広がる余波㉘
元々クリス側が呼び出したこともあり、非常にスムーズな流れで主要人物が皇城の一室に集合した。今回は当事者であるマリーと父親であるリッチ男爵。派閥の長であり、この件に関していろいろリッチ男爵家の補助を行う予定のハミルトン侯爵家の当主であるハミルトン侯爵と、アルクレシア帝国貴族でクリスに次いで快人と関わりが多いエリスの4人に、クリスと側近のみという非常に少人数での会議だった。
「急にお呼び立てすることになって、申し訳ない。今回の件には私も皇帝として事情を把握しておく必要があると判断した結果です。ミヤマ様に関連する事柄は、対応を間違えれば大きな騒ぎになる可能性もありますし、上手く連携を行いつつ対応できればと考えています。またこの席では、話をスムーズに進めるため、エリス・ディア・ハミルトン侯爵令嬢及びマリー・リッチ男爵令嬢に関しては、家名と爵位を省略してそれぞれエリス令嬢、マリー令嬢と呼称することとします。マリー令嬢とは初対面ではありますが、格式張った挨拶なども不要ですし、マナーや発言等を咎めることはありませんので、安心して発言してください。他の者たちもこの場においては、遠慮せず自由に発言してもらって構いません」
最初にクリスが簡単に告げて、皇城という場において下級貴族であるリッチ男爵やマリーが緊張していることを察して、先んじてマナーや発言などを咎めることは無いと安心させる。
そしてほどなくして、この場に居る者たちが一番知りたいであろうマリーの話が始まる。マリーは緊張しつつも、とりあえず快人と出会った場面から覚えている限りのことを説明する。
内容に関しては、リッチ男爵は途中で何度も青ざめていたのだが、他の面々は落ち着いた表情だった。
「……なるほど、話は分かりました。まず先にマリー令嬢の不安を取り除くと、話の内容を聞く限り特にミヤマ様や周囲に不敬とみなされるようなことはありませんよ」
「そ、そうなのですか……? た、大変高価な品物ばかりをいただいてしまって……」
「マリー様の認識としてそう感じるのは無理も無いですが、実際にカイト様の財力から考えれば懐が痛むような金額ではありませんし、カイト様の性格を考えるとむしろ素直に厚意を受け取ってもらえて喜んでいるかと思います」
マリーが不安に感じていた快人に白金貨3枚を超えるような品を貰ってしまったという話に関しては、クリスとエリスが問題ないと告げ、それを聞いたマリーとリッチ男爵は明らかにホッとした表情を浮かべた。
だがそれも束の間のことであり、すぐにクリスが表情を鋭くして告げる。
「……ですが、今回の件は少々まずい方向に進んでいる可能性があります」
「え? えぇ……」
「まず確認なのですが、マリー令嬢はミヤマ様と恋人同士になったり、あるいはそれに近い関係性の間柄になったりという事実はありますか?」
「あ、ありません! い、いえ、決してカイト様に男性的魅力が無いとかそういうわけではなく、まだ知り合って十日も経っていませんし、お会いしたのも機能を含めて2度だけですので……」
慌てた様子で告げるマリーの言葉を聞いて、クリスは一度頷いてから口を開く。
「私の手の者が、店でミヤマ様がマリー令嬢に服を贈っているところを見かけたらしく、念のために確認をさせていただきました」
「へ、陛下、もしかして……マリーがミヤマカイト様と恋仲になっているという噂が……」
「いえ、昨日の今日ではありますが、そういった話が広がる様子は全くありません」
青ざめながら尋ねるリッチ男爵にクリスが答えると、リッチ男爵とマリーはホッとした表情を浮かべ……エリスとハミルトン侯爵は表情を険しくした。
「……クリス陛下、それはつまり……高級店街の店舗にカフェと、貴族やそれに関わるものの目がそれなりに多い場所で目撃されている筈のカイト様とマリー様の話が、他に広まっていない……と?」
「ええ、もちろん後になって広まるという可能性が無いわけではありませんが……アリス様が動いた……そう判断していいと思います」
「……想像以上に悪い状況の様ですね」
「そうですね。普通に噂が広まってくれた方が、対応は簡単でした」
「「え?」」
真剣な表情で尋ねるエリスの言葉にクリスが頷くと、ハミルトン侯爵も重々しい口調で悪い状況だと口にしており、理由が分からないリッチ男爵とマリーは戸惑ったような表情を浮かべていた。
その反応を見て、エリスがマリーの方を向きながら簡単に説明してくれる。
「マリー様にしてみれば、カイト様と恋仲であるという噂が社交界などに広まると、好奇の注目を集めたりと大変にはなるでしょう……ですが、社交界で噂が広まるのは、カイト様にはほぼ影響がないのです。カイト様は社交界にほぼ関りは無いですし、カイト様が貴族令嬢の恋人を増やしたと噂が流れたところで、いまとなっては邪な目的でカイト様に接触しようと考える者もまずありえないでしょう」
「え、えっと、つまり?」
「今回の件において、貴族間で噂が広まったところで、大変なのはリッチ男爵とマリー様であり……カイト様に悪影響はない。つまり、幻王様が情報操作に動くとは思えない状況なのです。ですが、クリス陛下の読みでは、今回幻王様が動いている」
「……アリス様は、基本的にミヤマ様に悪影響が無い問題は傍観していることが多いのですが……稀にミヤマ様に大きな影響がなくとも、こちらを手助けするような動きをしてくださることがあります。そしてそれは、アリス様が思わず同情してしまうような状況である場合の話……つまり、まだなにかあるんですよ。今回の件には、アリス様がマリー令嬢を多少なりとも手助けしようと考えるような何かが……」
エリスとクリスの説明を聞き、ようやく理解が追い付いたのかマリーとリッチ男爵の表情が蒼白になる。なにか大きなことが動こうとしているかのような、そんな感じがあるのにそれがなにか分からない不気味な空気……その空気を切り裂くように、どこか呆れた声が響く。
「いや、そうなんですね~。ホントそんなちゃっちな噂が広まる程度なら、私は笑いながらワインでも飲んでたはずなんですけどねぇ……」
「「「「「!?」」」」」
本当にいつの間にか、クリスたちが話し合いをしていたテーブルの席に座っていたアリスを見て、室内の者たちは驚愕と共に言いようのない不安を感じた。
情報操作だけではなく、アリスが直接姿を現す状況……これは、本当に想像以上の事態が動いているのではと……。
シリアス先輩「……あ、ちゃんと教えてあげるつもりなんだ」
???「さすがに、先に伝えとかないと大騒ぎになりそうですし、マリーさんの胃が消滅してしまいそうですから……」




