広がる余波㉜
大まかな方針を決めるための話し合いは、最終的に黄金リプルに関してはハミルトン侯爵家が、転移ゲートに関しては西部地域開発の名目でアルクレシア帝国が手助けをする形で纏まり、ようやくと言うべきかリッチ男爵とマリーは、家に戻ってきた。
「……なんだか、もの凄く久しぶりに帰ってきた気がします」
「同感だ……とりあえず、マリーも疲れただろうし、今日はゆっくり休みなさい。我々も話し合うべきことは多いが、それは明日以降にしよう」
「助かります。もう本当に、いっぱいいっぱいだったので……」
リッチ男爵もマリーモ疲れ切った表情であり、辺境の貧乏貴族でしかない己たちが国家規模……場合によって世界規模と言える状況の渦中にいることが、相当に堪えた様子だった。
それでも、クリスやハミルトン侯爵、エリスと言ったふたりから見れば経験も手腕も遥かに上の者たちが協力を約束してくれたことで、多少なりとも未来に光明は見えた。
「……それこそ、お父様は陞爵したりするんじゃないですか?」
「なにも功績を上げてないのに? いや、理由なんて陛下がその気になればいくらでも付けれるだろうが……陞爵は陞爵で、実際にそうなったらやるべきことも多くなるし、そんな余裕は一切ないので止めて欲しいのが本音だ。まぁ、特に私を陞爵させることによるメリットは無いだろう。むしろ、マリーに爵位を与えるという話が本格化するほうが、可能性として高いような気がするな」
「それは本当にご容赦いただきたいです。いまでさえ頭が破裂しそうなのに、これ以上大変な立場にはなりたくないです。いや、本当に……」
「ははは……まぁ、とりあえずいまはゆっくり休もう」
疲れた表情で会話をした後で、リッチ男爵とマリーは分れてそれぞれの部屋に向かった。
自室に辿り着いたマリーは、確認の意味を込めて快人にプレゼントされた服とアクセサリーを取り出し、なんとも言えない表情でそれを見ていた。
まさかこんなことになるとはという思いと、いまだに若干夢見心地というか現実感が無い状況に思考が上手く定まらない感じだった。
するとそのタイミングで、マリーの部屋のドアがノックされ姉である三女が部屋にやってきた。
「マリー大丈夫? 物凄く疲れた顔してるけど……」
「大丈夫かどうかを聞かれたなら、大丈夫じゃないです。とんでもないことになっちゃったなぁと……見てくださいお姉様、この服にアクセサリー……」
「凄いわね。あっと言う間に、マリーが家で一番のお金持ちになっちゃったわね。でも、綺麗で高級な服に素敵なアクセサリー、それこそ憧れの品々と言っていいものばかりなんだけど……不思議ね。ちっともマリーを羨ましいと思わないというか、自分じゃなくてよかったって気持ちでいっぱいよ」
一番上の長女であっても持っていないであろうランクの服に、明らかに高級品と分かるアクセサリー……貴族の女性として、そういったものに憧れはあるが……それでも、現在のマリーの状況を思えば、羨ましいとは感じられなかった。
「お姉様も覚悟した方がいいんじゃないですか? もしかしたら、政略結婚のお話とか来るかもしれませんよ」
「やめて、私は小さめの都市で司書になるつもりなのに……」
「ウチの領が発展して、図書館ができるかもしれませんよ?」
「……そんなに凄いことになりそうなの?」
「皇帝陛下とかエリス様とかの予想だと、ここから西部地方が凄く発展するんじゃないかって……」
「そうなったら、マリーはリッチ男爵家中興の祖って呼ばれるかもしれないわね」
「あはは、歴史に名が残っちゃうかもしれませんね……はは……冗談だったら……よかったのに……」
冗談めかして告げる三女の言葉に苦笑しつつも、本当にそうなりそうな可能性があるためマリーの表情は引きつっていた。
しかし、彼女も辺境の貧乏男爵家でたくましく生きてきた女性であり、切り替えなどは早い方だ。少しすると、首を横に振って気持ちを切り替えて笑顔を浮かべる。
「……でもまぁ、悪いように考えてばっかりじゃ駄目ですよね! 大変な部分はありますけど、憧れの高級服ですよ? しかも、お姉様とかのお下がりじゃない」
「ふふ、そうね。でも、ミヤマカイト様ってやっぱ凄いのね。パッと見ただけでもかなり高級な服だと思うけど、これをアッサリプレゼントしてくれたんでしょ?」
「全然金額に動揺した様子もなく、むしろ安い買い物をするような感じでしたよ。やっぱり、お金持ちは違うんだなぁって実感しましたよ。幻王様のお話では、この服やアクセサリー程度は本当に安い買い物だったみたいですし……」
「マリーのことを気に入ったから、プレゼントして印象を良くしようとしたのかもしれないわよ?」
「いやいや、私は別に美人とかでも無いですし、それこそカイト様なら他により取り見取りでしょう?」
「だからこそ、素朴な可愛さを持つ子がいいのかもしれないわ! それにマリーは十分美人だと思うわよ……姉妹の中じゃ私に似てるからね!」
「ふふふ、なるほど……」
明るく告げる三女に釣られて、マリーも楽し気な笑みを溢す。確かにとてつもない事態になったし、胃の痛い思いはこれからも多く待ち受けているのだろうが……正直服とアクセサリーは嬉しかったし、なんだかんだで快人と買い物をしたりカフェに行ったりという時間も楽しかったので、いいこともあったと前向きな思考で笑顔を浮かべていた。
シリアス先輩「ま、まぁ、流石チャージ型と言うべき凄まじい胃痛だったが、とりあえず抱えていたフラグ系は一通り消化したので、ひと段落付いた感じはあるのか……コーネリアの方はまだこれからだし……」




