クリスマス番外編~謎の女神S先輩の受難~
メリークリスマス。活動報告で予告した通り、クリスマス番外編です。
活動報告では多くのアンケート参加ありがとうございます。
お品書は以下の通り
謎の女神S先輩……7時更新
シャローヴァナル……10時更新
アリス……12時更新
アイシス……15時更新
クロムエイナ……18時更新
リリウッド……ごめんなさいまだ書けてないです。今日か明日にはなんとか……
あっ、それとちゃんと通常の更新もありますので、今日は最低でも6話更新となります。
これが、私のファンサービスだ!
あっ、尚、感想返信等は仕事から帰ってから行います。
◆番外編を読む上での注意事項◆
・時間軸は本編終了後を想定したIF。
・それぞれ快人とは既に恋人同士という前提で進行(S先輩を除く)
・若干のネタバレあり
神界中層……ここは上級神とその直属の下級神のみが住む事が出来る場所。ここに住むのは皆、神族の中でも上位の実力を持つ者ばかり……
そんな中層の一角に一人の女神が居た。
白色のセミショートヘアを風になびかせ、異世界より伝わったお気に入りの服……異世界ではセーラー服と呼ばれる服に身を包み、青みのかかった緑色の目で景色を見つめながら……呟く。
「……全員死ね」
「……先輩、いきなりなに物騒な事を言ってるんですか?」
膝を抱えて吐き捨てるように呟く女神に、部下である下級神が声をかけると、女神は冷たい目で部下を見つめて口を開いた。
「……今日が何の日か、言ってみて」
「クリスマス、でしたっけ? 異世界から伝わったお祭りですね」
「なにがクリスマスだ! どいつもこいつもいちゃいちゃして!! 異世界の祭りでしょ!! この世界関係ないじゃん!?」
「うわ~なんですか、その訳の分からない怒りは……」
捲し立てるように話す先輩の言葉を聞き、後輩は呆れ果てたような目で呟く。
「だって、私は克明とか真摯とかを司る上級神だからね! ちゃらちゃらと浮ついた雰囲気なんて……」
「いや、先輩『不幸』を司る女神じゃないですか」
「いや、確かに不幸も含まれてるけど、私が司ってるのは『災厄』!!」
「ああ、だから先輩はいつも災難に……」
「だ、だまれぇぇぇ!! というか、君、上司に向かってなんて態度……」
「安心して下さい。先輩以外にはちゃんと話しますから……先輩に抱く敬意とかないですし」
「……」
まるでゴミを見るような目で告げる後輩の言葉を聞き、先輩は茫然と目と口を見開いた後、少し経ってからハッとした表情に変わる。
「……い、いや、君、私の後輩だよね? 部下だよね?」
「はい。貴女が先輩というのは、わが生涯において最大の『汚点』です」
「うわあぁぁぁぁん! こいつ嫌いぃぃぃ!!」
「まぁまぁ、それは置いておいてゴミ……失礼、先輩は結局なにがしたいんですか?」
「ねぇ、今ゴミって言ったよね? 完全に言ったよね?」
コロコロ表情を変える感情豊かな先輩と、あくまで冷静かつ辛辣な後輩……知らぬ者には逆の立場に見えそうな関係だ。
これはある意味いつも通りの会話ではあるが、実の所先輩は神界においてもかなり上位の力を持つ女神であり、その実力は最高神に次ぐとさえいわれている。
そんな神界でも十指に入る高位の神は、後輩の質問に対し怒りを堪えるように呟く。
「……私はね。怒ってるんだよ……この浮ついた世の中に……平和なのは良い事。だけど、そのせいで真剣さが失われて、フワフワとした空気になってる奴等に怒りを感じてるんだ」
「成程……で、本音は?」
「最高神様の次に古参な私が、クリスマスに一人ぼっちなのに……あいつら皆揃っていちゃいちゃしやがって!!」
