専用ブラシの購入③
コーネリアが馬車の中でしばらく待っていると、待ち合わせの時間の10分前ほどに転移ゲートに待機させていたふたりの使用人の内のひとりが戻ってきて、快人が来たことを伝えてきた。
それを聞いてコーネリアは馬車から降りて、もうひとりの使用人に案内されてやってきた快人に優雅に一礼する。
「カイト様、ようこそいらっしゃいました。先日の茶会では、ありがとうございました」
「こんにちは、コーネリアさん。こちらこそ、茶会もそうですが今日も無理を言って案内をしてもらってすみません」
「どうかお気になさらず、間接的とはいえ当家の関わる商会がカイト様の目に留まって、喜ばしい限りです」
軽く挨拶をしつつ、快人を見てコーネリアは内心で驚愕した。
(な、なんて、素晴らしい衣服……極めてシンプルなデザインながら、超が付くほど凄腕の職人が仕上げたと思われる品……それに、衣服関連に多少は自信がある私が見ても、材料が分かりません。とてつもなく素晴らしい素材が使われているのは間違いないとは思うのですが、思い当たるものが……さすが、カイト様というべきでしょうね。私もそれなりにいい服を着てきたつもりでしたが、まるで次元が違います)
ちなみに現在快人が着ている服は、誕生日パーティの際にアリスに貰った一式セットであり、恋人である快人の誕生日という事もあって、アリスがかなり本気を出して作った品である。
材料もマキナに創造させた本来ではありえない理論上の最高品質の素材を惜しみなく使って作った服であり、一見すると普通の服のように見えるのだが、コーネリアのように分かる者が見れば圧倒される品だった。
「コーネリアさんは、かなりセンスのいい服ですね。落ち着いた雰囲気ですけど、デザインとかかなり洗練されてる雰囲気ですし、コーネリアさんによく似合ってますね」
「ありがとうございます。ハイドラ王国の流行を取り入れつつ帝国伝統の製法で作られた服です。ですが、私の服以上に、カイト様の服が本当に素晴らしいですね。シンプルながら随所に拘りを感じます」
「貰い物ですが、俺も気に入ってます」
快人の褒め言葉に軽く礼を言いつつ、快人の服も褒める。こういった会話は社交界などでもよくあり、自分の身嗜みなどを褒められれば、相手のものも褒めるのがマナーであり、コーネリアにとっては慣れたやり取りだったが……快人の言葉には再び少し驚愕した。
(……貰い物? どう見ても、白金貨単位という品……素材次第では二桁枚もありえると思いますが……やはり、カイト様は凄まじいですね。私も改めて気を引き締めなおさなければ……)
改めて快人の凄まじさを思い知ったコーネリアは、心の中でいままで以上に気を引き締める。するとそのタイミングで、快人がふと思い出したような表情でマジックボックスを手に出現させた。
「ああ、そういえば、今日案内してもらうのでちょっとしたお礼を持ってきたんですよ」
「お礼ですか? それは、気を使わせてしまったようで申し訳ありません」
「えっと、コーネリアさんもペットを飼ってるってことだったので、俺が愛用してる魔物用のシャンプーです。サイズの大きい魔物も居るかと思って、ちょっと多めに持ってきましたが……ここで渡しても大丈夫ですかね?」
「ええ、私もマジックボックスは所持しておりますので大丈夫ですよ」
「それじゃあ、出しますね」
コーネリアの言葉を聞いて、快人は大きな木箱を取り出し、コーネリアはそれに触れてマジックボックスにしまった。
平静を装って受け取ってはいたのだが、コーネリアの内心は穏やかではなかった。
(カイト様が愛用しているペット用のシャンプー? ま、まさか茶会の際に話していた世界樹の果実を少量加えたというシャンプーでは? 受け取らないのも失礼と思って受け取りましたが、あ、あまりに価値が凄すぎて……い、いえ、落ち着くのです。まだ、世界樹の果実が使われたものとは限りません。カイト様はかなりペット関連でこだわりの強いお方ですから、シャンプーなども何種類も使い分けていてもおかしくは無いです)
世界樹の果実が使われたシャンプーの価値など、考えるまでもなく凄まじい。というか、アリスに直接作ってもらってる事を考えると、世界で快人しか持っていない品ともいえる。
「……あ、あの、カイト様。このシャンプーというのは、もしかして以前茶会でお話しされていた」
「いえ、そっちでもよかったんですが、世界樹の果実を少量入れたものは魔物によって苦手な種類とかも居るって話だったので、別のものですね。俺は普段三種類ぐらいのシャンプーを使い分けてるので、そのうちのひとつです。魔物によって素材で相性とかもあると思うので、材料を書いた紙も用意したので、大丈夫そうな子に使ってあげてください」
「お気遣いありがとうございます。確かに世界樹の果実は強い治癒と自然の魔力が含まれているので、苦手とする魔物も居るでしょうね……ひっ!」
「コーネリアさん?」
「あ、ああ、いえ、なんでもありません」
快人から受け取ったメモを軽く見たコーネリアは小さく悲鳴を上げた。なにせそこには、コーネリアであっても手に入れるのが難しいような希少な素材が大量に書かれていたからだった。
(魔導華のエキス、天空花のエキス、爵位級ハイトレントのオイル、ヴァスクホーネットのハチミツ……それ以外の材料も、どれもこれも超希少な……あわわわ、お礼で渡すような品じゃない、絶対紹介のお礼で渡すような品じゃないですよ、カイト様ぁ!?)
もちろんコーネリアの心の叫びが快人に届くことは無かった。
シリアス先輩「……そんな貴重な素材使いまくりのシャンプーを常用できるほどの量確保できるのか……」
???「いや、だってカイトさんにはトリニィアに現存する素材なら制限なしでいくらでも製造できるゴッドとかも居ますし……まぁ、カイトさんに売ってるシャンプーは、全部私……アリスちゃんが用意してますけどね」
シリアス先輩「……どうやって?」
???「いや、一個作っておけば、後はファクトリーギアでコピーできるので……戦闘では使い道無いですけど、結構便利なんですよねマキナの心具……」