広がる余波㉑
アルクレシア帝国のハミルトン侯爵家の屋敷では、呼び出しを受けたリッチ男爵と向かい合う様に、ハミルトン侯爵とエリスの姿があった。
侯爵夫人は外出しているため、現在はこの三人で快人関連の事態についての話し合いを行っていた。
「……なるほど、加護の強化ときたか……商人たちの動きが慌ただしいのはこちらでも掴んでいたが、神界側の動きは予想外と言えるな」
「え、ええ、もう私としてはどうすれいいのかサッパリ……」
ハミルトン侯爵の言葉にリッチ男爵もなんとも言えない表情で頷く。加護の強化事態に関しては前例が存在しないわけではないが、それは天災などにより農作物の収穫量が大幅に落ち込む可能性がある時などに、一時的に行われるものであり、今回のケースとは違う。
今回はエルンが期間等を指定しなかったため、半永続的に加護の強化は続くものと推測され、前例のないケースと言えた。
「さすがに加護が関わるとなると、クリス陛下にも話を通す必要がありますね。あえて宣伝すべきか、尋ねられるまでは隠しておくべきか、その辺りはクリス陛下を交えた上で決めるべきでしょう。あとは、マリー様の精神面のケアですね。慣れぬ場に赴く機会が多くなるでしょうし……」
「そうですね。それもあって、マリーはこの場には同席させずに買い物に向かわせました。高級店街のでの買い物が気分転換になっているといいですが……」
加護は性質上それなりの範囲に及ぶため、国家のトップであるクリスも交えて話す必要があり、すぐにこの場で対応に関して決めることはできなかった。
エリスは今後もいろいろな事態に直面するであろうマリーを、己の過去の経験とも照らし合わせつつ心配していた。
そのまま話は、他の……リッチ男爵家領近辺への商人の注目が高まっていることに移っていくのだが、そのタイミングで慌てた様子のメイドが部屋に駆け込んできた。
「失礼いたします! 緊急の報告です……大通りの書店にてミヤマカイト様の姿が確認できたと……」
「「「!?」」」
メイドの言葉を聞いて、室内に一気に緊張が走る。まさに話題の中心と言っていい快人の目撃報告であり、シンフォニア王国ではなくアルクレシア帝国で姿を確認したというのであれば、これからなにか起こる可能性はある。
だが、そんなメイドの報告を聞いて、エリスは信じられないような表情を浮かべて口を開く。
「……カイト様の目撃情報が入ってきたのですか?」
「はい」
「……」
確認するような言葉を告げた後、エリスは真剣な表情で考え込む。まず前提として、ハミルトン侯爵家も大貴族らしくそれなりに広い情報網は持っているし、アルクレシア帝国首都はハミルトン侯爵家の目が届きやすい場所ではある。
だが、それでも快人の目撃情報が届くのというのは、本来ではありえないことだった。
(……カイト様が普通に別の街に出かけたり、どこかの店で買い物をしたりという情報を得るのは、本来であればかなり厳しい筈です。例えばカイト様が首都に来ているなら、一目会って挨拶をしたいと思うものは多いでしょうし、カイト様の知る者たちは間違いなく注目する……ですが、そういった注目はカイト様にとっては煩わしいものでしょうし、幻王様がそれを許すはずがない)
そう、本来ならば快人の目撃情報が入ってくることはない。入ってくる前に、幻王配下によって情報が隠蔽される。実際に過去に快人がペット用品店などに買い物に来た際にも、ハミルトン侯爵家の目が届きやすい高級店街の店であるにもかかわらず、情報は得られていない。
だが、それが今回に限ってかなり早期に情報が届いたという事は……。
「……幻王様が、この情報は我々が知っておくべきものだと判断した? ですがなぜ……っ!? ま、まさかっ……」
「エリス? どうし……いや、そういうことか!?」
「え? えぇ?」
考え込んでいたエリスが呟きと共に青ざめた顔でリッチ男爵の方を向き、その様子を見たハミルトン侯爵も一拍遅れてなにかに気付いた様子でリッチ男爵を見る。
唐突にふたりに視線を向けられ、状況が分からないリッチ男爵が戸惑った表情を浮かべていたが、説明するよりも先に確認するべきことがあったため、エリスはメイドの方を向く。
「……おそらく我々の驚きようを見て報告の途中で一度止まったのでしょう。続きがありますよね? おそらく……書店にて姿が確認できたカイト様は、買い物を終えて高級店街の方に向かったと……そういう目撃情報ではありませんか?」
「は、はい。その通りです」
「やはり、そうですか……となると……マリー様が……」
メイドとエリスのやり取りを聞いて、遅れながらリッチ男爵も状況を理解して青ざめる。
「……い、いえ、しかし……高級店街もかなり広いですよ? そ、それに、マリーが向かったのは女性服の専門店ですし、偶然遭遇する確率は……」
「……するんですよ、あの御方は……そもそも広い首都で、絶妙のタイミングでマリー様がいるであろう高級店街に向かってますし……そもそも、我々の元にこの目撃情報が伝わってきたという事は、幻王様もマリー様とカイト様が遭遇すると予想しているからでしょうし……」
「とりあえず、他の情報を至急集めろ! 首都内で六王様や六王配下幹部と言った大物の目撃情報や、来訪の可能性が無いか、今日行われるであろう行事も含めてすぐに調べるのだ」
エリスとハミルトン侯爵は、これまでの経験からほぼ確実に快人はマリーと遭遇するであろうと判断して、別の情報の収集を命じた。
他に首都に大物が来ていれば、確実に遭遇するだろうと予想できるからである。
そして、娘がとんでもない状況になる可能性があると理解したリッチ男爵は、娘の無事を祈るように目を閉じつつ頭を抱えた。
シリアス先輩「K案件緊急警戒態勢に入ったか……まぁ、もう既に遅いと言えば遅い……」
???「事件は首都で起きてるんじゃない! 神界で起きてるんだ! って感じですね」
シリアス先輩「教えてやれよ」
???「だから、まだこの時点じゃアリスちゃんもしらねぇんすよ」




