広がる余波①
コーネリアさんと専用ブラシの発注に商業都市に出掛けた翌日、俺は茜さんから「聞きたいことがあって、可能な限り早く会いたいので、時間を作って欲しい」との連絡を貰って、茜さんが指定した場所で茜さんを待っていた。
「……なんで、その流れで私の店を密会場所に選ぶのかなぁ。いやまぁ、店開けてない時間は仕込みとかしてるだけで、結構暇だからいいんだけどね」
「香織さん、急にすみません」
「ううん、気にしなくていいよ。茜さんからも、店を使わせてほしいって連絡は貰ってたしね」
そう、茜さんが指定した場所とは香織さんの店である水蓮であり、香織さんには事前に話が通ってたみたいで、訪ねるとすぐに店の中に入れてくれた。
「香織さんは、いま仕込み中ですか?」
「ああいや、いまは余った材料使って簡単な料理を作ってるところ……快人くんも食べる? 鳥皮を硬くならない程度に焼いて細切りして、スライスした玉ねぎと一緒にポン酢で和えただけの簡単なやつだけどね」
「美味しそうですね、ありがとうございます」
「鳥皮って余りがちなんだよね~」
香織さんが微笑みながら小さな容器に入れて出してくれた料理を食べる。ポン酢の酸味に鳥皮の味がマッチしてるし、玉ねぎスライスの食感もよくて美味しい。
「シンプルですけど美味しいですね。いっそメニューに加えてもいいのでは?」
「これ完全にお酒のつまみって感じだし、定食屋にはあんまり合わないのが問題だね。自分で食べる分には手軽で美味しいけど、どれどれ……う~ん、七味唐辛子を一振りしたほうがいいかなぁ」
自分の分の料理を一口食べて、香織さんが改善点を考えていると、そのタイミングで裏口の扉がノックされた。
「おっと、茜さんが来たかな? は~い、いらっしゃい、茜さん」
「邪魔するで、急に場所借りてすまんな。あっ、そうそうこいつは、手間賃替わりのお土産や」
「おっ、高そうで美味しそうなお饅頭だ。ありがと~」
裏口から入ってきた茜さんからお土産を受け取り、俺の隣の席に茜さんを案内する。
「快人も急に呼び出して悪いな」
「こんにちは、茜さん。予定も特に無かったので大丈夫ですよ……今日はフラウさんは一緒じゃないんですか?」
「ああ、フラウはさっきまでおったけど、香織の店やったら自分が護衛する必要ないから、観光してくるから終わったら連絡くれとかぬかしよって、観光にいったわ」
よく一緒にいるフラウさんの姿が見えないと思ったら、なんともフラウさんらしい理由で観光に向かったらしい。
すると香織さんが、茜さんの前にお茶の入った湯呑を置きながら不思議そうな表情で尋ねる。
「なんで私の店だと、護衛が必要ないんだろ……はい、茜さん、お茶だよ」
「おおきに……なんでって、そりゃ、この前模擬戦して、香織がフラウのことボコボコにしたからやろ? 自分より強い香織がおるから問題ないって感じやろ」
「アレは単純に相性だと思うんだけどなぁ、フラウさん近接型だから、中距離から魔法をぶっ放す私が有利だっただけだよ」
どうも香織さんはマジで相当強いらしい。メイドオリンピアの時の様子から、フラウさんも相当強い筈だが、茜さんの二人の口振りだと模擬戦では香織さんが圧勝したのだろう。クロが、移住者の中ではぶっちぎりぐらいに強いって言ってたし、それこそルナさんとかジークさんクラスの強さなのかもしれない。
そんな風に少し他愛のない雑談をして、それがひと段落したタイミングで俺は茜さんに問いかける。
「……それで、茜さん。今日はどうしたんです? なんか、聞きたいことがあるって言ってましたけど……」
「ああ、そうやな、本題に入ろか……」
俺の言葉を聞いた茜さんは、お茶を一口飲んだ後で表情を引き締めて真剣な顔……というか、若干怒っているような顔でこちらを見た。
「ここ最近な、なんやアルクレシア帝国で商人の動きが慌ただしいねん。なんなら、五大商会の一角であるロード商会まで動きだしたって噂も聞こえてきとる」
「え、えっと……」
「お前か? お前やろうな、確実にお前や、お前以外考えられへん。お前、ほんまええ加減にせぇよ。ちょいちょいあちこちで妙な事起こしよってからに、歩く爆弾かなんかか!?」
なんということだろうか、まだなにも返答していないのに元凶と断定されて叱られてしまった。でも、う~ん……正直心当たりがいくつかあるので、理不尽とも言えないのがなんとも……。
シリアス先輩「ここで注目すべきは、なぜか胃痛戦士である香織もこの場に居ることと、少し前にマグナウェルが香織の店に興味を持った件という、胃痛要素があることである」