「……ただの嫉妬じゃないですか……」
ぐっと拳を握りしめながら叫ぶ先輩に、後輩は絶対零度の視線を向ける。
そう、なんだかんだいって先輩はクリスマスに一人で寂しいだけだった……彼女は基本ぼっちである。
「それもこれも、全部『アイツ』のせいだ!!」
「アイツ?」
「あの異世界人だよ!! アイツが来てから、時空神様も運命神様も生命神様も……なんか幸せそうだし、私だって入った事無い聖域にも立ち入り許可が出てるし! 数えるほどしかお話しした事無い創造神様とも会話してるって言うし! 何なのアイツ、ずるい!! 全部アイツのせいだ!!」
「……逆恨みもここまで来ると清々しいですね」
先輩が話題に出したのは、神界において知らないものは存在しない一人の人間の話題。
人間の身でありながら、最高神しか立ち入れない聖域に招かれ、頂点たるシャローヴァナルの加護を受けている異例中の異例。
その人間……快人に対する恨みをつらつらと語る先輩を見ながら、後輩は呆れた様子で溜息を吐いた。
「うぅぅ、アイツのせいで、アイツのせいで皆幸せになってるんだ……」
「大変素晴らしい事だと思いますが……」
「君はどっちの味方なの!?」
「……いや、私は恋愛を司る神ですし、余裕であの異世界人も味方です」
「……」
それはもうバッサリと告げる後輩の言葉を聞き、先輩は茫然とする。
そんな様子を見ながら、後輩は心底面倒臭そうに言葉を続ける。
「……まぁ、そんな気に入らないなら、先輩の災厄を司る力で、不幸にしちゃえばいいのでは?」
「……え? い、いや、それは……か、可哀想だし……そんな風に力使っちゃ駄目だし……」
「なんで変な所で良い人なんですか……」
「ま、まぁ、全部あの異世界人が悪いし……少しぐらい報復しても……石に躓くようにするとか……」
「……うわ~子供の嫌がらせレベル」
ブツブツと呟きながら立ち上がった先輩は、空中に指で円を描く。
彼女は全くそうは見えなくても非常に高位の力を持っており、遠見の魔法なんてのも簡単に使う事が出来る。
描かれた円の中には快人の姿が映り、先輩はそんな快人を見つめながら何度か深呼吸をして、片手をあげる。
「……よ、よし、喰らえ! 私の怒りを、石に躓――ッ!?」
しかし変な逆恨みによる報復が、快人にもたらされる事は無かった……何故なら、片手をあげた先輩の首元に鈍く光るナイフが突き付けられていたから……
「……死んどきます?」
「……ご、ごめんなさい……幻王……」
忽然と現れた幻王が冷たい声で告げ、先輩は涙目になりながら手を引っ込めた。
幻王が去ったあと、先輩は膝を抱えて拗ねていた。
「……ずるいよ……幻王様使って反撃なんて……反則だよ……」
「……で、どうするんですか先輩? もうやめときます?」
「や、やめない! こうなったら『直接文句言ってきてやる』!!」
「……文句も何も、なにを言うつもり……って、もう行っちゃった」
発端が完全な逆恨みであるにもかかわらず、先輩は快人に直訴してくると告げて姿を消す
取り残された後輩は、先輩が残したままの遠見の魔法に視線を動かす。
すると映された快人のすぐ前に光と共に先輩が姿を現し、ビシッと快人を指差している場面が映し出されていた。
しかし画面の先輩は快人を指差したままで固まっており、全くと言っていいほど口が動いていない。
「……物凄く人見知りなくせに、一体何を話すつもり?」
ボソリと呟く後輩の言葉通り、魔法で映し出されている先輩は指をさしたまま、何度も何かを言い出そうとして途中で口を閉ざしている。
そして当然のことながら、相手をしている快人も戸惑っており、不思議そうに首を傾げている。
