広がる余波㉙
アリスの登場に驚愕するのも束の間、いち早くクリスが、続いてエリスが状況のヤバさに気が付く。わざわざアリスが直接出向いてくるほどの内容ということは、本当にとてつもない話であるという事……。
さらにこのタイミングでアリスが現れたということは、クリスやエリスも耳に入れておくべき話……すなわち、国に対しても大きく影響のある内容である可能性が高い。
「……アリス様、こうして赴いてくださったということは……我々がまだ知らぬなんらかの情報を与えてくださると、そういう解釈でいいでしょうか?」
「その通りです。最近柔軟さが身についていい感じですね、クリスさん。いまなら、白金貨3枚ぐらいの評価付けますよ。まぁ、とりあえずダラダラ引き伸ばしても意味は無いので、さっそく本題に入りましょうか……では皆さん、胃に穴が開く覚悟はいいですか?」
そんな覚悟はしたくないというのが全員の気持ちではあったが、すでにヤバい内容というのは確定しており、経験の浅いリッチ男爵やマリーも遅れながら事態の深刻さを察して、いまにも意識を飛ばしそうになっていた。
だが恐らく、これはリッチ男爵とマリーに大きく関わる話であり、聞かないわけにはいかないと必死に気力を振り絞ってアリスの話に耳を傾けた。
「まず、マリーさんがなにか変なことをしたかって言うと、別にそういうわけではないんですよ。本当になんというか、運が悪かったとしか表現のしようが無いですね。それで、その内容なんですが、マリーさんはカフェでカイトさんに対して黄金リプルの話をしましたね?」
「……え? あ、はい」
「……黄金リプル?」
アリスの言葉にマリーは頷くが、黄金リプルというものが何か分からないリッチ男爵とマリー以外の三人は不思議そうな表情を浮かべていた。
それを見たリッチ男爵は、簡単に黄金リプルについて説明する。
「黄金リプルは、ウチの領に伝わる伝承というか……以前の領主がリプルを売るために広めようとした話なのですが、皆さんがご存じない通りほぼ広まることもなく、領地の一部でたまに話題に上がる程度にだけ話が残っているものです」
「……ああ、なるほど、たまに聞く話ですね。販売戦略として広めようとしたものの上手くいかず、しばらく経って殆どの人が忘れてから『どこで聞いたか覚えていないがこんな話が……』という形で話されて、それが一種の伝承のようになってしまう」
リッチ男爵の説明を聞いて、クリスが納得した様子で頷く。その手の広めようとして上手くいかず、話だけが独り歩きして都市伝説のようになってしまうというのは、過去にもいくつか前例があるものだった。
「そう、本当にただの与太話でしたし、マリーさんもカイトさんに対してちゃんとそのことも説明しましたし、カイトさんが誤解したわけでもない。本当に他愛のない雑談だったはずなんですが……困ったことに、その会話を覗いてて、黄金リプルに興味持っちゃった方が居たんですよね……神域に」
「「「「「……」」」」」
その瞬間、部屋の中の時間が止まったかのような沈黙が流れた。クリスも、エリスも、マリーも、ハミルトン侯爵も、リッチ男爵も……誰ひとりとして反応を示すことが出来ず、ただただ目を見開く。
それもそのはずだろう、アリスが口にした「神域に」という言葉……それが当てはまる存在は、この世界に住む者であれば即座に思い至る。
全員の顔から血の気が完全に引き、小刻みに震え始める中、それでもなんとかクリスが言葉を絞り出した。
「……ア、アリス様……そ、それはつまり……」
「……シャローヴァナル様っすね。しかも、それだけならまだ話はシンプルだったんですけど、シャローヴァナル様はその黄金リプルに関してライフさんに一任したみたいなんですよね。しかも、期待してるって言葉付きで……まぁ、それで、ライフさんのやる気もヤバいことになっちゃってるわけですよ」
言葉が出てこない。絶句というのはまさにこの状況だろうと、そう思えるほどに異常なほどに頭の中はクリアなのに、アリスの話がまったく頭に入ってこない。
言葉だけが空っぽの頭の中をぐるぐると回っているかのような感覚を、クリスを含めた五人は味わっていた。
「……というわけで、近日中にリッチ男爵家……というか、マリーさん個人に『神族が総力を挙げて作り出した黄金リプルのなる木』が届くと思います。ついでに『最初の黄金リプルはシャローヴァナル様に献上するように』って指示も付いてくると思うので……覚悟しといてください」
無慈悲に告げられた死刑宣告のような言葉に、マリーとリッチ男爵は一瞬で意識を飛ばし、白目を剥いて口から泡を吹いていた。
……そして、その数秒後に情け容赦もなく、アリスによって気付けの魔法でたたき起こされることとなる。
シリアス先輩「そっか、貰うだけじゃないのか……シロに出来た黄金リプルを献上しないといけないのか……終わったな、マリーの胃……」




