入るぐらいなのでそれなりのサイズであり、拘りをもって作ろうと思えば時間はかかる。今回シャローヴァナルは、マキナの世界の温泉街をコピーした後で、それをトリニィアの文化に合わせて調整している最中である。
「う~ん、トリニィア風って言うなら、建物がレンガ造りとかでもいい気がするね。やっぱり建物のイメージって大きいから、現状のままだと日本感が強すぎる気はするね」
「なるほど……しかし、快人さんが一目見て温泉街であると感じられる程度には面影は残したいですね」
「例えばあっちの川をここまで伸ばして、ここに橋を作るとかは?」
「悪くは無いですが、その場合だとこの位置に橋が来ると橋から見る景色はイマイチになりそうです。高さ自体を調整しますか……」
アドバイスを求められてこの場に来ているマキナの言葉を聞いて、シャローヴァナルは軽く指を振って温泉街の地形を変化させる。
シャローヴァナルにしてみてもマキナにしてみても、本当に好きなように地形や環境条件などは作り替えることが出来るので、選べる選択肢は多く、それゆえになかなか方針を絞るのが難しかった。
「……そういえば、愛しい我が子に会いに異世界の神が来るって話だけど、イレクトローネは例外だったとして、次は誰の予定なの?」
「双極神と呼ばれる神が訪れる予定ですね」
「うげっ、あの激強の神か……ちなみに、そのあとの順番とかって決まってるの?」
「本来であれば電脳神ですが、彼女にはすでに自由来訪の許可を出したので、その次は分かりません。異世界の神同士ではいろいろ取り決めているようですが、私は詳細は知りません。その順番についても、私や快人さんの意向によっては変動する可能性もありますね」
「……ふむ」
淡々と告げるシャローヴァナルの言葉を聞いて、マキナは少し考えるような表情を浮かべた。
「……シャローヴァナル、私さ今回こうやって相談に乗ってるわけだけど……その代金代わりってことで、ちょっと早めに来させてやって欲しい神が居るんだけど、順番調整してやってくれないかな……ああ、もちろん双極神の後で大丈夫だよ」
「それは構いませんが、少し意外でしたね。てっきり、快人さんと行くために完成した温泉街を使わせろと言ってくるのかと……その場合は却下しましたが」
「私は別に、愛しい我が子と温泉旅行に行こうと思えば本場のところに行けるしね」
「……」
どこか自信満々に話すマキナを見て、シャローヴァナルは「なぜ快人さんが温泉旅行を承諾する前提なのだろうか?」という疑問が浮かびはしたが、わざわざそれを尋ねる気にもならなかったのでスルーした。
「それで、その神というのは?」
「極星神『アストレア・トリスト・メテオール』って奴……まぁ、クッソ生意気なチビ神で、センスの欠片も無いような奴だけど、愛しい我が子の素晴らしさを理解する程度の常識は持ち合わせてるみたいだから、愛しい我が子のことを自慢してやろうって思ってね」
「仲がいいのですか?」
「全然! センスもないし趣味も悪いし、この前だって私が作った愛しい我が子の映画見せたら、大泣きしてたくせに『貴様にしては多少マシなものを作ったようじゃな』とか、負け惜しみみたいなこと言ってきたしね! 決して、愛しい我が子に会う順番がまだ先で落ち込んでたからちょっと口きいてやろうとか、そういう意図は一切ないから!!」
「……そうですか」
シャローヴァナルは「つまりそれは仲がいいのでは?」という言葉を飲み込んで頷いた。それを口にすれば面倒な反応をしてきそうで、そうなると余計な時間を取られて温泉街の調整が遅れるからだ。
「順番の変更は構いません。双極神の来訪が終わったら、声をかけてくるように伝えてください。その代わり、温泉街の完成まではいろいろ付き合ってもらいますよ」
「はいはい。まぁ、私としても愛しい我が子が旅行するならいい場所であってほしいし、協力はちゃんとするよ」
「……それにしても貴女は、以前と比べて砕けた口調で話してくるようになりましたね」
「いい加減慣れたしね。というか、前は私の問題というよりは、シャローヴァナルが淡々としすぎてたから自然と事務的なやり取りになってた気がするね」
さすがにこちらの世界に端末をふたつも常駐させて、シャローヴァナルとも何度も会話をしているのでマキナもシャローヴァナルとの付き合い方が分かってきたのか、以前と比べれば砕けた様子で会話をするようになってきた。
少なくとも快人の影響で成長した今のシャローヴァナルであれば、理不尽に物語の終わりを使ってくることは無いという安心感もあるのだろう。
「……そういえば、この温泉街って愛しい我が子との旅行に使った後はどうするの?」
「ふむ……リリアにでもあげますか」
「あ、いいね。観光とかに使えそうだし、シンフォニア王国のどっかに島ごと下ろしてプレゼントすれば無駄にならないね」
ごくごく普通に雑談をするようなノリで会話をする世界創造の神々……こうして、最近人界を騒がせているリッチ男爵家領や、シャロン伯爵家、アルクレシア帝国の躍進、様々な商会の動きなど……それらとはまったくなにも関係の無いところで、とてつもない胃痛がリリアに降り注ぐことが決まったのだった。
シリアス先輩「最強はいかなる時も最強……最強の胃痛戦士半端ねぇよ。特に脈絡も理由もなく、とんでもないところで超級の胃痛フラグが立ってるよ……」




