広がる余波⑰
いくつかの服を試着してみたが、マリーの感触としては肌触りがよく落ち着いたデザインの服が一番よかった。というよりは、その服が一番無難に思えたというべきだろう。
ただ逆に言えば、デザイン面などに明確に高価だと思える部分が無いということは、素材が高価であり見る人が見ればわかるという事なのかもしれない。
(……カイト様がまったく値段を聞く様子が無いのですが……高級店での買い物というのはこういう感じなんでしょうか? 確かに、最初に予算となる金額を伝えてあるのでそれぐらいの価格であるというのは分かってるわけですし、私に経験が足りないだけでそういうものなのかもしれませんね)
マリーにとっては初めての高級店での買い物であり、完全に手探り状態ともいえる。快人が比較的慣れている様子で店員と話をしているので、よく分からないが恐らくそういうものなのだろうと己を納得させていた。
とりあえずここまで一番気に入っていた落ち着いたデザインの服をもう一度試着することとなり、ほぼその服を買う形で話が進み始めると、そのタイミングで店員が口を開く。
「もちろんこのままでもご令嬢の美貌を十分に引き立てているとは思いますが、全体的に落ち着いたデザインなのでワンポイントとなる装飾品などがあると、もっと全体が引き立ちますよ。ブローチなどがオススメですが、いかがでしょうか?」
「あ~確かに、装飾品とかもあったほうがいいですよね。よさそうなものを用意してもらえますか?」
その会話に関しても、マリーはとりあえずそういうもの……服とアクセサリーをセットで購入するのが一般的で、服が決まったので次はアクセサリーという流れになったのだろうと判断していた。
「畏まりました。装飾品に関しまして、ご予算の上限などは?」
「あ~えっと……特に無いです」
これに関しては快人の方が経験不足というか、服とは違って参考に出来るような過去の例が無く、とりあえず店員に任せようという判断での言葉だった。
あとは単純に、服と装飾品は別であり、貴族向けの装飾品はそれなりに高価で然るべきだろうと判断していることもあって、予算の上限は特に設けなかった。
(特に無い!? い、いや、カイト様!? そ、それだと高いものを持ってくるのでは……あ、い、いや、服に合わせたものを持ってくるわけですし、そこは価格帯は合わせてくれる感じですかね?)
予算の上限は特にないと告げた快人に驚きはしたものの、そこも経験不足からか「そういうものだろう」と考えたマリーは、若干楽観的に待っていた。
……店員が、知識の浅いマリーから見ても明らかに、とんでもない価格になりそうな品を持ってくるまでは……。
「……やはり、全体的に落ち着いたデザインですので、逆に装飾品は明るく煌びやかなものがいいかと思います。こちらは、大粒のクリムゾンルビーを使用したブローチとなっておりまして、胸元に付けると全体的な印象が引き締まるかと……」
明らかに高級な台座に乗せられたルビーのブローチを見て、マリーは血の気が引くような気がした。
(……大粒過ぎるのですが!? 私の掌の半分ぐらいはあるじゃないですか!? し、しかも、クリムゾンルビー? 確か、お姉様がクリムゾンルビーのネックレスを持っていたはずです。お姉様の持つ装飾品で一番高価だと……でも、お姉様のネックレスのクリムゾンルビーは小粒でしたよ? そのブローチのクリムゾンルビーはほぼ別物と言えるようなサイズなのですが……)
服に関していえば、まだ楽観視で来ていた部分もある。知識の浅いマリーではイマイチ価値が分からず、無理やりながらある程度は自分の思い描いていた金額なのだと思い込むこともできた。
だが、明らかに巨大な宝石が使われた装飾品となれば話は別だ。マリーの目から見ても、明らかに高い……なんなら服よりよっぽど高い品である。
「付けるのでしたら、この辺りですね」
「……いいですね。確かに、そこに赤色が入ると、全体的なイメージもグッと引き締まるような気がしますね」
唖然としている間に店員によってブローチが取り付けられ、それを見た快人は好感触な様子で微笑みを浮かべていた。
その様子を見て、購入に前向きな空気を察したマリーは、どうすればいいのか分からず混乱していた。
(カイト様! 値段を聞きましょう!! 「これはいくらですか?」、とても大切な言葉でございます!! 買い物をする上で、値段の把握は……把握は……えぇぇ……全然値段聞く様子が無いのですが……こ、こういうものなのですか? うちみたいな貧乏貴族とは違う真の上流階級というのは、買い物の際に価格などワザワザ尋ねないものなのですか!?)
マリーとしては値段を聞きたいというか、値段を聞くことで快人が購入を見送って欲しいという思いがあった。だが、繰り返しになるが彼女にとって高級店での買い物は初めてであり……順調に商談がまとまっているように見える状況に割って入る勇気が無かった。
お金持ちにとって、このクラスの装飾品もわざわざ価格を確認する必要があるものではないのだろうかと、そう感じてしまっていた。
実際に快人は、膨大な財産をほぼ持て余している状態ではある。だが、それ以上に……単純にクリムゾンルビーのブローチ程度は、快人にとって本当に大した金額ではないのだ。
むしろ、それより高価な宝石をいくらでも知っているし、ルビーにしてみてもクリムゾンルビーよりさらに希少なアストラルルビーをオリジナルアクセサリーの材料に使って、ジークリンデに贈っていたりするので、本当にわざわざ価格を確認する必要などないレベルではある。
マリーにしてみれば、完全に未知の世界ともいえる領域なので、なんとも言えないまま話がまとまっていくのを眺めるしかなかった。
シリアス先輩「……快人にとっての高価な宝石の基準がたぶん、セラのミッドナイトダイヤモンド(未加工で白金貨数十枚単位)とかになってるのも、大粒のルビーに対して反応してない要因だと思う」
???「なお次回、マリーさんがチャージ型の胃痛戦士たる要素が……」
シリアス先輩「まだ追い打ちをなさると?」




