専用ブラシの購入①
コーネリアさんに魔物の専用ブラシを取り扱ってる店に連れていって貰うわけだが、考えていた通り竜種用のブラシも作れないか聞いてみるつもりだ。
「というわけでリン、何枚か鱗をくれるか?」
「キュ!」
俺の言葉に頷いたあとで、リンは軽く自分の体を確認するように首を動かした後、生え変わりが近い鱗を何枚か剥がして俺の手の上に置いてくれた。
それを用意しておいた小瓶に入れて、準備は完了である。
「よしよし、これでリン用のブラシも作ってもらえると思うよ。楽しみだな」
「キュイ!」
基本的にはベル用のブラシと大きく工程が変わることは無い筈なので、問題なく作れるとは思う。まぁ、最悪その商会に取り扱いが無い場合は、アリスに頼んでもいいかもしれない。
そんなことを考えていると、不意に小さな鳴き声が聞こえた。
「クー……」
「うん? セラ? どうかした?」
振り向いてみると、物静かで滅多に鳴くことのないセラが俺を見上げており、どうしたのかと尋ねると自分の体から鱗を一枚加えて俺の方に差し出す動きをした。
「……ああ、なるほど……そうだよな。セラだって、専用ブラシ欲しいもんな」
「……」
たしかにリンだけ専用ブラシがあって、セラには無いというのは可哀そうである。特にセラはリンのことを姉のように慕っているので、一緒がいいのだろう。
その可愛らしい主張に微笑みつつ、リンの時と同じようにセラの鱗も何枚か貰って小瓶に入れる。あって困るものでもないし、セラ用のブラシは一緒に買ってきて、ジークさんにプレゼントしよう。
快人がペットたちとのんびり過ごしつつ、約束の時間を待っている頃……アルクレシア帝国シャロン伯爵家の一室では、コーネリアが真剣な表情で鏡を見ていた。
(今回はパーティや茶会の席ではないですが、身嗜みはしっかり注意しなければ……派手さや高級感を押し出すのは悪手でしょうし、市井などでもあまり目立たないような落ち着いたデザインで、見る者が見れば貴族令嬢に相応しいだけの価値のある服……その辺りがベストですね)
商売人としての側面もあるシャロン伯爵家、そこの長女としてコーネリアは幼い頃から様々な場を経験しており、特に衣服に関してはハイドラ王国の最先端の流行も全てチェックしており、それなりに自信があるといっていい。
だが、相手は快人と思うと……いつも以上に装いには気を使う必要があった。
(カイト様の衣服の雰囲気に合わせるのが最適ではありますが……系統が近くなると、どうしてもカイト様の服に比べて見劣りしてしまうでしょうね。カイト様はごく自然に着こなしていましたが、茶会の折に来ていたあの服……一見シンプルなデザインのようで、作りはまさに芸術といっていい服でした。上着はおそらく、魔界のクラウンスパイダーの糸製でしょうね。特殊危険生物にも指定されているクラウンスパーダーの糸を、服を作れるほどに仕入れるのもそうですが、なにより服を制作した職人の腕前が凄まじすぎます。カイト様の財力が桁違いなのを考えると、いったいあの服はどれほどの価格なのか…)
衣服に詳しいコーネリアは、快人の着ていた服が一流の素材を、超一流の技術で作り上げた品だと認識しており、流石快人の財力は桁違いだと驚嘆していた。
なお、間違ってはいない。快人は基本的に衣服類は、アリスから購入しているのだが価格は茶会の時に来ていた服は全部セットで500Rである。
一般人にしてみればそれなりの値段だが、金額という意味ではコーネリアが来ていた服の方があるかに上だ。
まぁ、とはいっても、口ではなんだかんだ言いつつも快人にベタ惚れなアリスが、快人用の服を作る際に妥協するはずもなく、素材なども最高のものを自分で調達して用意している。
(間違いなくカイト様は衣服に対して強い拘りを持つお方……迂闊な服を着ていけば笑われてしまうでしょう。候補は絞っていますが、もう一度しっかり考えて選ぶべきでしょうね)
なお、大いなる誤解である。快人は割と服は適当であり、デザインなども大まかに希望を伝えて、後はアリスに丸投げしている。
ただ、アリスのセンスが良く流行のデザインなども完璧に取り入れているため、コーネリアのような者から見ると、快人は凄まじくお洒落に見えていた。
シリアス先輩「……サブタイトルが変わった。つまり時間(話数制限)はたっぷり余裕があると……終わったな、コーネリアの胃」