広がる余波⑭
偶然の遭遇ではあったが、とりあえず若干挙動不審というか……傍目に見ても分かりやすいぐらい高級店オーラに気圧されてる感じのマリーさんを見て、声をかけることに決めて近づく。
ペット用品店は特に何か買いたいものがあるわけでもなく、時間に余裕があるから行ってみようか程度だったので、予定の変更はまったく問題ない。
「……こんにちは、マリーさん」
「ッ!? え? あっ、カ、カイト様!? なぜこのような場所に……あっ、失礼しました。ごきげんよう、カイト様」
「驚かせてすみません。俺は大通りの書店に来てたんですが、買い物が終わって時間があったのて適当にブラついてたら、偶然マリーさんを見かけて……マリーさんは、服を買いにきたんですか?」
マリーさんに声をかけつつ、目の前の店に視線を向けると……貴族用の服を取り扱っている店だったので、服を買いにきたのかと尋ねてみると、マリーさんは一度気持ちを落ち着かせるように深呼吸をしてから言葉を返してきた。
「ええ、本来は父と一緒に来るはずだったのですが、父は別の用事が出来まして私ひとりで……ただ、お恥ずかしい話ですが、私はいままで服と言うと姉のお下がりばかりで碌に購入したことが無く、こうした貴族向けの高級店もウチの領には存在しないので……その、来たのはいいものの中々足を踏み入れなくて……」
「あ~分かります。俺もこの世界に来る前は、この世界で言うところの平民だったので、高級店とは縁が無くて……いかにも高級店ですみたいな佇まいの店だと、入るのにかなり勇気がいりますよね。まぁ、いまはなんだかんだで結構慣れたんですが……」
「カイト様も……ええ、本当に中に入って店の方に声をかけられて上手く応対できるかなど、いろいろ不安な気持ちが湧き上がってきます」
マリーさんの気持ちは本当によく分かる。なんというか、高級店ってやっぱり独特のオーラがあるというか、初めて入る時にはやっぱり緊張するものだと思う。
幸いと言うべきかこの世界では極めて裕福で、高級店に足を運ぶ機会も幾度となくあって、最近では結構慣れてきたが、最初の方は誰かに付き添いで来てもらいたいと思ってたし、実際リリアさんに付き添ってもらって一緒に買い物に行ったりしてた。
「……ところで、首都にわざわざ買いに来るってことは、結構高い服を買いにきたんですよね? パーティかなにかに参加するんですか?」
「ああいえ、そういうわけでは……高価な服を買いにきたというのはその通りですが、パーティ用のドレスではなく立場の高い方に会う際などに失礼のないような服を購入に来た形ですね」
「……なるほど……」
……あれ? これ、もしかして俺が原因のやつか? ちょっと前に茜さんと話して、リッチ男爵家周りが俺の想像以上に凄いことになっているというのを聞いたし……。
例えば、ラサルさんとかもそうだが、ラズさんに紹介された人でリッチ男爵家のリプルに興味を持った人がいたとするなら、その人がコンタクトを取ろうとするのは……マリーさんだろう。
たぶんラズさんとかも、俺の友人であるマリーさんのことも伝えるだろうし……。
「……あの、マリーさん。もしかしてですけど、俺があちこちに勧めた影響とか……」
「……あ、いえ、確かにそれに関連したことではありますが、決して悪いことではないんです! リッチ男爵家としてもリプルの売上が増えるのは喜ばしいですし、私もカイト様に多めにリプルを贈ったのは知り合いに勧めてもらえればという期待もありましたので……ただ、私が浅慮だったというか、考えが甘かったというか……その方向で交流が広がると、私が父と共に応対する機会もあるので、それ用の服も必要だろうと……」
完全に俺のせいなやつだこれ!? マリーさんは優しいので、俺が責任を感じないような言い方をしてくれているのだろうが、完全に俺のせいで高価な服が必要になったパターンである。
ロード商会がどうとか言ってたのは、転移ゲートを作ったりって話をマリーさんとするとも思えないので、ラサルさんとかラズさんの知り合いの高名な人とかと会う際に、マリーさんが同席する形になったのだろう。
「いや、その、なんというか……申し訳ない」
「あ、謝らないでください! 本当にカイト様に非などありません。むしろ私にしてみれば、偶然の機会ではありますが自分用に高価な服を買えるわけですし、得をしていると言えますから……私も、他の貴族令嬢の方々のように着飾ったりというのにも憧れていましたが、どうしても当家の財力では兄や姉を優先するしかないので、降って湧いた幸福です」
「そ、そうですか、それならよかったですが……」
マリーさんに申し訳ないという思いと、なにかお詫びをしたいという思い……そして、いまちょうど服屋の前に居て、俺は時間に余裕がありマリーさんは初めての高級店に畏縮気味……ふむ。
「……マリーさん、もしよかったら、せめてものお詫びというか……服を贈らせてもらえませんか? マリーさんは気にするなと言ってくれましたが、やっぱり申し訳ない気持ちもあって、このタイミングで会ったのもなにかの縁という事で……」
「お、恐れ多いですが……う、う~ん、ですがお気持ちが嬉しいですし、カイト様にとっても気が楽になるのでしたら……ひとりでこの店に入るのに不安を感じていたのも事実ですし……では、お言葉に甘えさせていただいてもよろしいですか?」
「ええ、もちろんです」
お詫びもかねて服をプレゼントしたいという俺に対して、マリーさんは考えるような表情を浮かべていたが、最終的には了承してくれた。
マリーさんとしても、ひとりではいるのに躊躇していた店に俺という付き添いと共に入るというのは魅力的な提案だったようで、思い付きではあったがいい提案ができたと思う。
シリアス先輩「はい、考えてみよう。買う服のランク云々は置いておいて、貴族御用達の店に貴族令嬢と連れ立って入って『彼女に贈るための服を買いたい』……完全に恋人かなにかとしか思われないシチュエーションだし、店には他の貴族が居る可能性も十分にある……社交界で一躍名が売れそうだな、マリー」
???「やっぱり、マリーさんは経験不足感が強いですね。エリスさんやコーネリアさんと違って社交の場から遠いんで、そういう他の貴族からの評判や噂的な部分に頭が回ってなくて、わきが甘い部分があるんですよね。単純に気疲れして、深く考える余裕が無いだけかもですが……」




