専用ブラシの購入㉗
席に座って程なくすると、先ほど連絡したおかげかカナーリスさんが俺たちの席にやってきた。
「それではお待たせしました。給仕ゴッドです。スイーツなどはお好きなものを注文してもらうとして、快人様の要望通りに用意した紅茶がこちらですね。ささっ、どうぞまずは一口飲んでみてください」
カナーリスさんはそう言って慣れた手つきで、紅茶を淹れて俺とコーネリアさんの前においてくれた。コーネリアさんは優雅な所作で紅茶の色と香りを確認して、少し不思議そうな表情を浮かべた。
「これは、MKブレンドでしょうか?」
「え? 色と香りだけで分かるんですか?」
「あ、いえ、すべての紅茶が分かったりするわけではありませんが、MKブレンドは味わいなどが好きで普段からよく飲んでいますので……」
コーネリアさんはニフティでよく買い物をしていると言っていたが、それだけではなく俺が作ったオリジナルブレンドであるMKブレンドをよく飲んでくれているみたいだった。
少し照れくさくはあるが、自分で作ったブレンドを評価してもらえるのは素直に嬉しい。
「ええ、その通りです。快人様のMKブレンドに自分のゴッドパワーでちょっと手を加えた……そうですね。名付けるなら、MKブレンド・ヒーリングスペシャルって感じですかね。たはぁ~ネーミングが安直で申し訳ない!」
「ヒーリングスペシャル……で、では失礼して……こっ、これは……胃の痛みが……消えた?」
コーネリアさんはMKブレンドHSを飲んで、驚いたような表情を浮かべていた。俺もそれを見て一口飲んでみたが、特にMKブレンドとの違いは感じない。いや、俺に細かい味の違いは分からないけど……。
「ええ、こちらのMKブレンドHSは、快人様のご要望によりコーネリアさんの疲れを癒す目的で調整しました。コーネリアさんを見たところ、精神的疲労からの胃痛がメインのようだったので、精神的要因の胃痛のみに効果がある感じですね」
「治癒魔法的なやつですか?」
「ああいえ、どちらかというと概念的なやつです。MKブレンドに自分のゴッドパワーで『精神的ストレスを要因とする胃痛のみを癒す』という効果を付与した感じですね。ただ、そんなに強い効果では無いです。そうですね~例えるなら、胃痛の段階がレベル1~10まであると仮定すると、このMKブレンドHSはそれを5レベル分癒やす感じですね。レベル1~5の胃痛は完全に治りますが、5以上の場合は軽減になる感じです。たはぁ~本当は完全に癒せたらいいんでしょうが、精神的ストレスが要因のものですとこれ以上の効果だと精神の方に作用する感じになっちゃいますからね」
「なるほど、精神的疲労が原因の胃痛にだけ効く感じですね」
「その通りです。病気とかの胃痛とかには効果ないですし、他の効果も一切無いです。あくまで精神的疲労が原因の胃痛にだけ効果を発揮する感じですね。いや、これ以上の効果だとシャローヴァナルとの契約に引っかかったりする可能性があるので、このぐらいですね。たはぁ~HSとか名前負け感が凄くて申し訳ない!」
いや、全然名前負けしてないと思う。つまり、そこそこの精神的ストレス要因の胃痛なら飲んだ瞬間に消せるってことなわけだし、酷い胃痛でもある程度癒すことはできるわけだ。
精神的なストレスとかが無くなったりするわけではないので、ある程度経てばまた胃が痛くなる可能性もあるが、紅茶を飲んでいる間は胃痛を忘れられると思えば、疲れている時の休憩には最高かもしれない。
そんな風に思っていると、話を聞いていたコーネリアさんが祈るように手を組んでカナーリスさんの方を向いて頭を下げた。
「……お、お願いします。これを、売ってください」
「……短い期間で地獄を見たような顔をしてますよ。これ、結構いろいろあった感じですね。う~ん、オーナーは快人様なので、快人様が問題ないのであれば……」
「えっと、それ自体は流通させてもいいものなんですか?」
「精神的ストレス原因の胃痛になってない人には、普通のMKブレンドですからね。自分のゴッドパワーで効果付与してるので、自分以外には基本作れませんが、自分が作成する分には全然手間はかかりませんね。MKブレンドの缶もって、『えいっ』ってすれば完成します」
「じゃあ、その、売ってあげてもらえますか……あと、出来れば俺も一缶欲しいので、用意してもらえると嬉しいです」
コーネリアさんは今日だけで、フレアさん、エインガナさん、メギドさん、マグナウェルさん、トーレさん、ゼクスさん、ノーヴェさん、テトラさん、チェントさん、シエンさんと遭遇してるわけで、六王2、公爵級1、伯爵級6、その他1と考えると、相当精神的疲労はあると思う。
遭遇事態は偶然とはいえ、俺と一緒にいたからという側面もあるので、この紅茶が助けになるなら売ってあげて欲しいと思う。
あと、俺も貰って、リリアさんにプレゼントしよう……いや、日頃からリリアさんに一番胃痛を与えているんは俺なので、マッチポンプ感があるとはいえ、それでもその胃痛をある程度でも和らげられるのなら、是非プレゼントしてあげたい。
あと別に俺がなにもしなくても、リリアさんはクロやアリスが呆れるレベルで胃痛案件を引き寄せるみたいなので……いや、本当に少しでも助けになればいいなぁと……。
シリアス先輩「他の胃痛戦士にも全員配布すべきでは?」
???「たぶん、他はあんまりカイトさんの認識として、胃痛で苦しんでる人に分類されてないんだと思います。香織さんは胃痛を心配する相手なんですが、紅茶飲むイメージがあんまりないので無意識に除外してますね。コーネリアさんはキャパ越えギリギリになった事で、エリスさんみたいに取り繕えなくなったことで、途中からカイトが精神的疲労を心配し始めましたね。主に、メギドさんやマグナウェルさんと会ったあたりから、そういう部分を心配してフォローしてもらえる枠に入ったかと……」
シリアス先輩「やっぱ、エリスのように耐えるのは間違いで、胃痛で苦しんでるのを表に出すのが、胃痛の悪魔から譲歩を引き出せる鍵なのかもしれない」




