広がる余波㉕
今日は時間が無くて少し短めです
カフェで快人と共に紅茶とケーキを楽しんだ後で、迎えが来る時間が近いという事もあってカフェで現地解散する形で快人と別れ、マリーは事前に決めていた迎えが来る予定の場所に移動する。
マリーはいままでは夢見心地だった。それは常識外の事態、そして常識外の存在と言える快人が居たからこその要因であり、快人と別れ一呼吸置くような形になると、現実は速度を上げ一気にマリーの背後まで忍び寄ってきた。
「……マリー!」
「あ、お、お父様……」
本来はハミルトン侯爵家の迎えが来て、ハミルトン侯爵の邸宅で父と合流する予定になっていた。だが、ハミルトン侯爵家でマリーが快人と遭遇する可能性を聞いたことにより、リッチ男爵は心配になってマリーを迎えに来ていた。
そして、父の顔を見たことで少し気が緩んだのだろう……心に少し落ち着きが生まれ……目を逸らしていた現実が牙を剥いた。
「……マ、マリー? どうした? 顔が青……いや、もう蒼白と言っていいぐらいに……それに、汗も凄いぞ……」
「お、おと、お父様……へ、変です……夢から……覚めないです」
「夢? なにを言ってるんだ?」
「だ、だって、いままでのは夢で……夢じゃないと……」
顔からすべての血が抜けてしまったのではないかというほどにマリーの顔色は悪くなり、大量の汗を流しながらガタガタを振るえ始める。
ただならぬその様子に、リッチ男爵が困惑しつつ、それでもなんとか馬車にマリーを乗せる。馬車の席に座っても、マリーの震えは収まるどころか、どんどん大きくなっており、尋常ではない状態なのはすぐに理解できた。
「……お、おと、お父様……わ、私はもう駄目かもしれないです。カイト様に、と、とてつもない無礼を……」
「無礼? と、ともかく落ち着くんだ。ゆっくりと深呼吸をして、落ち着いてなにがあったかを話すんだ」
「だってあんなことあるはずがないから、夢だと思って……現実だったとしたら……わ、私は、浅ましくもカイト様に高価な服や装飾品を強請り、容量の大きなマジックボックスまでいただいて……あばば……そ、それこそ、全部で白金貨3枚以上というとんでもない金額を……い、いくら、カイト様の方が提案してくださったからと言って、あまりにも不敬で……だ、駄目です。これはもう、あの恐ろしき神様に処されてしまいます。お父様、先立つ不孝をお許しください」
「お、落ち着くんだ。状況がよく分からない。もっと、最初から順を追って……」
「あ、いや、もうむり……むり……あぅ」
「マリー!? しっかりしろ、マリー!!」
無敵モードが切れたことにより、それまで目を逸らしていたものが一斉に頭になだれ込んできており、その情報と感情の濁流に耐えられず、マリーは意識を手放した。
そうなると困るのはリッチ男爵であり、とりあえず大変なことがあったのは分かるし、マリーは快人に無礼を働いてしまったと恐ろしいことを口にしていたが、その詳細が分からない。
それが分からなければ、対応のしようもない……気絶したマリーを抱えつつ、リッチ男爵も青ざめた顔で呆然としていた。
なお、別に快人はマリーに無礼を働かれたなどとは思っておらず、むしろ非常に楽しい時間だったとマリーの評価はかなり上がっているぐらいだ。
白金貨3枚以上という額も普通に考えればすさまじいのだが、それこそ快人にしてみれば「アリスのやけ食い以下」の金額であり、本当にまったく大した金額では無かった。
そして、気絶する寸前に気にしていた恐ろしき神様ことマキナに関しても、快人が喜んでいるのに罰を与える理由など無いため、マリーの懸念は全て杞憂なのだが……この時点で彼女やリッチ男爵がそれを知る術は無い。
なお、むしろリッチ男爵がこの先頭を悩ませるのは、マリーが貴族の間でほぼ快人の恋人か愛人と認識されてしまう事なのだが……それに関しても、この時点では知りようがなかった。
シリアス先輩「あの恐ろしい神様だってさ……」
マキナ「失礼な話だよね! 私のどこが恐ろしいんだか、私は愛しい我が子の友人を理不尽に処したりしないし、愛しい我が子が気にしてないのに強請っただとか難癖をつけたりもしないよ。まぁ、神に対して畏怖や畏敬の念を持つのは自然なことだから、不敬だとは言わないけどね」
シリアス先輩「いや、全貴族に脅しかけてるからじゃ……しかも、一部には実際に未来を体験という形で、地獄見せたんだし……」
マキナ「シリアス先輩? いま私は、最低限の話は理解できる肉塊について言ってるんだよ。ゴミについて話してるわけじゃないんだから、その例は適切じゃないね」
シリアス先輩「……ア、ハイ」




