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専用ブラシの購入⑳



 アルクレシア帝国首都にあるハミルトン侯爵家の室内では、ハミルトン侯爵とエリスが会話を行っていた。本来であれば、以前に企画した茶会に参加した令嬢たちの両親を呼んで今後についての注意や話し合いを行う予定だったのだが、それはリッチ男爵家の緊急帰宅により中止となった。

 というのも、その緊急帰宅の内容如何によっては、話し合う議題が変わってくる可能性もあるため、話し合いの場は後日改めて作るという事になり、集まっていた貴族家の者たちはハミルトン侯爵家が転移魔法を用意する形でそれぞれ帰宅していった。


「リッチ男爵家が先でしたか……シャロン伯爵家の方が、先になにかあると思っていましたが……」

「ふむ、エリスの見立てでは危険……もとい、ミヤマカイト様と交流が深まる可能性が高いのは、リッチ男爵家とシャロン伯爵家だったな」

「はい。あくまで私が茶会で感じた印象ですが、コーネリア様とマリー様が他の令嬢と比較するとカイト様からの興味を獲得しているように感じられましたね。茶会の場でなにかしらの約束をしていたのはその二名でした。マリー様は男爵家で収穫したリプルを贈る約束を、コーネリア様は魔物の専用ブラシ……ヴィクター商会への案内を約束していましたね。その案内が今日のはずなので、なにかあるならそちらでと思っていましたが……」


 エリスは茶会の際に快人と他の令嬢とのやり取りを見て、ある程度誰が快人から好感触を得ているかを予想していた。

 単純に快人が感情などが表情に出やすいという事もあるが、エリス自身も人の感情の機微を見定めるのは得意なため、コーネリアとマリーが他の令嬢と比べて快人に気に入られていると予想しており、それは正解だった。


 そして、茶会の席で話が出たコーネリアが快人をヴィクター商会に案内する話も、その場で日程を決めていたので把握しており、今日なにか起こりうるのであればそちらだと予想していたので、リッチ男爵家の方に緊急連絡が来たのは少し意外だった。


「ヴィクター商会のある都市には、人を送ってあるのだろう?」

「ええ、さすがに多数とは行きませんが、ヴィクター商会本部の周囲でなにかあれば連絡が……」


 シャロン伯爵家はハミルトン侯爵家派閥内でハミルトン侯爵家に次ぐ力を持つ貴族家であり、そこになにかしら大きな出来事があれば派閥内全体に波及する可能性もあるため、エリスもハミルトン侯爵も警戒しており、今日に合わせてヴィクター商会のある商業都市には諜報というほど大げさなものではないが、なにかあった時に連絡が貰えるように何人か派遣していた。


 そのことについて話が移行したタイミングで、部屋の扉が勢いよく叩かれ、入出を許可すると慌てた様子のメイドが部屋に駆け込んできた。


「ほ、報告いたします! 緊急連絡が届きました! 商業都市にて、戦王様と竜王様の姿を目視にて確認、ミヤマカイト様とコーネリア・シャロン様のふたりと一緒に居る模様です!」

「「ッ!?」」


 メイドの言葉にエリスとハミルトン侯爵は驚愕の表情を浮かべ、直後にエリスは眉間に人差し指を当てて思考する。


(派遣した者が目視にて確認したという事は、屋外の可能性が高いでしょう。あの商業都市内……ヴィクター商会の本部の位置、周辺の施設を考慮すると……)


 エリスは極めて優秀な人物であり、人を派遣してある商業都市の地図は頭の中に入っている。ヴィクター商会の本部から比較的近く、メギドやマグナウェルと遭遇する可能性がある場所を高速で思い浮かべる。


「……コンサートホールですか?」

「は、はい! 報告が漏れて申し訳ありません。コンサートホールの付近にて姿が確認できたとのことです」

「……竜王様の方の動機は分かりかねますが、戦王様は音楽にも造詣が深いですし、コンサートホールに足を運んでも不思議ではありません。タイミングよくそれに遭遇するのは、さすがカイト様というべきですが……これは、六王様二名に対してカイト様からコーネリア様の紹介があったと断定してもいいと思います」

「まずいな……戦王様も凄まじいが、竜王様との繋がりはシャロン伯爵家だけでなく帝国全体への影響も大きいぞ……噂が広がると、かなりの騒ぎになる可能性がある」


 六王ふたりと遭遇という時点ですでにとてつもないのだが、中でもマグナウェルはアルクレシア帝国と特に繋がりが深い六王であり、他の貴族たちへの影響も大きい。


「噂が広がる前にシャロン伯爵と話し合う必要がありそうですね。伯爵家に問い合わせなどが殺到するでしょうし、ハミルトン侯爵家派閥の得る恩恵があまりにも大きすぎます」

「初動が遅れれば、相当の数の敵を作る可能性があるか……だが、場所が悪いな、コンサートホールかつ情報隠蔽魔法を用いない戦王様と竜王様とは……」


 情報隠蔽の魔法を常用しているクロムエイナやアイシスであれば、情報の拡散にある程度制限がかかるため準備が間に合う可能性は高く、侯爵家と伯爵家が連携して対応すれば貴族間のバランス調整は問題ない。

 だが初動が遅れれば先に他の貴族家に動かれる可能性がある。コーネリアを直接狙うことは無いだろうが、シャロン伯爵家の次男次女といった辺りと婚姻等を狙ったり、シャロン伯爵家にハミルトン侯爵家派閥を抜けて新たな派閥を作らないかと持ち掛ける者なども出てきて、対応に追われることになりかねない。


 ともかくスピードが重要だと、エリスとハミルトン侯爵の考えが一致したタイミングで、メイドが口を開く。


「……まぁ、さすがにコーネリアさんが可哀そうなので、こっちで少し助けてあげますよ」

「「!?!?」」


 どこか余裕を感じる言葉に、エリスとハミルトン侯爵が視線を向けると、先ほどまでは焦った様子だったメイドが、落ち着き切った表情で微笑んでいた。


「……幻王様……でしょうか?」

「ええ、ハミルトン侯爵家があの都市に派遣した7人からの連絡は、後数分かかると思いますよ」


 まるで世間話をするかのように穏やかに、ハミルトン侯爵家が送った人員の数まで完璧に把握しているアリスに、エリスとハミルトン侯爵は冷や汗を流す。


「まぁ、そんなわけで2日ぐらいは、こっちで噂の拡散を抑えておきますので、その間に対策をしっかり話し合ってくださいね」

「畏まりました。幻王様の慈悲に心よりの感謝を……感謝……あの……幻王様? なぜそんな、憐れむような目で私を見るのでしょうか?」

「……たぶんすぐに来るであろう貴女の番に関しても、ちゃんと助けてあげますから……」

「なぜ、そんな優しい声で恐ろしいことを……」


 飄々とした感じだったアリスが最後にエリスに憐れむような目を向けて姿を消す。そして悲しいかな、エリスにも若干の心当たりはある……そう、約束しているのだ……快人の家に遊びに行くことを……それに、快人が主催する気でいる茶会への参加も確約を貰っている。


 言いようのないほどの嫌な予感を覚え、エリスはそっと腹部に手を当てた。




シリアス先輩「そういえばエリスって、シロの参加が確定してる茶会への招待が快人の口から確約されてるんだよな……」

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― 新着の感想 ―
あかん、「うわあエリスちゃん優秀」とか思ってたら感想欄で爆笑してしまった。 確かにあのアリスから同情されるって相当だなあ...
新基準「アリスちゃんが同情して気を回すレベル」
これは出来るかわいいアリスちゃん
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