専用ブラシの購入⑤
本日はコミカライズ版第10巻の発売日です! 公式URLなどは活動報告よりご確認ください。
アンネさんが御者を務める馬車に乗って移動を開始する。この街は商業都市でありいろいろ商売が盛んな街であることも影響しているのか、道がかなり広い印象だ。大きな荷物とかを運んだりするからかもしれないが、とにかく視界が広く馬車からの景色もいい。
「店がかなり多いですね」
「ええ、さすがに物流の拠点となるような交易都市ほどの賑わいはありませんが、この街にはいくつもの商会が本部を置いていて、行事ごとなども盛んですね」
「へぇ、いろんな商会の本部があるってことは、ここに本部を置いておくと有利な面があるってことですかね?」
「いくつかの要因はありますね。一番大きな要因は、私の父よりもっと前の代のシャロン伯爵家の当主が、この都市を商業で盛り立てたいと、商売に関わる様々な税などを減額や免除したことで、様々な商会が集まって発展してきたのが要因ですね」
「なるほど、シャロン伯爵家も大きな商会を持ってるって話でしたし、代々商売関連に強いんでしょうね」
「たまたま一番最初にそういったことをやり始めたという運もありますけどね。いまとなっては、様々な地域で似た減税は行われているので、ここだけが特別に税率が低いというわけでもありませんしね」
確かにそういうのはスタートダッシュというか、最初にやった人が有利というのはあると思う。最初に商会を集めるのに成功すれば、他の商会との取引とかを考えるとこの商業都市が便利になったりと税率以外にも本部を置く価値が出てきて栄えていくのだろう。
ただやっぱり、そういう試みを一番最初に試して成功しているというのは凄いし、だからこそシャロン伯爵家はアルクレシア帝国内でも相当の財力を持つ貴族家になったのだろう。
「……うん? あの大きな建物はなんですか?」
「あれは、コンサートホールですね。比較的新しい建物で、現在の都市代表が音楽関連に力を入れている関係で、数年前に新しく建設されました。元々商売関連は強い都市ですが、観光という面ではいまひとつなので、そういった関連で話題となるようなものが欲しかったのでしょうね。かなりの予算を投じて作られた、国内でも最大規模のコンサートホールです」
「へぇ、楽団とかが演奏してたりするんですかね?」
「ええ……少々お待ちください」
コーネリアさんは俺に一言断りと入れた後で、馬車内にある小さな窓……御者席のアンネさんと会話ができる窓を開けて、アンネさんになにかを確認した後で俺の方に向き直る。
「……お待たせいたしました。本日は、アレグラシンフォニーという楽団が演奏を行う予定らしいですね。新鋭の楽団で、現時点では知名度はそこまで高くは無いですが、非常に腕のいい楽団で後々は人気楽団になるのではと噂されているようです」
「なるほど、ちょっと興味はありますね。いや、シンフォニア王国にもコンサートホールとかはあるんですけど、ほぼ北区画なので、あんまり行ったことがないんですよね。演劇とかは何度か見に行ったんですが、楽団の演奏とかはあまり聞きに行ったことが無いですね」
「そうなのですね。では、せっかくの機会ですし鑑賞してみるのもいいかと思います。腕のいい楽団ではありますが、現時点ではあのサイズのホールの席が完売するような人気ではないので、当日でも席は購入できると思いますよ」
楽団の演奏というのは正直ちょっと興味がある。オーケストラみたいなイメージではあるが、コンサートホールとかで聞くと凄そうだし、聞いてみたいとは思う。
だが、ちょっとあんまり経験したことがない場所なので、少し尻込みする部分もある。
「いいですね。でも、ほとんどそういう演奏を鑑賞した経験は無いので、ひとりで行くのも少し不安というか……もしコーネリアさんの都合がよければ、紹介に行った後で一緒に聞きに行きませんか?」
「……も、もちろんカイト様の誘いとあれば喜んで……私も案内の後に予定は入っておりませんので、問題はないのですが……えっと、カイト様は大丈夫でしょうか? その……私とふたりで……」
「ええ、俺の方はコーネリアさんさえ問題ないのであれば、是非一緒にいきたいですね」
コーネリアさんは明らかにそういう演奏鑑賞とかに詳しそうだし、一緒に行ってくれると心強い。ひとりで行くとなると初めての場所に緊張するという部分が大きくなりそうだし、コーネリアさんが一緒なら安心して楽しめそうだ。
「……他意はない……はずですよね? エリス様のお話から考えるに……そういったお誘いというわけではなく……」
「……コーネリアさん?」
「ああ、いえ、失礼しました。少し私的な考え事を……もう間もなく、ヴィクター商会に到着しますよ」
小さな声でなにかを呟いていたコーネリアさんだったが、俺が声をかけると若干慌てた様子で言葉を返してきた。少し不思議ではあったが、もうすぐ目的地に到着という事もあって追及したりすることはなく、俺は視線を窓の外に向けた。
シリアス先輩「たしかにコーネリア視点からだと『あれ? もしかして今口説かれてる?』みたいな流れだったかもしれないが、違うぞ……その悪魔は、四大魔竜で胃をぶん殴る未来を確定させに来ただけだぞ……」