広がる余波⑳
結局いろいろ買ってもらうこととなった快人へのお礼を兼ねて、マリーは快人をカフェへと誘った。快人も了承し、服屋を出て少し歩いたところにあるカフェに移動する。
もちろんそのカフェも高級店街にあるだけあって高級店ではあるのだが、それでもふたりでお茶をしてマリーが現在持っている金額を超える支払いになることはありえない。
店内に入って向かい合う様に席に座り、注文を済ませた後で快人がふと思い出したように口を開いた。
「……そういえば、マリーさんはお父さんと一緒に服を買いに首都まで来たんですか? それともなにか別の用事があって、そのついでとか?」
「ええ、豊穣の女神様の神殿に赴くのが本来の目的でして、それが完了したので買い物にという形です」
「神殿に? お祈りとかってわけでは無いですよね?」
マリーの言葉に快人は不思議そうに首をかしげる。以前の茶会で、マリーがあまり首都に足を運ぶことは無いという話は聞いていたので、祈りなどを行うためにわざわざ首都の神殿まで足を運んだというのは考え辛く、祝福を受けるにしてもいまは新年ではない。
まぁ、祝福に季節の制限などは無いので、いまの時期に祝福を受けに来たとしてもありえない話では無いのだが、微妙に引っかかる感じだった。
「えっと、豊穣の女神様に呼ばれた形ですね」
「エルンさんにですか?」
「ええ、とてもありがたいお話ですが、リッチ男爵家領の加護を強化してくださるというお話でして、当主と共に私が呼ばれた形です」
「…………えっと……それ、俺が原因ですよね、たぶん……マリーさんが呼ばれてるってことは、そうですよね」
加護を強化する話が快人に関連しないのであれば、四女であるマリーがわざわざ呼ばれるということはありえないため、快人もすぐに己が原因であるというのは察することが出来た。
「あっ、お気になさらず。当家にとっては得しかないので、むしろ光栄ですしありがたいお話です」
「そ、そうですか? それならよかったですが……」
「ええ、加護の強化もそうですが、大地神様が土の具合にも少し手を加えてくださるそうで、収穫するリプルの質なども上がりそうで、期待に胸が膨らみます」
繰り返しになるが、現在のマリーは超楽観的思考状態であり、胃痛になりそうな感情は自動シャットアウトされているため、加護の件に関しても素直に光栄で喜ばしいという様子であり快人もホッとした表情を浮かべていた。
「それこそ、もしかしたら黄金リプルも収穫できるようになるかもしれませんね」
「黄金リプル? 凄いリプルなんですか?」
「ああいえ、凄いというわけでは……黄金色をしたリプルとかというわけでもなく、単純に世界一美味しくて、その価値は金に匹敵するぐらいのリプル……という宣伝のための作り話です」
「作り話、ですか?」
「ええ、いまのリッチ男爵家領は、以前は別の貴族が治めていた土地で、その貴族家が没落して一度国の領地になり、それが巡り巡って曾祖母が男爵位を賜った際に与えられたという経緯があるのです。そしてその黄金リプルというのは、以前に治めていた貴族が自領のリプルを高く売るための一種のブランドイメージを根付かせようと、一生懸命に広めていた宣伝用の話という形ですね」
「あ~販売戦略の一種って感じですね」
マリーの説明を聞いて、快人は納得した様子で頷く。そういった販売戦略として凄い品ものであると大げさに話を盛って宣伝することは、たびたび聞く話であり聞けば「ああなるほど」という感じの印象だった。
「なんでも、金に匹敵するほどの価値がある世界一美味しいリプルであり、その黄金リプルのパイは、最愛の相手と食べる特別な料理で、最愛の相手と分け合って食せば末永く幸せになれるとか……精霊族の黄金の果実のお話なども含めていろいろな話を継ぎ接ぎにしたような宣伝をしていたそうです」
「へぇ、でも、それだけ言うってことはよっぽど味に自信があったんですかね?」
「いえ、そこそこ程度の品質だったみたいですね。まぁ、そこで本当に大売れしていたなら、もっと領も発展していたでしょうしね。実際他で話を聞くようなことは全くないです。ただ、リッチ男爵家領には古い噂のような感じで、目指すべき最高のリプルみたいな形で農家たちの間で、ごく稀に話題に上がっています」
「なるほど、宣伝に実際の品質が付いて行かなかったんですね。でも、そういう話も、なんだかんだ歴史みたいなのを感じて、結構面白いものですね」
本当に他愛のない雑談であり、商売の失敗が一種の都市伝説のような噂として残っていると、それだけの話であり、そのまま快人とマリーは他愛のない雑談を楽しそうに続けていった。
他愛のない雑談……過去にそういうリプルが存在したわけでもない。別にいまのリッチ男爵家が、黄金リプルを目指しているという話でもない。
本当にカフェで行う雑談でしかなく、加護で品質が上がったりすればいいな~程度の……そんな、話のはず……だった。
「……ほぅ……黄金リプル……最愛の相手と食べる特別な料理……最愛の相手と……ほぅほぅ……」
ただ、その一種の与太話を興味深そうな表情で呟いており、明らかに黄金リプルという品に興味を持っているらしき存在が居た……そう……『神域』に……。
シリアス先輩「おい馬鹿止めろ、ソイツは洒落にならんし、洒落が通じない相手だ。マジで黄金リプルが誕生しちゃうから……本当に墓穴を掘るどころか、死地に全力疾走してるマリーを誰か止めてやってくれ!?」
???「胃痛な未来へ、レッツゴーっすね!」
シリアス先輩「助けてやれよお前……」
???「いや、流石にアリスちゃんも、神域であの天然神が呟いてる内容までこの時点では分かりませんよ。神族たちが動き始めてからじゃないと、気付きようがないです」