「……う~ん……あぁ、泣きだしちゃった……上級神のプライドはどこに……うわ~完璧八つ当たりで、滅茶苦茶な文句言ってる」
言葉が無いままの沈黙に耐えきれなかったのか、そもそも発端が逆恨みなので理路整然とした文句なんて言えないのか、先輩は快人の前で座り込み、大泣きしながら快人にひたすら文句を言っているようだった。
「……あらら、文句言いに行った対象に慰められてる……あっ、なんかお菓子貰ってる。これ、完全に子供あやすやつだ」
勿論そんな理不尽な怒りを向けられた快人は戸惑いつつも、お人好しな性格の為泣きじゃくる女性を無視する事も出来ず、なんとかなだめようと声をかけているみたいだった。
「……うん? なんか一緒に移動して、ベンチに座って……人生相談始めちゃったよ、あの先輩……なんで文句言いに行った対象に愚痴聞いてもらってるんだ……」
それからしばらく経って、先輩は後輩の元に返ってきた……どこかすっきりした表情で。
「……どうでした? 先輩?」
「うん、いい人だった……私が甘いの苦手って言ったら、センベイっていうお菓子くれた……」
「……」
嬉しそうにそう呟きながら、先輩は椅子を用意し、お茶を飲みながら煎餅を齧り始める。
そんな先輩を呆れたような目で見つめながら、後輩はゆっくりと口を開く。
「……結局、なにしに行ったんですか? 餌付けされて帰ってきただけとか……先輩チョロ過ぎでしょう……」
「はっ!? ち、違うからね! これはあくまで……そ、そう、慈悲だから!」
「……慈悲?」
「まぁ、私も高位の女神だからね。あの異世界人が献上品を差し出して頭を下げるなら、今回位は見逃してあげても良いかなぁ~ってそういう事だからね! 別に近くで見てみたら思ったよりカッコ良かったとか! 優しくされてキュンと来たとかじゃないから!! 次こそはアイツに今までの行いを悔い改めさせてやるから!!」
「……」
「ま、まぁ、献上品を貰っておいて、なんの加護も無しじゃ、私の女神としての沽券に関わるし……ま、まぁ、少しぐらい、お礼とかしてあげてもいいけどね……わ、私は慈悲深い女神だからね!!」
「……」
微かに頬を染めながら告げる先輩を、後輩は生温かい目で見つめた後、大きく溜息を吐く。
「……はぁ、まぁ、先輩の悩みも解決したみたいなんで、私は下級神の集まりでパーティーがあるので失礼します」
「……え? なにそれ? わ、私は?」
「先輩、上級神でしょ?」
「……う、うぅ……」
「では、失礼します」
そう告げて一礼した後、後輩はアッサリとその場から去り、残された先輩は肩を落とす。
しかし先輩の受難はそこで終わる事はなく、直後に更なる悲劇が襲いかかる事になった。
「……おっ、丁度良い所に!」
「え? 運命神様? どうしたんですか?」
「うん……はいっ、これ!」
「……なん……ですか? この書類の山……」
突如現れた先輩の直属の上司である運命神フェイトは、ニコニコと明るい笑顔で先輩の前に山のような書類を置く。
体が埋まりそうな程の書類を見て茫然と呟く先輩に、フェイトは弾けるような笑顔でサムズアップをする。
「私は、カイちゃんの所でパーティーするから! この仕事、代わりにやっといて!」
「へ? え? えぇぇ!?」
「じゃ、よろしく~!」
「ちょ、ちょっと、運命神様!?」
そしてフェイトは消えて、その場には先輩と山のような書類だけが残る。
先輩は茫然とした表情で何度も書類の山に視線を移し……プルプルと体を震わせる。
「う、うわあぁぁぁぁぁん!! 皆、死ねえぇぇぇぇ!!」
クリスマスの夜……一人ぼっちの空間に、不幸な女神の叫び声が響き渡った。
謎の女神S先輩……このポンコツ具合……一体何者なんだ……