約束のお茶会㊲
起床して朝食を食べ終え、部屋に戻って少しまったりしているタイミングでふと考えた。たぶん今日か明日辺りにマリーさんの元に返礼の転移魔法具が届くだろう。
う~ん、確実に驚かせてしまうし……マリーさんには悪いことをしてしまった。
俺も最初にトーレさんの提案を聞いた時は、安い価格で転移魔法具を作って返礼で渡せるなら凄くいいと思ったのだが、魔法具が完成し封印術式付の梱包を完了させ、一緒に送る手紙を書く段階になってようやく気が付いた……トーレさんの能力を手紙に書けないじゃないかと……。
トーレさんの能力はセーディッチ魔法具商会の中でもトップシークレット扱いであり、チェントさんとシエンさんにも口外しないようにと頼まれている。トーレさん自身も、家族や俺以外の人がいる場所では能力を使うこともないし、口にすることもない。
……まぁ、俺か家族しかいない場面だとかなりくだらないことにもすぐ能力を使うのだが……前も、転移魔法具を作り終えた後で「私の能力ならリプルをもっと甘くすることもできる!」と言って、たぶん糖度を弄ったのだろう、思いっきり甘くしたリプルを作って「甘すぎて気持ち悪い!?」と悶絶していたぐらいだが、あくまでそれは能力を知っている俺の前だからである。
そして、トーレさんの能力が手紙に書けないとなると……送ってもらったリプルとそう変わらない金額、1000Rぐらいで作った転移魔法具だから、価格的な意味では釣り合ってる……という前提が崩壊してしまい、残ったのは極めて高価な純度90%以上の魔水晶を作った魔法具という現実である。
さすがに、元のリプルに対してあまりにも価値が違い過ぎて、マリーさんがビックリするのは予想できたが……でも気付いた時にはもう、魔法具は完成していたし封印術式付の梱包も終えていた段階であり、トーレさんやフュンフさんやゼクスさんに協力してもらって作ったのに、いまさらやっぱり別のものをというわけにもいかなかったので、そのまま送ることにした。
もしマリーさんが恐縮したりするようなら、また今度リプルとか改めて分けてもらえればと、そんな考えで送ったのだが……う~ん、やっぱり、別のものを用意した方がよかったかな?
「……いや別にいいのでは? どうせカイトさんが持ってても持て余したでしょうし」
「いや、まぁそれはそうなんだけど……あとなんでいきなり表れてワイン飲んでんだお前……」
唐突に姿を現してワイングラスでワインを飲み始めたアリスの言う通り、正直転移魔法具は持て余す。俺は特別製のを持っているし、それ以外にうちにはアニマがマジックボックスに入れて持ち歩いている転移魔法具が1個と、それ以外の人が必要な時に使う用として倉庫に入れている転移魔法具が2個……現時点で俺のものを含めて転移魔法具が4個に、俺の部屋には思い描くだけで帰宅できる機能付きの特別製の転移門もあるので……これ以上転移魔法具は、正直いらないし持て余す。
なんなら、イルネスさんとかキャラウェイは自分で転移魔法が使えるので、倉庫に入れてる2個もあんまり使われてない現状だ。
「それにどうせ、別のもの用意したところでなんか予想外のところから胃痛の種引っ張ってくるんですから、意味ないですって……ああ、ちなみにコレ、ワインじゃなくてブドウジュースです。カイトさんも飲みます?」
「あ~ジュースなら貰おうかな」
今日は午後からコーネリアさんに魔物の専用ブラシを作ってくれる商会に連れていって貰う約束があるので、祝福で無効化できるとは言え、人と会う前にアルコールの入った飲み物を飲んでいく気にはならないが、ブドウジュースなら大丈夫だ。
アリスは俺の言葉を聞いて俺用のワイングラスを用意しながら、苦笑を浮かべつつ告げる。
「まぁ、転移魔法具があって困ることはないですし、気にする必要はねぇっすよ。それで、高価すぎる代物によってマリーさんとかリッチ男爵家に圧力や嫌がらせとかかかりそうなら、こっちで対応するので大丈夫です」
「それならまぁ、たしかに……じゃあ、悪いけどなんか貴族的なゴタゴタとかになりそうだったら、助けてあげてくれ」
「はいはい、了解ですよ。まぁ、今回のK案件に関しては、対応が楽な部類なので、アリスちゃんはまったりしてます」
「……対応が大変な部類は?」
「最近カイトさんが、ポンポン引き寄せてる別世界の世界創造主とか絡んでくる話ですね。ガチで個々のスペックが化け物クラスなので……」
「なるほど……」
まぁ確かに、全知全能級とかがゴロゴロいる世界創造主とかと比較すると、貴族間のアレコレの調整なんてアリスにとっては朝飯前なのかもしれない。
???「そもそも、カイトさん関連が予測とか対策でどうこうなるなら、リリアさんやエリスさんはあんな目に合ってないんすよ。なんか対策すると、予想の斜め上から変なの引っ張ってきてボデ胃ブローかましてくるので、むしろ予想できる範囲の動きしてくれてるほうがアリスちゃんは楽です。愉悦してる余裕もあります」
シリアス先輩「いや、愉悦は止めてやれよ……しかし、アレだな、今回の話を要約すると……」
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胃痛の悪魔「よし、マリーはある程度殴ったし、面会系はまだ日程が先だから、コーネリアを殴りに行くか」
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シリアス先輩「……情け容赦なし」