広がる余波⑤
茜さんは、リッチ男爵家とその周辺のこれからの予想を語りながら、自分が儲けれるという部分に関しても説明してくれた。
「んで、ウチの狙いとしてはその予想する転移ゲートが完成するまでの間や。いくらロード商会が凄まじい資金力があるからって、金さえあれば翌日に転移ゲートがポンッと出来上がるわけやない。土地に関する交渉とかもあるし、転移ゲートの設立となればアルクレシア帝国の方に報告を上げる必要もある。影響力の強いロード商会やったら、かなり早く建設はできるとは思うが、どんなに早くとも半年以上はかかるやろうな。こればっかは諸々の手続きも絡むから、まず間違いない……いや、仮に快人みたいな法律とか権利をぶっちぎれる奴が作ろうとして、全能の神様とかが指パッチンでゲート作ったりとかなら話は別やけど、それは快人だけで他が真似できる方法ちゃう」
「TKK……『ただし快人くんに限る』って感じだね!」
「香織さん、変な略語を作らないでください」
なんかイケメンに限るみたいな言い方で、無駄にテンポのいい感じの略語を語っていた香織さんにツッコミを入れておく。
「……まぁ、それで、茜さんはその転移ゲートができるまでの間に稼ぐって感じなんですかね?」
「そうやな。要するに需要や話題性はあるけど、物流がまだ改善されてない状態になるって読みなわけや。それこそ、機動力が売りのウチの商会にとってはこれ以上ないほどの稼ぎ時やろ。転移ゲートが出来てしまえば、デカい商会の方がいろんな面で有利やし、転移ゲートができるまでの間にガッツリ稼いで、タイミングを見て退く感じやな」
「なるほど、確かにそれは凄く儲かりそうだね」
香織さんの言う通り、たしかにかなり儲けが出そうというか、転移魔法が得意でかつ中小規模だからこその小回りがある三雲商会にとっては、かなり向いている印象だ。
するとそこまで話し終えた茜さんは、真剣な表情で顎に手を当ててなにかを考えるような表情で呟き始めた。
「……とはいえ、同じようなこと考える商会はいくらでもある。今回は特に、短期間に何度も転移魔法を使う必要があるわけやないし、転移魔法具持ちの商会なら同じことはできるやろ。ウチは快人から話を聞いたおかげで、情報面で今優位やけど、そんなもんは数日程度で埋まる。リッチ男爵家に、複数の商会といっぺんに取引できるほどの余裕があるとも思えんし……最初にその気にさせたもんが勝てる感じか……なぁ、快人、ちょお相談があるんやけど、ええか?」
「なんですか?」
ある程度考えをまとめたらしき茜さんが真剣なトーンで話しかけてきたので、軽く首を傾げつつ聞き返す。すると、茜さんはマジックボックスから一枚の紙を取り出して俺の前に置いた。
紙にはなにやら小さな文字でビッシリと書き込まれており、一番下にサインをすると思わしき場所がある。
「いろいろ持って回ったことが書いてあるけど、要約するとな『コレを持ってきた商人は信用できる相手なので、取引をするしないは別にして話だけでも聞いてやって欲しい』ってことが書かれとる。つまり、紹介状ってことや」
「えっと、つまり、俺に紹介状を書いてほしいってことですかね?」
「そうや……けどまぁ、先に話を聞いてくれや。ウチはな、お前のことは大事な友達やと思っとる。困ったところはあるけど、なんだかんだでええ奴やしな。せやから、隠し事とかは無しで誠実に行きたい。今回の件は、ウチは間違いなく大きく儲けれる話やと思うとる。けど、ウチと同じこと考える商会は多いやろうし、スピード勝負……最初にリッチ男爵家から契約を取れたとこが勝つと思うてる。その上で、お前からの紹介状ならリッチ男爵家は間違いなくウチの商会の話を優先して聞いてくれる」
茜さんの表情は真剣そのものであり、自分の読みや狙いを包み隠さず俺に伝えてくれていた。
「単刀直入に言うわ。ウチが儲けるためにお前のコネを使わせてほしい。ただ、誤解せんでくれ、ウチにも商人としてのプライドがある。知り合いやからってお情けで紹介してもろうても恥かくだけや。せやから、ウチと三雲商会との取引が、マリー男爵令嬢やリッチ男爵家にとって得やと思うて、その上でお前がええならサインをしてくれ。そう思わんかったり、単純に気が進まんかったりの場合は断ってくれればええ、そのことに文句を言う事はないし今後の付き合いに影響することもない。むしろ、ウチとしては駄目なら駄目と正直に言うてくれた方が嬉しい……どうや?」
実際のところ、茜さんは商売事にはかなり誠実で真摯である。最初に会った時も、俺が手土産のお礼にと世界樹の果実を差し出した際に、茜さんにしてみればそのまま受け取ったほうが得だろうに、持ってきた手土産と価値が釣り合ってないと拒否したり、最初から誠実で信用できる人物だとは思っていた。
「大丈夫ですよ。茜さんは信頼できる人ですし、単純にリッチ男爵家にとっても取引するなら茜さんの三雲商会がいいかなぁと思うんですよ」
「そうか? それやったら、こっちとしてもありがたいわ」
友人であるという事を抜きにしても、茜さんと三雲商会はリッチ男爵家に合っていると思う。リッチ男爵家は貴族の中では貧乏貴族で、マリーさんもほぼ農民みたいなものだとか自嘲気味に語っていたし、大きな商会との取引の経験もほぼ無いと見ていいだろう。
だから、あまり大きな商会とかに話を持ち掛けられても畏縮とかしてしまうだろうし、三雲商会ぐらいの規模の商会の方が話をしやすいと思う。その上で、転移魔法が得意で機動力のある三雲商会は、現時点でのリッチ男爵家の欠点をしっかり補えると思うし、本当に最適と言っていい気がする。
「ここにサインすればいいんですかね?」
「ああ、でもその前に報酬の話もさせてくれや。お前はお金なんて別にええとか言うかもしれんが、それはウチも商人として納得できん。紹介の礼として利益の一部は還元するつもりやけど、その割合をどうするかを話し合って、そっちの契約も結んどこうや」
やっぱりこういうところが凄く真摯なので、商人としてとても信用できる方だと、改めてそう思った。
シリアス先輩「実際リッチ男爵家にとっては条件にピッタリ合ってるし、畏縮もしにくい相手な上に、他の大商会とかも『快人の推薦』ってなると変に横やりも入れられないだろうから、最適解と言える相手っぽい気がする」




