星見酒①
街中でベルが走れば騒ぎになるし、かといって街の外まで歩いて移動するには王都の中央に近い位置の家からでは遠い。
なので普段散歩を行う時用に王都の外は転移魔法具に登録してある。ただ西門の外なので南の丘までは少々距離があるが、その辺りはベルのスピードなら問題ない。
簡単に準備をして、ベルとジークさんと一緒に転移魔法具に登録していた場所に転移する。もう既に日は沈んでおり周囲は暗いので、浮遊式の照明魔法具をふたつ起動し、光の方向を調整して車のライトみたいに前方を照らす形にする。
「ベル、暗いけど大丈夫?」
「ガウ!」
まぁ、ベルは夜目も効くので問題はないのだが、真っ暗だと俺やジークさんが前方を見えないので……いや、ジークさんは専用の魔法を使えば夜でも昼と同じぐらい見えるようになるらしいので、俺が前方が見えないと少し不安なのでライトで照らすことにした。
合図をするとベルはかなりスピードで駆け出すが、ちゃんと転落防止と揺れを軽減する魔法具を起動してあるのでまったく問題なく快適である。
「やっぱり早いですね。この分ならすぐに南の丘につきそうですね」
「ですね。まぁ、それでもそれなりに距離はありますし、普段の散歩コースより長いぐらいなので真っ直ぐ向かってよさそうですね」
後ろに乗っているジークさんの言葉に軽く答える。まだ子供とはいえベルの体はかなり大きく、俺とジークさんのふたりが乗っても全然余裕はあるし、魔法具により背の上でも安定しているので、ふたりで乗馬するような感じで密着する必要は無い。
それはそれで惜しい気もするが、そもそも相応に揺れる場合は先にバランスを崩すのはどう考えても俺の方だろうし、そうなったら俺の方がしがみ付く形になりそうではある。
「……う~ん、必要というわけでは無いですが、これはちょっともったいないですよね」
「うん? なにがですか?」
「いえ、恋愛小説などでは騎乗する際に男女が密着して互いに意識したりというのがありますし、似た状況でそれが無いのは少しもったいなくも感じますね」
「あ~俺もちょっと考えました」
余談ではあるが、ジークさんは結構小説を読む。最初に本屋に案内してくれたのもジークさんだし、元々本はよく読んでいたみたいで、小説などといった物語性のある方が好きなようだった。
ただ、以前は冒険譚とかそういう類の話ばかりで、恋愛小説はほぼ読んでいなかったはずだが、俺と恋人になってからはちょくちょく恋愛小説も読むようになったらしい。
そんな会話の後で、ジークさんはソッと後ろから俺のお腹の前あたりに手を回して密着してきた。
「こんな感じ、ですかね?」
「完璧な正解は分からないですけど、この感じはなんかいいなぁって気はします」
「ふふ、私もこういうのは好きですね。では、目的地まではこの形で……」
決して強い密着というわけではない。ギュッとしがみ付いていたりするわけではないのだが、優しく回された手の温もりに背中に感じる温かさと、耳の近くから聞こえてくるジークさんの優しい声。
ホッとするというか、幸せだなぁと感じる程よい密着感がなんとも心地いい感じだった。
それほど時間はかからず目的の丘に到着した。視界を遮るような木なども無く、星空が非常に見やすい場所ではある。
まぁ、王都からはそこそこ距離があるのでわざわざここまで流星群を見に来ている人は他には居ないようだった。滅多に出ないとはいえ、この辺りも時折魔物が出現することがあるみたいなので、一般人が来るのは難しいのだろう。
ちなみに俺たちに関しては問題ないというか、魔物は自分より強い魔物に敏感で喧嘩を吹っ掛けるようなことはほぼ無いため、人界に生息する魔物でベルが居るのに襲い掛かってくるような魔物はほぼいない。
一部ワイバーンとかみたいな、知性が低くて気性の荒い魔物は関係なく襲い掛かってくる可能性はあるのだが、その手の危険な魔物は首都付近には生息していないので安心して星を見れる。
ベルから降りてジークさんと相談しつつ良さそうな場所にシートを敷くと、ベルが待ってましたと言わんばかりの様子で伏せの状態になり、俺の方を尻尾を振りながら期待を込めた目で見てくる。
「……夕食食べたばかりだし、一個だけだからね」
「ガウ!」
いまのベルの視線を要約するなら「ちゃんと伏せして背もたれになるよ。いい子でしょ? ご褒美ちょうだい」という感じである。
それに苦笑しつつ、俺はマジックボックスからベルが期待しているであろう俺の腕より大きな肉の塊を取り出してベルの前に置いてやる。
これがなにかと言えば、いわゆるビーフジャーキーみたいなものだ。魔界に生息するアギサウロという……直接見たことはないのだが、図鑑の絵とか見る限りティラノサイルスみたいな外見の魔物の肉を加工した大型ペット用のおやつであり、ベルの大好物でもある。
ちなみに人間は食べれない。いや、毒があるとかじゃなくて……ハチャメチャに硬いのだ。それこそ、鋼鉄程度では文字通り歯が立たないレベルで硬く、腕力のある人がこのジャーキーを鈍器として振り回せば鉄の鎧を粉砕できるぐらいに硬い。
「ガウ~」
リンやセラもこのジャーキーは硬すぎて食べないのだが、ベルにとっては程よい歯ごたえと旨味がある最高のおやつみたいで、あげると大事に大事に少しずつ味わって食べるぐらいにお気に入りだ。
嬉しそうにジャーキを齧るベルを見て微笑みつつ、ジークさんと一緒にベルの体にもたれかかりつつ空を眺めた。
シリアス先輩「落ち着け、快人! ほのぼのだ、ほのぼハートフル路線でいこう! もう既に若干いちゃついてるけど、まだ引き返せる! 確かに、恋人とふたりっきりで酒を飲みながら星を見る……いちゃつくにはいいシチュエーションだ! だが、お前が原因で胃痛に苦しんでいる令嬢たちも居るんだぞ!! そんな中で、恋人といちゃついてるなんて申し訳ないと思うだろ! アリスも気になること言ってたわけだし、そっちに注目しようぜ!!」
???「あ、その点は大丈夫ですよ。わた……前回アリスちゃんがカイトさんに遠回しに『カイトさんが首突っ込むと厄介事が増えるので、大人しく恋人とデートしててください』って伝えてるんで、カイトさんは切り替えも早いので、その辺ちゃんと汲み取ってこっちは私に任せてデートを楽しんでくれますよ」
シリアス先輩「よ、余計なフォローを……」




