広がる余波⑲
自分が原因であることの罪悪感と、思い付きからの提案ではあったが、マリーさんは服のプレゼントをかなり喜んでくれて、俺としても安心した。
アクセサリーが想定より高価だったので、値段が高すぎて委縮されるかもしれないとも考えたが、どうやらその心配もなかったみたいで純粋に喜んでもらえた。
男爵家の四女であるマリーさんにとっては、こういう店での買い物や高級な衣類というのにもあまり縁がないみたいで、憧れだったと語る表情は喜びに満ちていてついつい追加でもう一着買うことを提案してしまったが、そちらも喜んでもらえたみたいで本当によかった。
「ああ、すみません。服を家に送るように手配したいのですが……」
「あれ? マリーさん、マジックボックスに入れたりはしないんですか?」
今回はパーティドレスほど本人の体系にしっかり合わせる必要が無く、サイズなどもマリーさんに合ったものが置いてあったため、サイズの直しなどは無くそのまま購入して品を持って帰ることもできるのだが、マリーさんはどうやら男爵家に送る形にするようだった。
「お恥ずかしながら、私の持っているマジックボックスは衣装タンスくらいの容量しかなく、すでにいれてる荷物を考えるとあまり余裕がないのです。装飾品だけはマジックボックスに入れて服は送ろうかと……」
「そうなんですね……あっ、なら丁度いいものがあるんですけど、よかったらこれ使いませんか?」
マジックボックスの空き容量に不安があるらしいマリーさんの言葉を聞いて、俺はマジックボックスの中から深緑色の四角い魔水晶……マジックボックスを取り出した。
「マジックボックス……かなり質のいいものですね。ですが……失礼ですが、カイト様がその色のマジックボックスを持っているのは意外ですね。てっきり、すべて黒い魔水晶のものなのかと……」
「ああそれが、実はこれ買ったものじゃなくて……えっと、ハイドラ王国建国記念祭の水竜行進に景品抽選があるのはご存じですか?」
「ええ、確かチケットの番号がそのまま抽選番号になっていて、後日発表されるんでしたか?」
「その通りです。それで、このマジックボックスはそれで当たった景品なんですよ」
そう、海竜行進のチケットによる景品抽選で当たったこのマジックボックスは、それなりの容量……一般的なワンルームマンションの一室ぐらいの容量はあり、買うとしたら白金貨1枚前後はすると思うぐらいの品で、チケットのおまけのくじの景品としてはかなり豪華な品だ……実際特賞だったし……。
ただ、正直な話を言えば、俺にとってはこのマジックボックスは結構微妙というか……扱いに困る品だった。
「マリーさんの言う通り、俺はこれより容量の大きなマジックボックスを持ってますし、仮に追加で買うとしてもやっぱり黒いやつになると思いますし、俺の知り合いもほぼこれ以上のマジックボックスを持ってるんですよ。それで、どうにも扱いに困ってマジックボックスに放り込んだままだったんです」
マジックボックスの容量というのは、魔水晶の純度ではなく術式によって決まる。まぁ、大きな容量の複雑な術式を成立させるには大きな魔力容量が必要なので、大きな容量のマジックボックスを作るには高純度の魔水晶が必須ではあるのだが、同じ純度の魔水晶でも術式によってサイズが変わる。
それは製作者の技量に左右される部分であり、例えば同じ黒い魔水晶のマジックボックスでもゼクスさんが制作したものと、クロが制作したものでは容量に大きな差があるのもそれが原因だ。
そしてそれのなにが問題かというと、例えばこの深緑の魔水晶をトーレさんに頼んで黒い魔水晶に代えてもらったとしても、刻まれている術式は変わらないので容量は元のまま変化しない。
その上、一度魔水晶に刻んだ術式を消して刻みなおすのは結構な手間と時間がかかり、そんなことをするぐらいなら新しい魔水晶を買ってマジックボックスを作った方が遥かに楽なのである。
しかも、誰かにあげようにも俺の知り合いは皆これ以上のサイズのマジックボックスを持っているので、誰かにあげるという事も難しく、自分で使うにしても……容量足りなくなってマジックボックスを増やすなら、黒いやつを増やすということもあり、本当に使い道が無くてどうしようかと思っていた品だ。
「……そんなわけで、完全に持て余し気味だったので……マリーさんに差し上げますので、使ってください。このマジックボックスも、使わず適当にしまってるよりも誰かに使われた方がいいでしょうし……」
「とても嬉しいですが……本当に、いろいろ貰ってばかりで申し訳ないです。カイト様のご厚意はありがたく受け取らせていただきますが、せめてなにかお礼を……」
マリーさんは申し訳なさそうな表情を浮かべつつも、素直にマジックボックスを受け取ってくれた。俺としてはむしろ、変に遠慮せずに受け取ってもらえた方がありがたいし、本当に扱いに困っていた品なので気にしなくていいのだが、マリーさんは少し考えた後でなにかを思いついたような表情を浮かべた。
「……あっ、そうです。実は、父から服を買い終えた後は、カフェで甘いものでも食べるといいと予算を多めに貰ってきておりまして……カイト様の都合がいいようでしたら、この後一緒にカフェに向かいませんか? 私は結局服を買う予定の金銭も使っておりませんので、せめてものお礼としてご馳走させてください。いえ、もちろん頂いた物にはまったく見合ってないのですが……」
「そんなことないですよ。それじゃあ、せっかくなのでご馳走になります」
確かに服二着にアクセサリー、追加でマジックボックスといろいろな物を受け取ってるマリーさんの気持ちとしては、なにかお返しをしたいと考えるのも自然だし、俺としても断る理由が無いので厚意に甘えさせてもらうことにした。
シリアス先輩「……自ら胃痛チャージを追加で積み重ねに行くスタイル……リッチ男爵、娘が死地にかっとビングしてるから、早く気付かないと男爵の方もとんでもないことになるぞ! そして快人の側から見ると、普通に落ち着いてやり取りできてるように見えるから、気付きようもないと……これ、後になって現実が追い付いて来た時に胃が消滅するのでは……」




