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コーネリアに余裕がなくなってきて、快人がコーネリアの精神状態を気遣うようになったからか、ニフティでの休憩は穏やかに進行した。
胃痛に効果のある紅茶を飲み、洗練されたスイーツを味わいつつ雑談を行う。そして食べ終わった後は、トーレたちと一度合流して簡単な挨拶をしてから解散となり、コーネリアはシャロン伯爵家の屋敷へと戻ってきた。
(……数時間のはずでしたが、まるで数日振りかのような懐かしさです。特別顧問の方々と出会ったことなど、報告しなければならないことはありますが、叶うのならもうすぐにでも休んでしまいたいところですね。本当に、エリス様に言われて警戒していたつもりでも、まだまだ認識が甘かったと痛感しました)
かなり疲れてはいるし、まだまだ後回しにしている案件も多いので両親などと話し合いは必要ではある。ただ、商業都市での出来事はアンネが先んじて報告している筈であり、両親や後継者である兄は、すでに対応について話し合いをしている可能性が高い。
いろいろと己の立ち位置などは変わりそうではあるが、それでもなんとか今日という日を乗り切ったと、そんな考えだったコーネリアの元に先に戻っていたアンネが近付いてきた。
「お帰りなさいませ、コーネリアお嬢様」
「ただいま戻りました。アンネも、報告ありがとうございます……できれば休みたいところですが、報告することもあるので話し合いが先ですね」
「ええ、旦那様もお待ちです……が、その前にコーネリアお嬢様には確認していただかないといけないものが……」
「確認? 私がですか?」
アンネの言葉にコーネリアは不思議そうに首をかしげる。シャロン伯爵家内に置いて、コーネリアが持つ権限はそれほど多くなく、決定権があるものも当然少ない。
すでに当主である父や跡取りである兄が話し合ってる状態で、その話し合いの場に行くよりも先に確認する必要があるものが思いつかなかった。
「……それが、つい先ほど、竜王様の使いからコーネリアお嬢様宛てにこちらが……」
「……使い捨てのマジックボックスと、手紙ですか?」
アンネが差し出したのは、ランダムボックスなどに用いられる魔力紙を使った使い捨てマジックボックスと、一通の手紙であり、コーネリアはそれを受け取ってまずは手紙を確認してみた。
するとそこには、マグナウェルからのメッセージとして「配下も含め本日の交流は中々に有意義だった。礼として駄賃を与えるので、好きに使うといい」という内容が書かれていた。
「なるほど、どうやらマグナウェル様は今日の交流の記念として、幾ばくかの金品でしょうか? とにかく、ある程度の金銭的価値のあるものを下賜してくださるみたいです」
「それは栄誉なことですね。竜王様に贈り物をいただいたとなれば、コーネリアお嬢様の名声も上がるでしょう」
「そうですね。返礼品なども考えなければなりませんが、本当にありがたいお話です」
貴族社会においても「出会いを記念して」といった名目の贈り物などはよくあり、コーネリアもいままで何度も受け取ってきたし、贈りもしてきた。
今回もそういった出会いの記念に近い品だと認識し、ちょうど玄関を入ったところのロビーと言える広い空間にいたため、この場で品物を確認しようと使い捨てマジックボックスを開け……直後に、コーネリアとアンネの目の前に数メートルはあろうかという巨大な鱗の欠片が現れた。
「……」
「……」
コーネリアもアンネも、絶句とはまさにこの表情であると言わんばかりの顔で巨大な鱗を見る。煌めくような美しさもさることながら、それ以上に鱗に宿るとてつもない魔力、それを見ればその鱗がなんであるかなど容易に想像ができた。
「……あ……あ、あん……アンネ……そ、そそ、その、こ、これって……」
「……りゅ、竜王様の鱗の欠片かと……思われます」
マグナウェルにしてみれば、よく快人に渡しているのと同じものであり、小遣いを渡す感覚で送ってきたのだが……マグナウェルの鱗の価値というのは凄まじい。そもそも、マグナウェルの鱗は基本的に本人が意図してやらない限りは生え変わることは無く、剥がれ落ちることもそれこそ六王クラスの相手と戦わない限りはありえない。
なので、マグナウェルから下賜される以外で手に入れる方法はほぼ無いに等しく、その価値は余裕で城が建つほどレベル……。
その鱗を見て、コーネリアはペタンと床に座り込み、頬を引きつらせる。
「……りゅ、竜王様の鱗……あばば……も、もぅ、無理……無理です……あひゅっ」
「コーネリアお嬢様!? お気をたしかに!!」
ようやく大変だった案内が終わったと思い、後回しにしたことはありつつも、一先ずこれ以上なにかが起こることは無いと安心しきっていた直後に、この凄まじいともいえる衝撃である。
もうすでにかなり疲労していたコーネリアが、その衝撃に耐えられるはずもなく、完全にキャパシティを越えたことにより、コーネリアは白目を剥いて意識を手放した。
胃痛の悪魔「言ったそばからまた油断……待ってたぜェ!! この瞬間をよォ!!」
≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣【K.O.】≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣≣
???「……まぁ、胃痛を気遣ってもらえる立場になったとして、胃痛を回避できるわけじゃないんですよね。それで回避できるなら、リリアさんはあんな事になってませんし……」
シリアス先輩「胃痛の悪魔が恐ろしすぎる」




