専用ブラシの購入⑬
エインガナさんとコーネリアさんが音楽の話で盛り上がる中、俺はフレアさんと会話をしていた。まぁ、同じテーブルなのでエインガナさんとコーネリアさんの話も聞こえるし、コーネリアさんは緊張気味なので内容によってはフォローとかもしようと思うが、いまのところは大丈夫そうなのでフレアさんとの話に集中する。
「そういえば、戦友はこの都市になにをしにきたんだ? 観光か?」
「ああいえ、コーネリアさんの紹介でヴィクター商会って言う魔物関連の品を扱っている商会で、ペットの専用ブラシを発注してきたんですよ」
「ほぅ、専用ブラシ? そのようなものがあるのだな」
「ええ、それぞれの魔力波長に合わせてオーダーメイドで作るブラシらしくて、まだ完成品は受け取ってないので使ったことはないんですけど、話を聞く限りではかなりよさそうでしたね。ああ、それと、竜種とかの鱗用のブラシも作れるみたいで、それも発注してきました」
「!?」
俺が告げた言葉に、隣に座っていたコーネリアさんが驚愕した表情で勢いよく俺の方を向いてきた。
「え? コーネリアさん? どうかしましたか?」
「あ、い、いえ、失礼しました。私も関わりのある商会の話になっていたのでつい興味が……」
「ああ、なるほど……」
ヴィクター商会は事実上シャロン商会の傘下みたいなものらしいから、そのヴィクター商会が話題に上がれば気にもなるか……エインガナさんも興味深そうな表情でこちらを見ているので、一度音楽の話は中断してこちらの話を聞こうとしている感じがした。
「……それは中々に興味深い話だな。我も鱗の手入れなどを行う際にはブラシを使うが、魔力波長に合わせた専用のものを用意するという発想は無かった。しかし、確かにそちらの方がよさそうではあるな……戦友よ、例えば我が注文することも可能なのだろうか?」
「たぶん大丈夫だとは、普通に注文は受け付けてるみたいでしたし、魔力波長を記録できる程度の量の鱗とかがあればできる筈ですが……あ~でも……」
「うん? なにか気にかかることがあるのか?」
気にかかると言えば、隣で蒼白になってるコーネリアさんの様子も気になるのだが、とりあえずフレアさんの質問に先に答えることにしよう。
気になるというほどのものではないのだが、ふとフレアさんが専用ブラシに興味を持っているのを見て思い浮かんだことがある。
「ああいえ、気にかかるってほどじゃないんですが……ウチのリンもジークさんのセラもまだ子供で小柄なので、フレアさんぐらい巨大だとブラシも相当大きくなりそうで、そんなサイズのブラシも大丈夫なのかなぁって……」
「……ほ、ほぅ……」
ベルのサイズが行けるなら大丈夫そうな気もするが、フレアさんはいくら竜種としては小柄な部類とはいえ、普通の魔物と比較すれば相当大きいので、そのフレアさんが使うのに適したサイズのブラシが作成可能なのかどうかがすぐには分らなかった。
ただ俺の言葉を聞いたフレアさんは、なにやらソワソワとした様子で視線を動かし始めた。
「……と、戦友から見てその、我は……きょ、巨大に見えるのか?」
あ、あ~なるほど、そういう事か……フレアさんは体の大きさにコンプレックスがあり、先ほど俺が言った巨大という言葉に反応したみたいだ。
フレアさんの気持ちは俺も凄く分かるので、ここはもちろん肯定する。
「ええ、やっぱり俺が人間でフレアさんの竜としての姿が相手だと見上げる形になるってのと、フレアさんが堂々として力強いのでやっぱりかなり巨大に見えますね。実際竜としての姿を見た印象だと、5mほどとはとても思えなかったです。7……いや、8mぐらいに見えましたね」
「は、8mは少々大げさすぎるだろうっ、だっ、だがまぁ、そうだな。戦友の体格からだと正確な全長は図り辛いわけだし、そう見えても仕方がない部分はあるな!」
滅茶苦茶嬉しそうである。なんか声も少し上ずっているし、普段はカッコいい雰囲気のフレアさんが、やけに可愛らしく見えるぐらいには喜びようが伝わってきた。その気持ちも本当によく分かる。俺も170cmオーバーに見られたときは、すごく嬉しかったし……。
「……ちなみに、ミヤマカイトさんから見て、私の竜としての姿はどうでしょう? 簡単な印象程度で問題ありませんが、実際の全長と比べてどのように見えましたか?」
するとそのタイミングで、エインガナさんが己の竜としての姿についての印象も尋ねてきた。ここで間違えてはいけないのが、フレアさんと同じような対応は悪手だ。
フレアさんは体躯にコンプレックスがあるので大きく見られることに喜んでいるが、エインガナさんの場合は違う。
「エインガナさんの竜の姿ですか? もちろん、俺から見れば凄く巨大なんですが、ただエインガナさんの場合は、なんていえばいいのか……顔が小さくシュッとした雰囲気だからかもしれませんが、全体的にスレンダーというか、実際の全長より小さく見える気がしましたね」
「……さすが、マグナウェル様が高く評価する御方。物事の真実を正確に見通す、大変に素晴らしい目をお持ちのようで、感服いたしました。実に正しく、真っ当な印象だと思います」
俺の言葉を聞いて、エインガナさんは物凄く満足げな表情で頷いたあとでこちらを絶賛してきた。感応魔法で伝わってくる感情でも、凄く喜んでるのが伝わってくる。
思い出すのはハイドラ王国の建国記念祭の時……エインガナさんが顔の大きさを気にしているという情報……あの時は必要ない情報だと思ったが、アリスから聞いた話がここで役に立ってくるとは思わなかった。
ちなみに他の四大魔竜の二人に関しては根拠のない勘みたいなものだが、グランディレアスさんはたぶん体が大きいことを褒めると喜んでくれると思う。小さい体も体験してみたいと分体は小柄にしていたが、基本的に己の体のサイズには誇りを持ってる気がする。
ファフニルさんは体格に関してはほぼ拘りが無いのだが、たぶん「リーダーっぽい雰囲気」だとか「配下筆頭に相応しい佇まい」とか、そういう感じのことを言えば喜んでもらえそうな気はする……まぁ、本当にただの勘なのだが……。
シリアス先輩「これが、数々のフラグを立ててきた攻略王の読み……パーフェクトコミュニケーションの権化の力……たぶん、グランディレアスとファフニルに関する対応も正解なんだろうな……そして、コーネリアの胃が死んでそう」