専用ブラシの購入㉕
コーネリアを重要な相手だと見定め、ノーヴェとテトラがそれぞれの思惑の元動こうとしたタイミングで、強引にふたりとコーネリアの間に割って入ってきた者がいた。
そう、トーレである。トーレはニコニコと明るい笑顔で握手を求めるように手を差し出しつつ口を開く。
「私は、トーレ。お互い、カイトの友達同士ってことでよろしくね!」
「よ、よろしくお願いします。トーレ様」
「おっと、様なんて敬称はいらないよ。もっと気軽な感じでいこう! トーレお姉ちゃんって呼んでくれてもいいんだよ? あっ、私もコーネリアって名前で呼んでいいかな?」
「あ、は、はい。もちろんです。えっと……トーレさん」
「うんうん!」
若干戸惑うコーネリアに対して、持ち前の明るさで距離を詰めるトーレ……その少々驚いた顔で見ていたノーヴェとテトラだったが、すぐになにかに気付いたような表情を浮かべ、ノーヴェは自分の頭をかき、テトラは苦笑しつつ肩をすくめた。
彼女たちは優秀な特別顧問ではあるが、それ以前にクロムエイナの家族の一員であり、クロムエイナの指導力が優れているからか、知性だけでなく人格にも優れた者たちであり、割り込んできたトーレを見てなにかしら思うところがあった様子だった。
(あ~これ、反省しないと駄目なやつだ。トレ姉ちゃんの言う通り、あくまで偶然会ったカイトの友達だよ。貴族として云々だとか、交流相手としてどうこうとか品定めするのは違うよね。明らかに委縮してる雰囲気だし、怖がらせちゃうよね~)
己が人事部門の特別顧問としての顔でコーネリアと接そうとしていたことに気付き、ノーヴェは心の中で反省するとともに、トーレに負けず劣らずの明るい笑顔を浮かべてコーネリアに声をかける。
「あ、じゃあ、トレ姉ちゃんの次は私ね。私は、ノーヴェ……お互い色々立場はあると思うけど、ここは商談の場でもないし、パーティ会場とかってわけでもないし、その辺りは今回は気にせずに行こう!」
「あ、は、はい。よろしくお願いします」
ノーヴェが今回の場では立場は気にせずにいこうと発言したのは、この場でのコーネリアの言動がシャロン伯爵家やシャロン商会との付き合いに影響を及ぼすことはないと伝える為であり、意図を理解したコーネリアは明らかにホッとした表情を浮かべた。
(……早計過ぎた。シャロン商会との関係を強めるにしても、それは伯爵家に正規の手順で申し込むのが筋だ。偶然会った彼女を窓口のように扱うのは、誠実さに欠ける。これはトーレに感謝だね)
ノーヴェと同様にテトラもトーレの行動で一拍空いたことで、若干偏っていた思考を修正し、ノーヴェとのやり取りが終わるタイミングで、穏やかに微笑みを浮かべつつコーネリアに声をかける。
「……ボクはテトラ。ふたりと同じく、いまは偶然知り合った共通の友人を持つ者同士としてよろしく」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
テトラもこの場はあくまで快人という共通の友人を持つ個人同士の遭遇とするようで、自分の発言でシャロン商会が窮地に陥ったりする心配がなくなったコーネリアは、少しだけ肩の力が抜けた様子で、自然体に近い感じで挨拶を返していた。
(いやはや、お見事。さすがはトーレ殿ですな。計算でやってるわけではないのでしょうが、絶妙なタイミングで水を差したことで、ノーヴェ殿とテトラ殿の虚を突いて思考を一度中断させ、考え直す時間を作った)
ノーヴェとテトラが動こうとした絶妙なタイミングで割って入ったトーレの行動に感心したような表情を浮かべつつ、ゼクスも挨拶を行う。
「では、ワシも同じくミヤマ殿という共通の友人を持つ、どこにでもいるリッチとしてよろしくお願いします」
「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」
「リッチってどこにでもいるのかな?」
「ゼク兄ちゃんは、顔が怖いからコーネリアちゃんが怖がらないか心配だよ」
高身長かつガイコツという見た目のゼクスは、たしかになかなかの威圧感であり、トーレとノーヴェが挨拶に軽くツッコミを入れる。
「おや、これでもワシはダンディーなイケオジで通っているのですが……」
「……残念だけど、ゼクス。ここにアンデット種はいない」
ゼクスの発言にツッコミを入れるテトラを見て、快人は心の中で「そういえばアンデット界隈じゃ、ゼクスさんは凄いイケメンなんだっけ?」と、以前イルネスと行ったナイトマーケットでの話を思い出していた。
そして、チェントとシエンも簡単にコーネリアと挨拶を交わしたタイミングで、快人が口を開く。
「トーレさんたちは、このまま帰るんですか?」
「うん。本当はニフティのカフェとかにも行きたかったけど、予約が必要だからね……チラッ! チラッ!!」
「……アピールが凄い。というか、チラッて口で言うんですね。えっと、じゃあ、カナーリスさんに頼めば席は用意できると思うので、トーレさんたちもカフェに寄っていきますか?」
「さすが、カイト! お姉ちゃんは、その言葉を待ってたよ!」
こうして、セーディッチ魔法具商会一行もニフティのカフェに立ち寄る流れとなり、多少持ち直していたはずのコーネリアは、再び遠い目をしていた。
シリアス先輩「胃痛から救ったと思ったら、最後に胃痛与えてきた!? 敵か味方か分からねぇなトーレ……」
???「まぁ、強いて言えるのは、トーレさんその辺別に深く考えてないと思います。仕事中以外は、基本ノリと勢いで生きてる人なので……」