広がる余波㉝
アルクレシア帝国皇城の会議室には、皇帝であるクリスの他にシンフォニア王国現国王であるライズ、ハイドラ王国国王であるラグナの姿があった。
リッチ男爵家絡みの話し合いが終わって数日、ライズとラグナより三国の代表で会談を行う場が欲しいと要求があり、快人がこの世界に来る以前では考えられないほどのスピードで三国会談の場が用意された。
この話し合いに関しては、黄金リプルは関係ない。黄金リプルはクリスであってもアリスから話を聞かされるまで知らなかったことなので、ライズやラグナが把握している筈もなく、今回の会談の要求はアルクレシア帝国西部の動きに関するものだった。
ライズもラグナもそれぞれ強い情報網は持っており、快人が関わっている可能性が高いと情報も得てこの会談に臨んでいたが……クリスから説明された話は、ふたりの予想を大きく超えるものだった。
「いやはや、最近のアルクレシア帝国の躍進は凄まじいのぅ。景気が良いようで、羨ましい限りじゃ」
「……本気で、羨ましいと思っていますか?」
「いや、むしろ安易にシンフォニア王国やライズ坊が羨ましいと思っていた過去の己を恥じておるぐらいじゃ……しかしまぁ、国益という面では凄まじいのも事実じゃしな」
疲れた表情を浮かべるクリスを見て、ラグナは苦笑を浮かべつつ告げる。冷静で弱みを易々とは見せないクリスが、明らかに疲れた表情を浮かべていることからも今回の件の凄まじさが伝わってきた。
「……それこそ、これがしっかりと間を開けてひとつずつ発生してくれるなら、手放しで歓迎したんですが……あ、あまりにも次々に彼方此方で発生するので、時間も人手もまるで足りていません。こちらはまだ、例の観光都市の再開発計画の予算案を詰めている段階だというのに……」
「ああ、教主様が訪れたという都市でしたかね? 結局、国が主導して再開発することにしたわけですか……」
オリビアが快人とデートをした際にも、オリビアが認識阻害などを行っていなかったこともあって、それなりに話題になっており、その情報も掴んでいたライズが尋ねると、クリスは頷きながらも頭を抱えた。
「元々観光地としてはやや停滞気味でしたからね。教主様が訪れたことと、最近神界回りとの関わりが多いことも相まってそちらの方向に舵を切ろうと色々準備をしていたのですが……今度は西部に大きな動きがあり、別の交易都市では竜王様と戦王様が観光に訪れ、ヴィクター商会とシャロン商会回りも不確定とはいえ動き、豊穣神様の加護の強化に、黄金リプル……10日も経たない間に……あ、あまりにも、やることが多すぎます」
「……本当にカイトは凄まじいのぉ。国益を考えればハイドラ王国にも来てほしいが、その時は手加減して欲しい気持ちでいっぱいじゃ。しかし、アレじゃな……クリス嬢はいっぱいいっぱいという感じじゃが、ライズ坊はシンフォニア王国でアレコレ起こっている際も、それほど切羽詰まった様子は無かったのぅ?」
明らかに胃を痛めている様子のクリスを横目に、一番快人が影響を及ぼしているであろうシンフォニア王国の国王であるライズは、過去にそれほどアタフタしていた様子が無かったことを思い出し、今後のヒントにでもなればと尋ねると……ライズはなんとも言えない表情で苦笑する。
「……いえ、我が国の場合はその……なにかあると、ほぼリリアンヌのところに集中するので、私が動くこと自体が少ないといいますか、情報が入る頃にはもう手遅れと言いますか……」
「なるほどのぅ、リリア嬢のところに集中するから、とりあえずリリア嬢周りを警戒しておけばいいという意味でも、対応はしやすいのか……いかんのぅ。国益のために妹君の胃を犠牲にするような真似は……」
「……できるのなら、なんとかしたいのですがね。ミヤマくん相手だと、事前の対策が意味を成しませんし……いや、リリアンヌも決して運が悪かったりするわけではないと思うんですが、どうにもこう、厄介な事態を全力で引き寄せるというか、厄介事がリリアンヌに一直線で向かっていくというか……」
「ままならんものじゃのぅ」
そう、ライズがシンフォニア王国で快人によるなにかしらの事態が発生した際に、あまり疲れた様子ではなかったのは……そうした胃痛案件は、ほぼすべてリリアに収束するというのが要因だった。
そして、リリアがその手の胃痛案件をブラックホールのように吸い寄せるので、とりあえず快人の家とリリアの屋敷回りを警戒しておけば情報も入りやすく、発生後の対応もしやすいということもあってある程度余裕はある感じだった。
「あとはアレじゃな。カイトが家も構えて、こっちでの生活に余裕ができて行動範囲が広がった感じはあるのぅ。以前に話したときにも、首都以外の都市などに関心を抱いている様子じゃったし……今後さらに行動範囲が増える可能性もあるな……」
「……今度ミヤマ様にハイドラ王国の都市観光を勧めておきます」
「やめんか、クリス嬢。一種のテロ行為じゃぞ……いや、恐らくすごい国益は上がるんじゃろうが……老体に胃痛はしんどいんじゃて……」
アルクレシア帝国に行動の範囲を広げてわずかな期間でこの様子となると、ハイドラ王国に行動範囲を広げるとどうなるかは容易に想像ができ、ラグナはなんとも言えない表情を浮かべていた。
【シンフォニア王国】
変わらない吸引力の胃痛ブラックホールが居る為、王宮はそれなりに平和。
【アルクレシア帝国】
最近HOTな胃痛スポットであり、クリスもしっかり痛めつけられている。
【ハイドラ王国】
スパイス料理に興味を持っていたり、ハイドラ在住の重信が居たり、釣りをそこそこ好んでいたりと、キッカケがあれば快人が足を延ばしそうな予感はある。ラグナが胃痛に悩ませられる日も近いのかもしれない……。




