星見酒⑨
ワインは丘で既にほぼ飲んでいたこともあり、ほどなくしてリプル酒に移行した。以前にリグフォレシアに行った際にも飲んだが、爽やかな飲み口が心地よい。
「リプルと言えば今日、黄金リプルって話を聞いたんですよ」
「黄金リプルですか? 初めて聞く名前ですが、金色のリプルなのでしょうか?」
「いや、販売戦略上流した噂みたいなもので、実在はしないらしいんですけど世界一美味しいリプルだとかって話です。もし仮に黄金リプルが実在したら、それでリプル酒を造ったら美味しいですかね?」
「ロマンは感じますね。でも、実際は難しいかもしれませんね。私も専門家ではないので詳しくは分からないですが、食べて美味しいものと酒にして美味しいものが同じとも限りませんしね」
「あ~ブドウとかもそうですよね。ワイン用のブドウは酸味が強かったり味が強かったりで、好みが分かれるみたいですし、リプルもそうかもしれないですね」
確かにジークさんの言う通り、食べて美味しいリプルと酒にして美味しいリプルは違うのだろうし、世界一美味しいリプルがイコール世界一のリプル酒になるというわけでもないか……。
まぁ、そもそも黄金リプル自体が都市伝説みたいなものなので、単なる雑談でしかないのだが……。
「カイトさんは、リプルパイが好きと言っていましたが、リプル自体も好みですか?」
「果物の中では一番好きかもしれませんね。他だと、みかん……えっと、オレンジとかも好きですね。少し酸味がある果物が好きなのかもしれませんね。ああでも、イチゴとかも好きですし、なかなかこれが一番って絞るのは難しいかもしれませんね」
「なるほど、私も果物は全般好きですが、一番がなにかと言えば少し悩んでしまいますね。果実酒の中では、リプル酒が一番好きなんですが……」
「そうなんですか? 確かに、リグフォレシアの時もリプル酒でしたね」
基本的に果実酒かワインしか飲まないジークさんだが、一番好きなのはリプルみたいだ。俺もあんまり果実酒に詳しいわけじゃないが、オレンジ、マスカット、ピーチ、イチゴ……その辺りの種類は見たことがあるし、ミックスみたいなのもあるらしい。
だが確かに言われてみれば、ジークさんが飲んでいるのは大抵リプル酒だった気がする。
「……正しくは、リグフォレシアの時にリプル酒だったので、一番好きになったんですよ」
「え?」
「カイトさんと恋人になれた思い出に残る里帰りで一緒に飲んだお酒ですからね。幸せな思い出があるおかげか、それまで以上に好きになったんですよ」
「……そうですか……でもそう言われてみると、ジークさんと一緒に飲むリプル酒は、特別に美味しい気がしますね」
「ふふふ、それなら、一緒ですね」
嬉しそうにもたれ掛かってくるジークさんの肩に手を回して、肩を抱く姿勢になる。薄着なこともあって密着感が凄くてドキドキするというか、お酒も入っているからか体温も上がってるような気がした。
変に意識してしまう部分が無いと言えば嘘になるが、そいうところも含めて幸せな感じというか、恋人との幸福な一時って感じで、なんだか心地よさも感じた。
しばらく酒を飲みながら雑談し、ジークさんが用意したリプル酒を飲み切ったタイミングで晩酌は終了となった。
そして互いに簡単に寝る準備をして、一緒にベッドに入って照明を薄暗くする。 明りはベッド脇の小さな照明魔法具を弱い状態で付けているだけではあるが、完全に真っ暗というわけではない。
「……そういえば、リグフォレシアに里帰りした時も、一緒のベッドで寝ましたね」
「ああ、レイさんとフィアさんの悪ふざけで……結構懐かしく感じますね」
確かにジークさんの家に泊まった際にも同じベッドで寝た。あの時は互いに背中合わせの形で、とにかく意識しないようにと努めながらだった覚えがある。
いまは普通に向かい合っている状態であり、暗さに少し目が慣れたことでこちらを見ているジークさんの顔がよく見えた。
「あの時は少し変な質問をしてしまいましたが、カイトさんは覚えてますか?」
「ええ、滅茶苦茶返答に困ったような覚えがあります」
その会話に関しても覚えている。レイさんがジークさんの下着がどうだとかって話をしたからか、ジークさんが「もし仮に自分の下着姿を見たら興奮するか?」という風に尋ねてきて、俺がそれに答えた感じだったと思う。
あの時のジークさんは結構自己評価が低い感じで、己には女性としての魅力はあまりないという感じに考えている感じだった。まぁ、自己評価の低さに関しては、俺も突っ込まれたが……。
「あの頃はなんていうか、お互いに自己評価が低かったですよね」
「ふふ、そうでしたね。ですが、いまはもうカイトさんのあの時の言葉が事実であると、実績を伴って理解していますので……前よりはちょっとだけ、自信を持てるようになったかもしれません」
「そこは大いに自信を持ってもらって大丈夫だと……ジークさんは、あの頃から魅力的でしたが、いまは前さらに魅力的で素敵な女性だと思います」
「……きっと、貴方が……魅力的にしてくれたんですよ」
優しく甘い声が聞こえ、スッとジークさんの手が俺の背中に回されたのが分かり……そこから先に、それ以上の言葉は必要なかった。
シリアス先輩「ふぐぁっ……あっ……がっ……も、もう無理、死ぬ……って、なんだこれ!? 体が液体に!? というか、液体なのに体の形になってる!?」
マキナ「……いや、喉乾いたからミックスジュースに……」
シリアス先輩「お前、人の体好き勝手に弄り過ぎだろ、おいこらっ!? なにストロー刺してやがる!! 本当にいつもいつも人をおやつみたいに……はっ!? も、もしかして私の体が砂糖になったりするのは、お前が原因なのか!!」
マキナ「いや、それは知らないし、なにもしてない」
シリアス先輩「……あっ……そ、そうっすか……」




